音がない
叫んでみても 響かない

目の前に広がる 広大な紅(くれない)よ

すべてを
優しい光で 奪っていく

どんなに思いを告げても

容赦無く あたたかに紅(くれない)

過去が今に 手を差し伸べて
そっと誘ってゆく

行かないで 行かないで

引きとめる術を知らないから
 
寂しさだけが黒く足元に長引いて

身動きできないでいる

仕方ない 見送るよ

仕方ない 泣いているよ

空と大地の狭間で

一直線のさよならを

ずっと 見ていてあげる

ずっと ずっと 見ていてあげる


私が介護の仕事に就いて、もうすぐ10年になります。
私がこの職に就いて、最初に担当させて頂いた方が、
亡くなられました。
96歳。女性の方。
認知症で、家族も身寄りもなく、施設での生活。

不動明王さんがお好きでしたので、車椅子を押しての散歩に、
私は必ず、不動明王さんのお寺へと寄りました。

手を合わせて、
「あなた、そなた、こなたのお陰で・・・・」が彼女の口癖でした。

彼女には好きな方がいらっしゃいました。
お相手は彼女の主治医でした。
40以上も歳の差がありましたが、
彼女は本当にお好きのようで、
定期健診の時など、声も出なくなるほど、
先生の前では恥らってありました。

私達介護士の間でも、彼女の恋にほのぼのと、
高齢で、あんなに健気に恋ができる事を、
羨ましくも思っていました。

「先生に会いたかよ~」とため息をつかれ、
「こんな姿は、先生に見られたくなか~」など、
ほんとに女性でした。

何年かして、息子さんが訪ねて来られました。
いろいろあったのでしょう、疎遠になっておられたようです。
彼女は息子さんを覚えてありました。
そして、私を紹介してくれました。
「私のね、お世話をしてくれてる人よ・・・」
息子さんは、私に対し、大きな声で「ありがとうございます!」と言われ、
深々とお辞儀をされ、しばらく頭を上げられませんでした。
私は人から、こんなにも深いお辞儀を、生まれて初めて受けました。
一生忘れる事はできません。

私達介護士は、化粧やアクセサリー、香水などをあまり使用しません。
入浴介助になれば、汗やお湯で化粧は剥げますし、
ネックレスやピアス、は認知の方から掴まれた時、危険です。
指輪は介助する時、相手の方を傷つける恐れがあります。
髪が長いままだと、引っ張られる事もあったりで、
ファッション的にはいろいろ制約があります。

でも女です。
職場は色気のない場面ばかりで、そんな気持ちも吹っ飛ぶような、
毎日です。
でも女です。女である事を意識したい・・・
みんなそうなのでしょう。
入浴介助をする時、みんな裸足になりますが、
不思議と多くの女性がペデュキュアだけはしています。

日頃、とても地味な格好をしているので、
そのペディキュアが、とても鮮やかに映ります。

お年寄りの方も、嫌悪感を抱く方は少なく、
「赤い爪、綺麗ね。黒爪もあるの?まあ、可笑しい」と笑われたり・・・
意外と寛容だったりします。

そして、あの彼女です。「私もしてほしか~」
その一言で、私達介護士・・・いえ、女性達が共感を覚え、
施設の女性皆さん、ご希望の方にペデュキュアをするイベントを行いました。

明治生まれの方や、初めてされた方など、とても喜んでおられました。
嫌悪感どころか、笑顔と歓声とで、高齢なんか関係ない、
やはりみなさん、女でした。
映画、タイタニックで、デッキに登り、思い出の青い宝石を投げ込むシーン。
彼女も真っ赤なペデュキュアをしていました。
「女の心は海のように深いの、秘密がいっぱいよ」

私は自分を着飾ることにあまり関心がなかったのですが、
その事があってから、少し勇気をだしてペデュキュアを楽しむようになりました。
お姑さんをはじめ、家人にはかなりのブーイングでしたが、
今も、こっそり続けています。赤や濃い色は抵抗がまだありますが、薄い色。
儀式のように、足の爪に色をのせています。。

彼女との係わりで、もう一つ知り得た事。
般若心経。
彼女の居室にいつもあり、
時々、めくっては唱えてありました。

宗派を問わないとされる般若心経。
とても短いお経です。
私は無宗教ですが、このお経をいろいろ調べていくうちに、
好きになりました。
書いてある内容は、
Let It Beや、ケセラセラ、Take it Easy、なんくるないさ。
のような自分の好きだった言葉とリンクしているようでした。

「私が死んだら、この経ば唱えてな」その言葉が思い出されました。
私のiphoneには、般若心経が入ってます。
今日の夕日も綺麗で、向かって唱えましたよ。

亡くなられた時、息子さんは来られなかったそうです。

ご遺体はご本人の昔からのご希望通り、
検体となりました。

そしてあの不動明王さんのところに行きました。
仏の穏やかな姿では、救えない人がいると、
自らの姿を恐ろしく変え、人を導くとの事ですが・・・
私はその姿が、切なく好きです。
父性を表しているような気がしています。

彼女にはいろんな事を教えて頂きました。
私の介護職の原点です。


今あるのは、あなた、そなた、こなたのお陰です。

ほんとうにありがとうございました。