16.好きなのは・・・ | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

16.好きなのは・・・

「久しぶりに、バーに行かへん?」

親友の誘いに、私はバーへ行くことに決めた。

多分、気まずさだけが私を足止めしていたのだろうけれど、何か、何か理由が欲しくて私は頭に言い訳を沢山並べた。

バーへ行く理由もない。

バーへ行かない理由もない。

彼女から誘われたという切っ掛けさえあればそれでいいのだけれど、何か理由が欲しかった。

意味のない行動こそ、理由が欲しい。


「久しぶりじゃないか?」

バーテンダーの彼に聞かれる。

そう、この質問に答えるための理由が欲しい。

と、言っても理由など見つかる筈もなく・・・。

「ま、いろいろと・・・」

「ふ~ん」

誰も、答えなど望んではいない。

だけど、だけど、私はここに居ることを大切なものにしたくて、意味を見つけたかった。

そして、そんな意味ある今を共有したかった。


帰りの電車を親友と二人ホームで待つ。

田舎の駅はとても薄暗く、星を数える事が出来る。

星の数は思い出の数だと聞いた事がある。

1つ、2つ、3つ、色んな事があったな。

4つ、5つ、6つ、そうだ、彼女に言ってない事があった。

星を数え終わる前に、彼女に伝えたいことがある。


「あのさ・・・」

「ん?」

「ウチさ、好きだと思える人がいる」

「ふーん」

「まだ、好きだと言い切る事ができなくて、どんな状態が好きだと言えるのかもわからない」

「うん、好きになり始めなんてそんなもんやで」

「ドキドキする?」

「ドキドキするな」

「会いたくなる?」

「会いたくてしかたないよな」

「嫉妬・・・するねん」

「うん、普通に恋できてるんじゃない?」

「そう・・・普通に・・・」

「うん、せのりも普通やと思うよ」

「普通」

「うん」

「ウチ、バーテンダーの彼が好き」

「うん、今日そんな気がした」

「そう、判りやすい?」

「恋、してたよ」

「そっか」


7つ、8つ、9つ、10、好きな人ができました。

打ち明けることで、心が余計にときめいた。

明日も彼に会いに行こう。



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