13.企む意地の張り合い | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

13.企む意地の張り合い

いつもの様に、バーの戸を開ける。

そこには、男友達が居てバーテンダーの彼が居て、親友がカウンターに座っている。

一つだけ違ったのは、親友の隣に私が大嫌いな女性がそこに居た事だ。


「久しぶり」

大嫌いな女から声を掛けられた。

私は、不自然な足音を立てながらもその足音に気付かれないよう細心の注意を払いカウンターへ向かった。

目線を何処に置いていいのか判らない。

床を見ては何だか違うような気がして横を向いてみたり、横を向いては何だか違う気がして親友の顔を見てみたり。

こんな挙動不審な私に気付かない女も女だ。

細心の注意はするものの、彼女と一緒に飲むという事には抵抗を感じる。

私は、女と親友が並んで飲む親友の隣の席から1つ席を開け、座った。

「久しぶり、もう最後に会った日も覚えてないわ」

嫌味たっぷりの言葉もこの女には通じない。

だからこそ、私は余計にムカつく。

女が何とも思わない分、仲のいいフリをさせられてしまう。

彼女には一度殴られた事があった。

だからだろうか、私はこの女に対してシカトという選択をする勇気がない。

彼女以外の人間に対し、私はこいつが嫌いなんだというアピールをするくらいで精一杯だ。

そしたら、周りは気を使って助けてくれるから。

「本当に。私も思い出せへんわ。携帯変わったみたいで繋がらへんし、また教えてね」

思い出せない?

思い出したら都合が悪いの間違いじゃないのか?


元々、彼女とは仲良く遊ぶ仲間だった。

仲間だと思っていたのは私だけなのかもしれない。

私は彼女に利用された。

2度の裏切りを許した仲でもある。

ただ、3度繰り返された裏切りに、4度目はなかった。

全てにお金が絡んでいる。

3度目の裏切りを受けた最後の日を思い出せたのなら、5万円は返してくれるのかしら?

いや、総額20万円近くになるお金も返してもらえる?

だが、私は返してもらわなくてもいいと思っている。

その金が、この女を嫌い遠ざける手切れ金になるのなら。

謝って欲しくなんてない。


「あんた誘ったけど仕事っぽかったから、暇してたこいつから電話あって飲んでてん・・・」

語尾を濁らせる親友は、女と私どちらにも気を遣っているようだ。

少し申し訳ない気がして、とりあえず、とりあえず普通に会話を試みようとした。

「うん、今終わったところ。どうせ毎日此処で顔合わしてるんやし」

「ここ、いい店やね。私も通おうかな」

やめてくれ。

それだけは、絶対やめてくれ。

「いい店やろ。でも、あんた仕事終わって此処に来て最終電車まで1時間とないやん」

ナイス!

親友ナイスフォロー。

「そうやな、田舎ってほんま電車終わるの早いよな」


当たり障りのない会話が続き、盛り上がりにも欠け、その所為だろうか二人の酒のペースは増していった。

そんな中、仕事を早めに切り上げた男友達が私服に着替え、私たちに割ってはいってきた。

不自然に空く空席に一瞬戸惑いを見せたような顔をし、親友の顔を見、私の顔を見、何をどう考え理解したのかしらないが、その空席に席を置いた。

同時に私は席を立ち、1つ席を空け座った。

「・・・・俺?」

一瞬の沈黙の後、親友は慌てて答える。

「そう!せのりはあんたが嫌いなの!」

「うそ、いつから!?」

「昨日あんたがパーマに失敗した時から」

「マジで!?これ、似合ってない?な?」

ぷっ、笑いが堪えられない。

慌てふためく男友達を見て、皆が爆笑した。

女もその場のノリで笑える程の失敗パーマである。

テンション下がるわー、と落ち込みをアピールする男友達。

そんな男友達に親友は、まだ冗談を続けるつもりらしい。

「せのりがあんたの事嫌いでも、私がいるやん」

「ほんまに、俺の事好き?」

「めっちゃ好きやで」

「じゃぁ、お姉さん今日これから、どこか楽しいところに行こうよ」

「楽しませてくれるの?」

「何をして欲しい?」

下ネタかよ・・・。

烏龍茶でこのミニコントに割ってはいる理性OFFスイッチは持ち合わせてません。

「なーんか、お二人さん怪しくない?」

女がミニコントに参加してきた。

と、言ってもこの状況で冗談か本心かなんて判るはずもなく、半ば真剣に聞いているのだろう。

おもしろい、この際この二人を苛めてやろうじゃないか。

「怪しいもなにも、毎日彼に家まで車で送ってもらってるんやけど、私が降りた後この二人、いつも楽しい所にお出かけしてるもんな?!」

「それはないよ、ちゃんと直ぐ送り届けてるよ」

私の冗談に酒の入っていない男友達がマジで答えてきた。

そんな焦る男友達をよそに親友は止まらない。

「あ、バレてた!?年下って本当すごい。毎日、毎日・・・思い出しただけで・・・あぁん」

「ちょっと二人そんなことになってたん?そんなおもしろい話隠してるなんてズルイわ」

「ないない。おぃ、何か皆可笑しいし」

「キャー、この子照れてるよ」

女は私たちの冗談を8割がた信じだしている。

男と女がどうなったなんて話は女の大好物なのかもしれない。

それが嘘でも本当でもどうでもいい。

もっと刺激的に・・・もっと刺激的に・・・。


嘘だらけの会話に興奮気味の女は、もう我慢の限界らしい。

その毎夜繰り返される現場に立会いたくなったのだろう。

二人がこの店を出てゆく様を見ることで、女はきっと今宵のエクスタシーを体感するのだろう。

女の言動はその事を裏付ける。

「私、何だかお邪魔みたい。そろそろおいとまして二人を見送ろうかな」

そう言うとすっと席を立ち、二人の後ろを通りすぎ空席には目もくれず私の席に回りこみ私の隣の席へと移ってきた。

「せのりちゃん見て、二人お似合いのカップル」

近い、女が近い。

私は二人をイジめる事に専念するべきか?ギブアップして席を立ち女から身を遠ざけるべきか?

「本当に~嬉しい」

親友が男の腕に手を回し、それでも続ける意志を見せたので私も続ける覚悟を決めた。

「もうこんな時間。早くしないとお楽しみの場所、他のカップルに取られちゃうよ」

そんな言葉に親友は何処まで本気なのか席を立ち始め、男を連れ出しに掛かった。

「そろそろ、行こう。ね。お勘定お願いしま~す」

女はそんな二人に満足そうだ。

「せのりちゃん、私たちも帰ろう」

「うん・・・でも、電車ないよ・・・」

「あ、俺、送ってくから」

ノリに乗れない男の逃げ場はそこだけだった。

そんな逃げ場も崩しに掛かる、女と親友。

「そんな~お邪魔ですから~」

「二人っきりがいい~」

「とりあえず・・・・出よう」


解かる。お酒の入っていない男友達と私にとっては、この状況は厳しい。

だけど、私は・・・おもしろいよ。

散々、あんた達二人の変な企みに苦しめられたのだから。

ま、今も親友の企みの罠に自らかかりにいっているのかもしれないのだけれど。


車に乗り込む4人。

まだまだミニコントは続く。

既にミニではなくなっているような気もするがどうだっていい。

後はさっさと帰って寝るだけさ。


女を送るため、女が住む家の近くにあるカラオケ店へ向かう。

女が家を教えたがらない理由が私にはよく解からないが、とりあえずカラオケ店らしい。

カラオケ店の駐車場に車を一時駐車した。

女は最後まで二人を見送れない事を少し悔やんでいるようだ。

どれだけ待ってもそんな現場に立ちえることなんてないのに。

「この後の事、今度聞かせてね」

しつこい。

さっさと帰れよ。

多分、女を除く車内全員がそう思っていたに違いない。

女は車の戸を開け、やっと変える決意をしたらしい。


油断した私が馬鹿だったのか?

女に手を引かれ、私は車から下ろされカラオケ店へと拉致られた。

「何?どういうつもり?」

「あの二人の邪魔しちゃ悪いでしょ」

「はぁ?冗談でしょ」

「せのりちゃんは、いつも気がきかないんやから!」

振り返ると車はまだそこにあった。

当たり前なのだけど。

「私、帰るから」

「そう言わずに1時間カラオケつきあってよ」

この女、何かんがえてんだか。

強く手を握られたまま、私はどうする事もできなかった。


大嫌いな女と二人、密室。

女は最高のおかずを胸に、気持ちよさそうに歌ってる。

「ちょっとトイレ」

私は、席をたった。

携帯を見ると不在着信が数分前まで何件も続いていた。

親友からだ。

救いを求めるかのように、私は直ぐにかけなおす。


コール音も鳴らず親友は携帯から声を出した。

「あんた、今どこ?」

「カラオケ・・・」

「あいつと?」

「そう!これ、どうなってんの?最悪なんやけど」

「ごめん、こんな事になるとは・・・」

「やりすぎ・・・たよな」

「あんなにあんたも乗ってくるとは思わんかったし」

「どういう意味?」

「ん、まぁ、とにかく迎えに行くから、何とか誤魔化して出ておいで」

「わかった」

やっぱり、親友は私に嫉妬なんてやかせようと企んでいたらしい。

お互いの意地の張り合いがこうなってしまったんだろうけど。

それにしても、最悪だ。

大嫌いな奴と密室なんて・・・。


用ができたからなんて詰まらない嘘を女に吐き捨て、返事も聞かずにカラオケ店を出た。

調度、男友達の車も到着し、私は直ぐに駆け寄り飛び乗った。

「地獄かと思った・・・」

そう言ったのは本心だったが、私はこの後本当の地獄のような世界に紛れ込む。

私が、女とカラオケ店にいる間、二人がどんな話をしてたかなんて、全く考えもしていなかった。

二人の企む惨い最終幕が開く音に、私は女からの解放の安心感で気付く事ができなかった。



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