11.友達という空気 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

11.友達という空気

< 今日はありがとう。楽しかった。あいつから勝手にメアド聞きだしてしまいました。ごめんね。 >


海へ行ってきて家に帰ってしばらくした後に、知らないメアドからメールが送られてきた。

今考えると誰のものかなんて直ぐに判りそうなものだけど、何度も何度も読み返しそれでも解からないフリをしたのは何故だったんだろう。

返事もせず、受信メールを開いたまま携帯を閉じた。

そして、そっと携帯を机の上に置いた。


何度も何度も読み返したのは、メール本文だけじゃなかった。

登録されていない差出人欄はメアドをむき出しに、自分が誰なのかを訴えていた。

あなたは誰?

バーテンダーの彼?

それとも、プーさん?

それとも・・・私はこんな女性の名前は知らないよ。


返事・・・しなきゃ・・・。


その翌日も私は、義務付けられているかのようにバーへ向かった。

店には親友もいて、前日の海の話で盛り上がっていた。


「楽しかったよな」

「二十歳越えてからあんな無茶したん始めてかも」

「俺は疲れたけど」

「せのりは、ずっと寝てたな。もったいない」

「海、綺麗やったで」

「ごめんなさい」

「ほんまによ、俺、足痛いわ~」

「重かった?」

「あぁー重かった!」

「そんなに重くは・・・」

「嘘うそ!もっといっぱい食べて太った方がえぇかもな」

「せのりは昔から、1回寝たら起きひんもんな」

「ま、まぁ・・・」

「こいつ、ずっと寝てて学校こうへんかったんやから」

「今度はちゃんと起きとく」

「うん、またどっか行こうな」


友達ってこんな風にして作っていくのかな。

とても新鮮だった。

気付いたらそこに居たみたいな、そんな臭い空気が漂ってる。

逆ナンして、恋愛ゲーム失敗したような友達ばかりだった。

こんな何でもない友達って良いなって思った。

だけど、既に私はこの素敵なお友達の空間には似合わない、恋愛の敗北者だ。

友達・・・私は、男を何故そんな風にみれなかったのかな。

今からでも間に合うだろうか。

好きなんて気持ち捨て去って、一生友達で居られる術を私に与えて欲しい。

ずっと一緒に居られるなら、私はそんな選択をする。


「ねぇ、プーさん好きなん?」

親友がバーテンダーの彼にそう聞いた。

メアドの事だと直ぐに気がついた。

プーさん・・・それはフリ?

それだけにして、お願いだから。

それ以上は絶対に、聞かないで欲しい。

「おぅ、プーはかわええやろ」

「イメージないよなぁ」

「なにを!プー丸出しやんけ」

「どこがよ!全く抱きしめたくないしな」

「俺、プーやったら全部もってるし」

「キモッ」

「キモイ言うな」

「でもさ、せのりが誘わへんかったら、こんなに仲良くなってなかったよな」

「そやな、俺、一切彼女以外の女性と遊ばへん主義やし」

うわー、親友が聞かなくても自ら彼女の話始めちゃったよ。

聞きたくないな。

帰りたいな。

話の流れ、変えたい。

「え、浮気とかせぇへんの?」

も・・・盛り上がってきてる・・・最悪だ。

「せぇへんよ」

「嘘、うそ~」

「俺、結構一途やねんから。な?」

「先輩は彼女一筋です」

「ふ~ん、見えへんよな。な?」

「え?!あぁ、浮気ね。多分、本気になっちゃうんじゃない?」

「そうそう、遊ばへんなんて、自己防衛やわ」

「かもな!でも傷つけたくないから」

「はぃはぃ、優しい方ですこと」


人ってすごいな。

どんな能力でも発揮しちゃう。

私、この時、耳の戦闘力かなり高かったはず。

耳にすごいフィルター張ってた。

防御率100%。

叩かれたってびくともしなかったよ。

全く聞こえない。

何も聞こえない。

どんな話してるかなんて、全く聞こえなかった。

無口な彼に戻ればいいのに。

私だけに話しかけてくれる、そんな彼に戻ればいいのに。

でも、相変わらず、あまり笑わないんだね・・・。


この日から、私は電車のある時間に変えるようにしていた。

誰かに送られる。

その誰かを何だか選べないでいたから。

きっと成り行きで男友達が送ってくれるのだろうけれど、何だか嫌だったんだ。


賑わう店内に少し後ろ髪引かれながら、家へ帰った。


この日を境に、彼からよくメールが来るようになった。

電話も定期的にくる。

何でもない話。

それに私が答えるだけの毎日。

私じゃなくてもいいような、そんな手ごたえのない言葉達。

大切にしまっておきたい筈の言葉達は、ポケットの穴から零れ落ちていた。

彼と、どんな話したっけな・・・思い出せない・・・。


「バーテンダーくん、せのりの事気にいってるよね。私、アレっきりメールないもん」

親友はそう言うけれど、勘違いだと全面的に否定した。

「でも、あいつとせのりじゃ合わんよな。あいつには手に負えない」

私はどれだけ問題児なんだよ・・・。

でも、親友の見解は当たる。

私の事、私以上にしってるもの。

「友達になったのも不思議なくらいやもん」

そうなのかもしれないね。


よく考えてみたら、私は何でバーテンダーの彼が好きなのかよく解からない。

やっぱり、顔だけだったのかな。

親友が言うように、私が本当に好きになるような男のタイプではないのかな。

そうだったのなら、きっといつか恋心も冷め切って、いいお友達になれるかもしれない。

きっと、そうだよ。

そうに違いない。

大切にしよう。

友達という関係を。



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