9.企みの影 | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

9.企みの影

指輪を胸元に光らせた親友とバーへ向かう。

その首は締め付けられたりはしないのかい?

私は絶対に好きでもない男から貰った物なんて首にはつけられない。


店の戸を開けると、男友達の友達もいて三人で飲むことになった。

そして、早くも仕事を終わらせた男友達が着替えを済ませ親友の隣に席着く。

「これから四人でカラオケでも行こうさ」

親友が言い出した言葉は男たちを沸かせた。

返事をしていない私は後に続くだけだ。

来て早々、私たちは店を出る。


当たり前のように親友は、男友達の助手席の戸を開ける。

私はどうしようか・・・。

迷いながらも、男友達の友達の車の助手席の戸を開けた。

「せのりちゃん、向こうのらへんの?」

「こっちに乗ったらあかん?」

「えぇよ。行き先は決まってるしな」


結局どちらでもよかった。

この友達もナンダカンダでうるさいし・・・。


「せのりちゃん、しっかりしなあの子にあいつ取られるで」

「だーかーらー!勘違いやから!」

「好きなくせに」

「って、それは誰から聞いたの?」

「だって、あいつ言うとったで」

「はぁ?あいつが?」

「うん、せのりちゃん、俺の事好きかもしれん、どうしよ~って」

「自分で?勝手に?思い込んでるわけ?」

「あはは、あいつヒドイ言われようやな」

「そうやろ!だって」

「なんか、あいつに好きって言うたらしいやん」

「はぁ?いつ?」

「いつかはしらんけどよ~、言うたやろ?」

いつだ、思い出せ・・・何の話をいってんだか・・・。

全く思い出せない。

ってか、考える必要なんてない。

多分あれだろ、人として好きだって私は男友達に言ったんだろう。

「その話、知らんけどさ、私はあんたの事も好きだよ」

「うそ!ちょっとやめてよ」

「はぃはぃ、焦らない」

「焦るっちゅうねん」

「私は、あんたの優しさが好きだよ」

「なんや、人間としてか」

「当たり前!」

「ってことは、完全にあいつの勘違いってことか?」

「そう!解かった?」

「ふ~ん、でも俺、あいつとせのりちゃんが付き合ったらおもしろいと思うけど」

「人を使って楽しまないで」

「でも、もう少し押せばあいつ落ちる気がするけどな」

「落ちても、こっちが困るから、もうやめてね」

「了ー解。でもさ、あいつ皆に言うとるで」

「うそ・・・何か最低な男に思えてきた」

「俺から謝るから、俺の親友をそんな風に言わんといてくれよー」

「ごめんごめん」


多分、親友は男友達から聞いたのだろう。

二人して何を企んでいるんだか・・・。

何か腹が立ってきた。

男友達はその気もないのに、私にどうしてほしいんだか。

何故やつらは私に吐かせたがっている?


4人のカラオケは朝まで続いた。

親友と男友達は、べったりだった。

恋人同士みたいだった。

楽しいか?

そんな演技みたいなことをして。

聞きだしたい事があるならさっさと言ってしまえばいいのに。


「あいつら、キモイな」

帰りの車内で男友達の友達がボソっと言った。

「せのりちゃんの気持ちも解かったからはっきり言うけど、あいつ好きな子おるしな」

「知ってる」

「そやのに、あいつ何やっとんねん!」

「好きとか関係なく、見てたら腹立つやろ」

「解かるわ、せのりちゃん」

「だろ!」

「もうあいつにはっきり言うたれよ」

「どうやって」

「あんたなんか好きじゃないのよ、ば~かって」

「親友傷つけてもいいの?」

「それぐらいしたってもえぇやろ!」

「よし、わかった」

「俺、あんなん見せられたらあいつの好きな奴にチクリそうやわ」

「あ、それだけはやめてあげてね」

「優しいなぁ~せのりちゃんわ」

「あほ!お前もキモイわ」


なんだか、味方が出来たみたいで嬉しかった。

もう直ぐ誤解もとけるかもしれない。

さっさと、あんな最低な男からは手を引きたい。

ムカつく、ムカつく、ムカつく。


カーテンも閉めずに出かけた部屋の窓から朝日がさす。

腹立たしさと眩しさで目が覚めそうだ。

カーテンを閉め、化粧も落とさず眠りについた。

そんな明日もまた、私はバーへ遊びにいくのだ。

何故って?

理由なんてない。

今はそこが私の全てだから。



← 8 ]  [ 目次 ]  [ 10 →