58.手を繋ぐ | 彼女じゃない恋愛*愛した男には彼女がいた

58.手を繋ぐ

カラオケを2時間くらいしていただろうか。

そこへ彼の携帯がなる。

「出てもいい?バーの店長、覚えてるやろ?」

しばらくの間話していた彼が電話を切った後困った顔で話しかけてくる。

「どうしようか・・・」

「どうしたん?」

「明日な、ソフトの試合やねん」

「まだ続けてたんや」

彼はバーで働いていた時から、店の草ソフトチームに所属している。

「あぁ、社会人になって唯一スポーツできる場やからな」

「で?」

「今から店長来るって・・・」

マジでか!?

最悪。

「いいやん。久しぶりに店長にも会いたいし」

「怒んなよ」

「怒ってない!」

怒ってた・・・。

彼といると言葉に感情がのる。

無感情と言われ続けた私が不思議なくらい彼には素直になれる。


そんな話をしていると、バーの店長が私たちがカラオケをしている部屋の戸を開けた。

「お邪魔やったかな?」

「いや、入ってください。歌います?」

「俺はいい」

バーの店長は「暑い、暑い」と言いながらずっと空調を弄っていた。

「顔が怒ってるで」

彼が私の耳元で囁く。

「可愛い顔が台無しやで」

彼が私の耳元で囁く。

「馬鹿!」

私は大声でそう言った。

空調を諦めたバーの店長は今度はメニューとにらめっこ。

「店長、お腹空いてるんですか?」

「あぁ」

「じゃぁ、ファミレスでも行きません?」

「えぇんか?まだ時間あるんちゃうん?」

「いや、もう歌いませんし、な?!」

「うん」

歌う気はない。

機嫌が悪い。

でも、食べる気もまったくないから・・・。


私たちはファミレスへ行った。

U型になっている席の方端に店長は座り、早速、メニューを広げている。

「奥行けよ」

彼が私に言う。

「嫌や」

私は今度はこっそり彼に言う。

端っこ好きの彼は知ってる、だけど・・・店長やだもん。

私はちょっと店長が怖かった。

真っ黒でガタイがよくて少し怖い。

優しいってのは、私も良くしっているのだけど・・・。

「奥っていうか、店長の隣に座ってこいよ」

そんな彼のセリフにムカついた。

「解かった」

私は、ムスっとした顔で店長が座る逆側から奥につめ始める。

そんな私を見て彼は私の手をギュッと握って引き止めた。

「もっとこっちにおいでよ」

私を引き寄せて、ずっと彼は私の手を握っていた。

手・・・あったかい。


初めて・・・手を繋いだ。

初めて・・・握った手に意識した。

私は自惚れてもいいのかな・・・。

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