15.開く心閉じる心
人を信用できない私が、10年近く親友と一緒にいるのは多分、親友が私を見ていてくれるからだと思う。
そんな親友に安心しているのだと思う。
だけど、私はそんな親友を視ている。
もう少し、私も親友の姿を見る事が出来たらなと思う。
親友は、私の心の中に踏み込むようなことはしない。
私は心の中を、見せる心と見せない心と選んで親友に見せる。
多分、どんな人もそうやって生きてると思う。
だけど、それをどう受け取るかで違ってくる。
見せられたままを受け取る人や、見せられたものそしてその裏にあるものまで受け取るもの、裏だけを見ているものいろいろだ。
親友は見たものを全てにする。
裏に気付いたとしても、打ち明けられるまで見ていないものとする。
だから、私は安心して彼女の側に居られるのかもしれない。
私も、親友の心の中に踏み込むことはしない。
だけど、私は彼女とは違って嫌でも裏が見えてしまう。否、視えてしまう。
そんな裏の彼女を勝手に曝け出すことはないけれど、決して視ていないフリなどはできない。
だから、彼女の見せた心を否定してしまう。
裏などあって当たり前のだ。
裏がなければ表もない。
だけど、あたかも表しかないように振舞う人間を私は好かない。
信用できない。
裏を見せろとは言わない。
寧ろ見せて欲しくはないが、私が裏表のある人間なので、同じであって欲しいとただ願うだけなのだ。
親友は私の事を何でも解かる人だと絶賛するが、私からすればあなたが解かり易過ぎるのだと思う。
お互いがうまくいっていた。
いいバランスだった。
あれから私たちの間には、気まずい空気が流れていた。
彼女の心を感じる。
私は、彼女が絶賛するほど自分の感受性を評価していない。
何故だか解からないけれど、卑怯に思えてならない。
だから、素直にはなれない。
自分の心がそこにないような気がするからだ。
例えば、周りに言われてからじゃないと謝れない奴っていないだろうか。
全く自分のした事に対して気付くことの出来ないやつ。
仕方ないので指摘してやると、すぐに謝ってくる。
本当に悪いと思ってるの?そんな風に思ったことはないだろうか。
私は自分をそんな風に思えてならない。
自分の気持ちよりも先に、相手の気持ちを知ってしまう。
私は多分それに合わせているだけなのだろうと思う。
悪い事をしたからごめんなさい。
傷つけたからごめんなさい。
利口なようでそうじゃないような気もする。
私は人の傷を視なければ謝れない人間なのだろうか・・・。
私はちゃんと心があるんだろうか・・・。
感受性なんてあってないようなものなのだ。
私が一番人の気持ちが解からない人間なのだ。
家と仕事場の往復。
用がない時は家にこもる毎日を過ごす。
部屋で本を読み、何も考えないようにしていた。
そんな日が続いたある日、電話がなる。
携帯の液晶には、親友の名が点滅している。
どうしよう、何を話したらいいのか解からない。
「もしもし、せのり?最近バー行ってる?」
「行ってないよ」
「何かごめんな」
「うん」
「でも、私の事も解かってくれるやんな?」
「隠し事?」
「うん、何か恋してるせのり見て嬉しくなってんな。ほら、今まであんまりいい恋愛じゃなかったし・・・」
「好きじゃないから」
「あ、そうやった」
「うーん、あんまりうまくは言えへんけど、あんたみたいに自分の気持ちに直ぐ気付けるタイプじゃないねん。男を好きかもしれないと思っても、本当なのかって心の中でずっと戦い続けてる。そんな状態で、誰かに聞かれたとしても答えることは出来ない」
「ごめん」
「いいよ、終わったこと」
「でも、せのりは人の気持ちはよーく解かるのに、本当自分の気持ちには鈍感やね」
「何かが邪魔してるんじゃない」
「解かる気はする」
「今度はちゃんと人を好きになりたいと思ってる。だから、言えるようになったらちゃんと言うよ」
「うん、もう急かしたりせんから」
私の精一杯の謝罪だった。
何でもお見通しね、そう言われない為の謝罪。
彼女が望む答えを出せた、そう思うんだ。
それが、私の卑怯なところかもしれないのだけれど、そうする事しか私にはできなかった。
素直に謝れる彼女が羨ましい。
彼女を見ていると、何でも許せてしまう。
心の温かい人間だ。
私はまた彼女に傷を負わせてしまった。
人を傷つけながらでしか自分の非を認められなくて、謝ることを嫌がる過剰な執着。
私は人を悟ってるわけじゃない。
ただの思い込みが当たるというだけの話。
心が聞こえてくるわけじゃない。
ただ、思った通りの事がおこるだけ。
先をよみ、相手が落ち着く道へと導き出す。
これで、良かったのだろうか。
こんな私を許せる親友は、私の心を視る事が出来る人間なんだろうか。
うん、視えてない。
視えている人間は直ぐに解かるから。
彼女は私の思う通りに動いている。
別に誘導しているわけではないけれど、そう、単純。
否、言葉がわるかった。
純粋な人間だ。
彼女は彼女の思いのままに動いていて解かり易い。
私は彼女に何を見せてる?
私が見せてる心は極一部にすぎない。
そんな人間を多分私は許せないだろう。
彼女は私の何を見てる?
彼女にもう少し心の中を見せよう。
もっと彼女に近づこう。
心が開くと感受性というものは弱まることを私は知っている。
ただ、人の心が見えないと怖くて、心開けないだけ。
感受性なんてものは弱くて充分。
そんなものはいらない。
もっと心を温めたい。
そしたら・・・人を愛せるようになると思うんだ。