【 あおいどんぐり】

この街に来て随分経つのに、初めてきた公園
連休明けの午前中 ゆっくり歩いてみることにした

秋空の下 ゆっくり歩く 歩幅も狭くゆっくりゆっくりと
あ~ぼくは ゆっくり歩くってことに慣れてないんだってつくづく思う でも意識的に時間の制限なくただゆっくりとゴールも決めずにゆっくりと   

広い芝生のグラウンドの周りにいくつかのベンチ
風は少し冷たいけれど陽射しは強く 日陰のベンチをめざして歩く ゆっくりと

噴水の音がする方へ歩く ゆっくりと
木漏れ日が心地よくて見上げた先に どんぐり?


考えてみたら ぼくは茶色くて地面に落ちているどんぐりしか見たことがない   だから どんぐりだ!って確信が持てず 背伸びをしてよーく見た


どんぐりだ! 
帽子をかぶったあおいどんぐり(みどりだけど)

ぼくは この歳まで こんなことも知らずに 過ごしてきたんだ  そんなことをえらくしみじみ思いながらあおいどんぐりのしたのベンチに腰をかけた

いままでやったことがないことをやってみる
 行ったことがない場所でやってみる これが今回のぼくのミッション

何度も読んで数日後には初めて舞台も見に行く『ペコロスの母に会いに行く』とみんなのとしょかんで出会った『ぼくを探しに/作;シルヴァスタイン』の2冊をここで読む 外で読む 声に出して読む   それをするつもりだった

散歩をして本を読む ただそれだけのことを「ミッション」と銘打つイベント事にするぼくは何なんだ  あらためて苦笑いも出る  だけどぼくにとっては チャレンジなんだ

ベンチに腰をおろして辺りを見る
犬の散歩 ベビーカーを引きながらあんよの練習の母子 大学生らしきカップル ランニングに励むダンディー 初めてのお産に備えてウォーキングの妊婦さん 平日の午前中ってこんな風景もあるんだとここでもしみじみ

グラウンドの真ん中あたりで少年が1人テニスラケットでボールを打って遊んでいる  遊んでいるというより時間つぶし
っあそうか 今日は学校は秋休みなんだ
友達と待ち合わせで 早く着いてしまったんだな  なぜかぼくも時計をみる 9時55分  てことは10時に待ち合わせなんだな
ボールを打っては取りに行きまた逆方向へ打っては取りに行く 合間に辺りをキョロキョロ  近くに彼の自転車とバットがささったリュックが置いてある 準備は万端のようだ

犬の散歩の人はいつのまにかグループに膨らんでいて お互いの愛犬を褒め合い談笑している

彼はラケットを置いて 秋空とキャッチボールをし始めた 青空に向かって真っ直ぐに高く そしてまっすぐに落ちてくるボールをキャッチする 何度も何度も辺りをキョロキョロ見渡しながら

ぼくはまた時計をみた 
10時08分  友達は待ち合わせに遅れてるのか   
ぼくはミッションどころではなくなっていた   

遠くのグラウンドの入り口から 小学生の男子が2人で歩いてきた   ぼくは何故だかほっとした

彼も1人キャッチボールの手が止まり入り口を見ている
顔が前に出て友達なのか確かめているようだ   
2人は 距離を置いて楽しそうにキャッチボールを始めた  どうやら彼の待ち人ではないようだ

彼はそちらをチラチラ見ながら またラケットを持ってボールを打っては取りに行く    

そうか 彼は待ち合わせではなかったんだ

しばらくして 彼はラケットも置き 自転車に座りリュックの中から何かを取り出した  スマホか ゲームか  だけど
今どきのそれとも違い集中しているようには見えない

彼はこの公園に遊びにきたんだ  友達と約束してたのか 1人でか 誰かに会って一緒に遊べることを狙ってか   

ぼくは こころで彼に声をかけた
「ボール打って ぼくのところに転がしてよ」何度もこころで声をかけた     「ねぇ キャッチボールしよう」って声をかければいいのに        昔のぼくなら 何のためらいも深読みもなく声をかけていただろうに

愛犬家のグループは楽しそうに褒め合い
遠くでは親子や友達同士がワイワイと遊んでいる   その周りを自分のペースでひたす走るランニングマン   こんなに広い清々しいはずの空間で ぼくは彼の背中を見続けていた

やがて彼は諦めたように バットとラケットをリュックにしまい自転車をゆっくり起こしリュックをゆっくり背負ってゆっくり自転車を漕ぎ出した    ゆっくりゆっくり 誰かが声をかけてきたらすぐに止まれるくらいにゆっくり ふらふらとゆらゆらとペダルをこぐ   グラウンドの外周の途中で 小学生の男子2人の脇を通りかかったところで一瞬立ち止まった  ちらっとみて一呼吸ついてまたゆっくりと漕ぎ出した   公園の出口で左右どちらに行くか一瞬ためらいぐっとペダルを踏み込んで右へと曲がって見えなくなった

彼は 寂しくなんかなかったのかもしれない 何も望んでいなかったのかもしれない  ぼくの勝手な妄想癖が孤独な少年に仕立て上げたのかもしれない 

結局 本を読む気にもなれなくなって ベンチをあとにした

大学生のサークルか 本格的にキャッチボールを始めていた  父が娘にバトミントンを教えている 近くの保育園のチビ組さんがお散歩でピヨピヨ遊んでいる  きっとこれが巷の日常    

ぼくは この公園に何かを期待していたのかもしれない
誰かに声をかけるぼく 誰かに声をかけられぎこちなくも談笑するぼく  誰かと交わるきっかけと勇気をこのミッションに込めてたのか    いつからぼくは ひとと交わることにこんなに臆病になったんだろう  ぼくはいつからこんなに……

あの少年は 夕飯の時 どんな話をしてるだろう 今日あった出来事を 今日思った気持ちを誰に話しているだろう

今 ぼくは何を求めて何を探してもがいているんだろう
なにをこんなに怯えているんだろう
きっと                          そうなんだろうな 🐾🐾