すっかり前の話になってしまった。大学にいったり風邪をひいたりしているうちに今年も後半戦じゃないか。
比較的前半戦に見てきたレポがそのままになっていたので、アップするだけするのである。
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小林賢太郎をご存知だろうか。
お笑いコンビ「ラーメンズ」の片割れ、漫画家、劇作家。
単純なところを書けばこんなところだろうと思うが、その夜の彼は一流のパフォーマーであった。
2013年6月29日、いわきアリオスにてポツネン「P+」を観た。
小林賢太郎に関わる自らの経験といえば、6年前の高校演劇発表会でラーメンズの作品を4本、オムニバスにして上演したことだ。彼のコント作品は戯曲集としてすでに三冊発売され、一部は文庫本になるほど長く人気がある。件の戯曲集を購入したのはまだ中学生のときだったが、そのときから彼が作り出すものは、コントというお笑いとしての枠を超えたものではないか、どちらかといえば演劇に近いのではと思っていた。(実際に、2002年からKKPというプロジェクトを立ち上げ、定期的に演劇作品を発表している。)相方の片桐仁は個性派俳優として活躍しているところもみると、やはりこれらを仕掛けている人物=小林賢太郎というひとも一筋縄ではないのだ。
さて、このポツネンというライブの形態について少々説明すると、その名の通り小林賢太郎その人ひとりが「ポツネン」と舞台に立って、短い作品を連続で上演する、というものだ。「ひとりの演者が次々と別の話をする」という点では、落語の演劇版といえるかもしれない。今回の「P+」は昨年ヨーロッパ公演を行った「P」の凱旋公演であるため、ところどころにフランス語訳がついている他、見てすぐ分かる作品が多いなど、ワールドワイドな表現が目立った。
大きく分けて4つの作品が上演されたが、特に気に入ったのは「んあえお」だ。このタイトルは作品の内容から私がつけたものなので、実際には違うと思われる。(上演中でのタイトルの発表はなかった) ごく単純な構成で、「ん」「あ」「え」「お」の4つの音だけで様々な状況を表現するのだ。
例えば、
「んー?あぁ……えっ?おー」と人の話を聴いてみたり、
「んー!あー!えー!……おぉ」と開かないドアを開けようとするのである。セットは必要最低限のもの(スクリーン代わりの壁)以外はなにもないので、全ての動きはパントマイムだ。
確かにこの4つだけでも、その状況は通じるものである。最近の演劇ではとくに言葉にこだわった作品を観ることが多いが、こうしたシンプルで洗練された作品を見ると、言葉というのは必要で大切なものかもしれないが、頼りすぎてはいけないのではないかと思う。人間は言葉だけで会話するのではなく、身体も使って表現するものだから、人を描こうと思ったときは、言葉と同じぐらい身体でどう伝えるかを考えるほうがいいのだろう。そのための身体は常に鍛えて、しなやかにしておかなければいけないし、いつでも声を出せるようにしないといけない。
ただ、それと同じぐらい大切なのは、発想だろう。作り出す人間にとってはそれほど失って悔しいものはない。今回のライブにはアンコールがあり、そこで披露してくれたのは「手の奴」というものだった。この作品のタイトルはその場で発表されたので、正しいはずだ。
ポツネンで必ず上演される作品に「ハンドマイム」というものがある。まず14型ぐらいのモニタにイラストが横スクロールで表示される。それにあわせて、小林氏の手が歩いていく。さらにその様子をカメラで撮影、そのまま会場の大きなモニタ(もしくはスクリーン)に投影するという手法の作品だ。音楽だけでセリフはなく、基本的に出演者は小林氏の手だけ。本人曰く、「やっている方は大変」だそう。そりゃそうだ、10分近く自分の手をピースにして歩いているように気をつけて動かさなきゃいけないんだから……
小林氏は昨年のヨーロッパツアー中、「もっと日本を歩かないと」と思ったそうで、この「手の奴」は東海道五十三次を全部回るというものだった。日本橋から始まり、品川、川崎、神奈川……と、各地の宿場をめぐるものの、早々全部に名物があるわけでなし(笑)なにもないところもあれば、なぜかセロハンテープ工場のことだけが大きく書かれている箇所もあった。動く映像の前で手が歩いてみたり、人がルームランナーで歩いてみたり、そうするだけで自分も伊勢まで行った気分になる。あくまで気分になるだけでも、いいんじゃないかな。演劇だもの。
「憧れのあの人」の舞台。これからもっとそういうのを観る機会が増えるだろうか。というか増やしたい。
次の目標は大人計画だ。
ではまた。