♪ メイのくれたメールには、僕の楽譜を読む時にそれぞれの響きを確認して、それを繋げて曲にしていく…と言う素敵なエピソードがあった(こういうのが嬉しい)。
僕は最近 集中力が落ちているから時々キイボードを使う事があるのだが、それでもスコアを最初に読む時は何も使わず サ~と眺めて確める。


それでマァほとんどは解るのだが(超現代音楽なんかは別)、他に音がしてると困る。


まれに近くのドトールで楽譜の清書をしたりする事があった(B4版のスコアを3ページ拡げて確かめられる大きなテーブルがある)が、BGMよけに耳栓をしていた…。その店は朝4時から5時まで休むだけの川越街道沿いの店なのだが、僕は4時近くまで清書して引き上げる…のだが、ある時店内に僕一人の時は 店長がBGMを消してくれるようになり有りがたかった。今はダメだが。


時が美しく流れていた頃のはなし…。
 

銀座には馴染みのバーが昔3件あった。ダンクバール、クール、ルパン。

今残っているのはルパンだけだが、代替わりして味が変わってしまった。仕方無い事だが寂しい。が、BGMがない!と言う一点は変わらない。銀座に限らずバーで音がないのは貴重で嬉しい。
今思うとアメリカでもヨーロッパでも、ホテルのラウンジやバーは静かなところが多かった。


メイは、ずいぶん前に本八幡の店で僕がピアノを弾いた時の事を覚えているらしいが(何弾いたんじゃアタシは?)、ヒューストンで泊まったホテルでは大きなラウンジで初日にちょいとピアノ弾いたら もうダメさ!名物ヒューストンスタイルのブラッディマリーを僕が行くとピアノの左に置いてくる…。毎日だよ…。弾いてて1杯目がなくなるとトリプルマティーニがくる…。30分で酩酊ピアニストである…。最初にサマータイム弾いたのが良くなかったんだな、多分!

再び、時が美しく流れていた頃のはなし。


その昔、銀座4丁目の山野楽器でプーランクの即興曲集のスコアを買って、いそいそとルパンに行った時の事。

 
まだ開店直後の事で、馴染みの名バーテンダー高崎さんはボトルを磨いていたりしたが、会釈を交わし、すぐ定位置のカウンターいちばん奥のストールに陣取ると、楽譜を拡げる。


左にはガレの茸型スタンドがあり(今はない)、その柔らかい光の下でプーランクがエディット・ピアフに捧げた、枯葉に良く似た美しい即興曲のスコアを読み始めた。 
そっと高崎さんがレモンピールを落としたジンソーダを置いていって下さる。


全曲を頭の中で鳴らし終わり、しばらくじっとしていた。
 

プーランクは、ガレの作品とは親しい時代の作曲家。ルパンはガレと同じく戦前のアールデコの建物のままだ(昭和初年に建てられ 奇跡のように焼け残ったからね)。


ガレの光の下、プーランクの枯葉を最高の演奏で頭の中で鳴らす。舞台はルパン…。至上の幸福の瞬間だったかもしれない。

 
いつもなら 2杯目はドライマティニーかギブソンを頼むのだが、シャルトリューズをオーダーした。

 
高崎さんは一瞬意外な表情をなさったが、実はこの方、詩人なのだ。すべてが幸福な時間にふさわしいリキュールである事をすぐ理解して、ルパンならではの古風だが飛びきり美しいリキュールグラスに、溢れんばかりに(ルール違反だが 仙楽shotなのだ)注いで下さった。

思い出は 夢の中へとくだけ散り 風に舞いつつ 幻と消え  仙楽
 

◎→ピアノをたしなむ美人の看護師メイからの返事では、昔本八幡のバーで私が弾いたのは偶然ながら本物の「枯葉」(ヨゼフ・コスマ作曲)で、演奏中に店長が寄ってきて もっと色々弾かされたような…。やれやれ。