喫茶店。
吸わない人にはわからないと思うが、本当に困る。
必要なものが減っていく。
街中のトイレが次々に撤廃されていくようなものだ。
大通りの地面には駐車禁止のごとく喫煙禁止のマークが貼られ、こんな工事をする暇があればクソして寝ろと言いたい。
タバコを吸うために喫茶店に入った。
マスターにホットコーヒーを注文し、冷たいおしぼりで顔を拭く。
涼しい店内で一服。
フゥー。
タバコがうまい。
ニコチンの充電が満タンになり、立ち上がる。
会計をすませて店のドアを開けたところで、マスターが追いかけてきた。
マスター「あの、コーヒー、飲まれないんですか?」
あわてて席に戻り、手を付けぬまま冷めてしまったコーヒーをガブ飲みして店を出た。
マスターは、こいつ信じられない、俺が精魂込めて淹れたコーヒーをこの野郎、クソして寝ろ、という顔で俺をみた。
申し訳ない。
クソして寝ます。
稀勢の里。
両国国技館で大相撲夏場所が行われている。
11日目が終わった今日、日本人力士が優勝争いで単独トップに立っている。
稀勢の里(きせのさと)。
本名、萩原寛(はぎわら ゆたか)。
俺のかつての推しメンである。
稀勢の里を初めて見たのは6年前、2006年。
その年、俺は大相撲を初めて「生」で観に行った。
観戦メンバーは父、兄と、兄嫁の父、俺の4人。
俺の相撲知識は15年ほどストップしており、さすがに少しは勉強しようということで、
駅のホームでスポーツ新聞を買い込んでから現地入りした。
初めて見る大相撲。
朝一番で入場したこともあり、まだ体もできていないヒョロヒョロの兄ちゃん達の取組を見つつ、まずは弁当をたいらげる。
そして日本酒を飲みながらの観戦。
親父と俺はガンガン飲み続け、泥酔。
まだ観客の少ない場内に、親父の声援が響いた。
親父「相撲を休もう!ガハハハハ」
そして我々は爆睡した。
なんとなく周りが賑やかになったので眼を覚ますと、すでに十両の取組が始まっていた。
あれだけあった空席がほとんど埋まっている。
相撲好きの兄が言った。
兄「ここからは目が離せんぞ」
幕内力士達が土俵に上がる。
その時、場内に大歓声が響いた。
「稀勢の里~」。
それが、俺と稀勢の里との出会いだった。
いわゆるアンコ型の、いかにもお相撲さんタイプ。
赤ら顔のその力士は、口をへの字にして声援を受け止めていた。
パンフレットを見ると、まだ19歳。
そんなに若いのに、もう三役の「小結」を務めている。
相撲の番付では三段目や幕下、十両と色々な段階があるが、幕内では西と東の前頭がズラリと並ぶ。
前頭の中でも場所ごとの成績で番付が落ちたり上がったりの熾烈な争い。
そもそも相撲取りになっても幕内に入れるのはごくわずか、ほんの一握りだ。
ほとんどの力士はその下の十両に上がることもなく引退していく。
そして幕内に入る天才達の中でも強烈に強い力士が小結を、さらに強い力士が一番上の関脇を務める。
そんな戦いの中で最上位の関脇をキープしつつ、上位陣を相手に3場所で33勝以上を挙げるという偉業を成し遂げた者だけが「大関」に上がることができるのだ。
大関とはこれはもうとんでもない怪物でスーパースターなのであるが、さらにその大関で2場所連続で全勝優勝もしくはそれに近い成績を残すと、その力士は「横綱」になる。
「横綱」は存在自体がすでに伝説。
強すぎて手がつけられないから「横綱」になるのだ。
もしも横綱が勝てなくなったら。
たとえ負け続けても「横綱」の地位から下には落ちない。番付が落ちてまた横綱に挑戦、というわけにはいかないのだ。
大関は2場所続けて負け越せば陥落。
でもまた大関を目指して挑戦できる。
でも、横綱には道は2つしかない。
勝ち続けるか、引退するか。
横綱とは大変な地位なのだ。
横綱とすれ違えば道をお譲りし、最敬礼でお通り願わねばならない存在なのだ。
ちなみに、次に横綱になるのはやはり把瑠都だと思う。
把瑠都も初めて生で見たとき、「こいつはヤバい」と思った。
強い。いずれどんな力士でも歯がたたなくなるだろう。
そんな番付世界において、ごく稀に超特急で駆け上がってくる若者がいる。
しかし世の中はそんなに甘くはなく、大体は十両や幕内で一度成績が頭打ちとなり、出直し。
前頭でも上の方に上がると横綱や大関、関脇、小結など上位陣との戦いが待っている。
そこでボロボロになり、また下に落ちる。
調子を上げ実力をつけて番付を上げても、また上位陣に跳ね返される。
今現在でいえば、駆け上がる力士は高安。
高安はまだ若く、いずれ上位陣を倒す可能性を秘めている。
一度頭打ちになればまた稽古を重ねて少しずつ成績を残し、地道に番付を上げていくしかない。
本当に厳しい世界なんや、
という説明を、幼い頃に相撲好きの兄から散々聞かされた。
稀勢の里は十両昇進が17歳と書いてある。
兄は言った。
「こいつや。中卒で小結まで駆け上がってきた。これからの相撲は稀勢の里にかかっとる」
稀勢の里が取組で土俵に上がった。
場内は割れんばかりの大歓声。
まわりの観客が大声を張り上げて応援している。
知らなかった。
一発で魅せられた。
稀(まれ)なる勢いで駆け上がる力士。
稀勢の里。
その日から俺は、稀勢の里のためだけに大相撲を観るようになった。
場所が始まると毎朝、駅の売店で中日スポーツを購入。
場所中のみ連載される高橋治先生のコラム「私は見た!」を熟読するためだ。
文字からにじみでる、稀勢の里への愛情と期待。
テレビ中継では北の富士親方が、特別扱いともとれる解説で稀勢の里への想いを語る。
期待が大きいからこその叱咤激励。
「稀勢の里はこれではダメです」
舞の海も繰り返す。
「ただ勝てば良いのではありません。将来のために、内容にも注文をつけたい。稀勢の里ですから」
場所中は午後5時半頃から携帯でアクセスを繰り返し、稀勢の里の勝敗結果に一喜一憂。
土日は朝から稀勢の里の勝利を願って過ごし、午後5時半にはテレビの前に陣取って声援を送る。
手に汗を握り、必死に稀勢の里を応援した。
稀勢の里は本当に強い。
朝青龍や白鵬をたびたび負かし、優勝争いにからむ。
しかし同時に稀勢の里にはモロさも同居しており、どうにも歯がゆい。
一気に大関へ駆け上がるかと期待したが小結を維持することも難しく、また前頭数枚目からのやり直し。
番付は上がっては落ち、また上がっては落ちる。
思い出に残る取組が2つある。
ひとつは2007年7月。
ずっと関脇にいた琴光喜が、ついに大関昇進を決めた場所。
稀勢の里は前場所までの成績が悪く、西前頭6枚目まで番付を落としていた。
さすがに6枚目では手合い違いというやつで、番付周辺の対戦相手を実力で上回り、前日までに10勝4敗の好成績。
かたや大関陣をなぎ倒し、次場所からの大関昇進を決めた台風の目、関脇琴光喜。
こちらは前頭の6枚目。
本来は関脇のような上位力士とはまず当たらない。
が、その場所の稀勢の里の成績が良いこと、そして稀勢の里の人気から、琴光喜との対戦が組まれた。
千秋楽の注目カードとなったその取組は大歓声を受けての大相撲となり、西前頭6枚目の稀勢の里は、大関昇進を決めた関脇琴光喜を破ったのである。
その晩は俺にとってこの5年間でベスト3に入る最高の夜となり、勝利の美酒に酔った。
もうひとつの思い出は2008年。
小結に上がった稀勢の里は、千秋楽まで7勝7敗の五分。
同じく7勝7敗の関脇琴奨菊との対戦だった。
俺は朝から心の中で繰り返した。
稀勢、ここだぞ。
苦手の琴奨菊。
しかし他の上位陣は総崩れで、稀勢の里は次場所の関脇昇進が見えていた。
相手は今場所上位の関脇琴奨菊とはいえ、同じ7勝7敗。
稀勢の里が直接対決で琴奨菊に勝てば、次場所は初めて東の関脇になるはずだ。
大関と横綱を除けば角界ピラミッドの頂点に立ち、そしてついに大関への挑戦が始まる。
稀勢、今日はお前の人生がかかった大一番だ!
稀勢の里はそれまでここ一番、正確には俺がここ一番だと勝手に思った取組で、いつもスコーンと負けていた。
頼む。稀勢。
今日は頼むぞ。勝て。
俺はあらん限りの力を振り絞り、テレビの前でこぶしを握りしめて声援を送った。
しかし、稀勢は負けた。
琴奨菊得意のがぶり寄りに稀勢の里があえなく土俵を割ったとき、俺の中の稀勢の里とはかくあるべきという何かも、土俵を割った。
その、稀勢の里とはかくあるべき、は2006年から俺の中に棲み続けていたのであるが、この日初めて俺はそいつと正面から対峙し、そしてその存在は、消えた。
俺は兄の言葉を思い出していた。
「どこかで必ず頭打ちになる。本当に厳しい世界なんや」
その晩は俺にとってこの5年間でワースト3に入る最低な夜となり、やけ酒を飲み続けた。
稀勢の里とはかくあるべき、を失った俺は角界と稀勢の里への興味が遠のき、場所がいつ開催されているかも気にならなくなってしまった。
2010年、ニュースで稀勢の里を見た。
横綱になった白鵬が連勝を続け、なんと63連勝。
その連勝を、稀勢の里が止めたという。
実況アナの声が流れる。
「白鵬の連勝は63でストップ!止めたのは稀勢の里!やっぱり稀勢の里!」
そうか。
稀勢、がんばっとるな。
そうや、一発の力はあるもんな。
白鵬を止めるとしたら、稀勢の里やもんな。
俺は稀勢の里に心から賛辞を送った。
しかし63連勝という桁外れな成績を残す横綱白鵬に勝ったと聞いても、そしてその後、稀勢の里が大関に昇進したというニュースを知ってもまだ、俺の中に「稀勢の里とはかくあるべき」が再び生まれることはなかった。
露鵬や白露山、朝青龍や琴光喜たち当時の上位陣が、理由はどうであれ番付から姿を消した今の角界。
敵が減ることにより番付は上がっても、稀勢自身の実力は変わっていないのではないか。
俺の、稀勢の里とはかくあるべき、は一時とはいえ本当に特別なものだった。
それは情熱であり、希望であり、生きがいであった。
だからこそ、一度消えたそれが再び生まれることはなかったのである。
今週に入り、稀勢の里の名前をよく耳にするようになった。
横綱白鵬が骨折。
琴奨菊を倒した。
今日は琴欧州も撃破。
稀勢の里は星2つリードし、優勝争いの単独トップに立っている。
稀勢の里。
稀勢。
俺の稀勢。
おそらく、俺の中に「稀勢の里とはかくあるべき」が再び生まれることは、もうない。
しかし今週末は、稀勢の初優勝を肴にして酒を飲みたい。
高橋治先生、北の富士さん、舞の海さん、デーモン小暮閣下、そして元横審の内館牧子さん。
あれから、稀勢の里を見守っていただいてありがとうございます。
それぞれ場所は違いますが、みんなで祝杯をあげましょう。
今度の週末、夕方5時。
俺は久しぶりにテレビの前に陣取ろうと思っている。
携帯メモ。
メモるのは酔っ払った時。
昼間は手帳にメモれば良い。
俺は酔っ払うと、物事に感動しやすくなる。
そして非常に忘れやすい。
だが携帯にメモすれば、昼の自分にその感動を伝えることができるのだ。
素晴らしい機能。
しかし問題がある。
酔っぱらっているため残されたメモに細かい説明がついていない。
そして入力ミスが多い。
そのため解読が困難なメモが頻繁に出現する。
とりわけ今回のメモには参った。
『てるまえろまえ』
『リカ、来週水曜日』
『武豊の星座』
休日の朝、このメモを見つけて俺はア然とした。
それぞれ別のメッセージだと思うが意味がわからない。
・『てるまなんちゃらかんちゃら』
なんだこれ。
俺の人生、この単語を耳にしたことは一度もない。
てるまと聞いても青山テルマしか思い出さないが、青山テルマをそんなに知らない。
・『リカ、来週水曜日』
リカって誰だ?
水曜日とあるが、いつの水曜日なのか。
まさか待ち合わせをしていたのか?
もし約束してたら心ウキウキ、どんなに酔っていてもそのリカちゃんのことは絶対に忘れないと思うが。
・『武豊の星座』
武豊はすごいと思うが、星座ときたか・・・。
一応ネットで調べてみると、武豊の星座は魚座だそうだ。
その手のご商売の方には申し訳ないが、俺は占いとかそういうものを信用しない。
なんで星座でメモったのか。
うーん。
しばらく考えたが、何も思い出せない。
俺は解読を諦めた。
その日は昼からショッピングセンターに行った。
用事を終え、1階に降りるためエスカレーターに向かう。
エスカレーターは2階の映画館入り口前にある。
壁には映画のポスターがたくさん貼ってあった。
エスカレーターで下降しながら何気なしにポスターを見ていたその時、俺は思わず叫びそうになった!
あの言葉だ!
てるま、なんちゃらかんちゃら!
いや、テルマエ・ロマエ!
よく覚えていないが、たぶんそのままか、かなり近い!
あの訳のわからぬ単語が、なんとそのまま映画のポスターに書いてある!?
なんで?
映画は嫌いではないが、ほとんど観る機会がない。そんな俺が携帯にわざわざタイトルをメモるはずがない。
エスカレーターはお構い無しに、どんどん下降し続ける。
知りたい。てるまなんちゃらが何故メモに書いてあったのか、理由を知りたい。
俺は下降しながら、2階に貼ってあるそのポスターを見た。
外国人の絵。
裸だ。
その瞬間、
ちゅどーん!
俺の脳天に稲妻が落雷した!
はいはいはいはいはい!
漫画!
お風呂のやつ!!
あれは昨年12月、取引先の男性とふたりで飲みに行った。
相手は年上だが、気心の知れた人。
ぜひ一緒に行きたいお店があるという。
気に入ってくれると思います。その言葉にドキドキしながらお店に向かった。
そこはワンピース・バーだった。
週刊少年ジャンプで連載中の人気漫画「ワンピース」。
単行本やフィギュアに囲まれ、マスターと漫画談義で盛り上がった。
その時、隣に座った別のお客がカバンから1冊の本を取り出した。
古代ローマの公衆浴場と現代日本の温泉がつながる不思議な物語。
これ面白いから読んでみてくださいよと薦められたその本、それが「テルマエ・ロマエ」だった。
そうか。あの時俺は、携帯にメモったのか。
ネットで検索してみると「全国書店員が選んだおすすめコミック2011」で3位入選となっている。
こんな人気漫画をチェックしていなかったとは、自称漫画人として恥ずかしい。
最近本屋さんにも行ってなかったしなぁ。
だがこれでメモの謎がひとつ明らかになった。
やはり俺の携帯メモには意味がある。
よっぽどのことがないとメモるはずがないのだ。
そうすると『リカ、来週水曜日』は大丈夫だろうか。
俺はリカちゃんとの大事な約束を、しかもリカちゃんとの出会いそのものを忘れてしまったのだろうか。
うーん。
しばらく考えたが、何も思い出せない。
俺はまた解読を諦めた。
自宅に帰った俺は、車の洗車を始めた。
久しぶりの洗車。
ゴシゴシ洗っていると鬼嫁が駐車場に出てきた。
鬼嫁「おい。自分の車だけ洗うつもりか」
フカフカ「これが終わったら、そっちも洗いますわ」
鬼嫁「で、私の車検は結局いつになったんや」
フカフカ「車検?ああ、またカローラから電話がかかってくるわ」
その瞬間、
ちゅどーん!
俺の脳天に稲妻が落雷した!
セリカの車検!
来週水曜日!!
リカじゃなくてセリカ!
鬼嫁の車の車検日だ!
俺はスポンジをつかんだまま空を見上げた。
やっぱり。
やっぱり女性じゃなかった。
解読不可能と思われた3つのメモ。その内の2つが数時間で明らかになった。
残された最後の謎は・・・。
『武豊の星座』。
俺は車のホイールをゴシゴシしながら考えた。
たぶん武豊は合っている。
でも、星座ではない。
俺は星座ではメモらない。
となると入力ミスか。
ひょっとすると同じ発音で変換に失敗したのかも。
星座。
正座。
武豊の正座。
武豊が馬主に怒られて正座したのかな。
うーん。
しばらく考えたが、何も思い出せない。
俺はまた解読を諦めた。
洗車を終えて自宅に入ると、おつかれさんの代わりに鬼嫁が言った。
鬼嫁「晩ゴハン作るの遅くなるやろ!子供の相手してよ!」
フカフカ家には子供がふたり。
長男はひとりでブロック遊びに夢中。
問題は次男だ。
次男はいわゆる「魔の2歳児」というやつで、やんちゃの真っ盛りである。
あれがしたいこれがしたいと希望を言い、自分の思い通りにならないと床に大の字になり、手足をバタつかせて怒るのだ。
これも大切な成長過程。
平日は一緒にいないし、たまには面倒をみさせていただくか。
絵本の読み聞かせ、お絵かきから将棋の駒のドミノ倒し、ボール遊び。
次から次へと遊びを変えた後、お馬さんごっこに突入した。
四つん這いになって次男を背中に乗せる。
フカフカ「お馬さんパカパカ、お馬さんパカー♪」
次男は大喜びである。
俺は次男を落とさぬようバランスに気をつけながら、リビングを動き回る。
重い。
膝が痛い。
しかし、がんばるのだ。
フカフカ「お馬さんパカパカ♪ヒヒーン♪」
おっと!
上体を少し起こしたら、次男の体のバランスが崩れた。
フカフカ「ちゃんとつかまっとってよ。足を広げて、そう。じゃあ行きますよ」
右前足を前に出し、床に着ける。
その瞬間、
ちゅどーん!
俺の脳天に稲妻が落雷した!
馬!
馬に乗る武豊!
はいはいはいはい!
俺は先日、お客さんの新年会に参加した。
その出席者の中に乗馬経験者がいた。
柵をポンポン跳んでいく競技。
学生時代にはなかなかの選手だったとか。
競馬に役立つアドバイスを求める俺に、その人は言った。
その人「競馬はわからないんですよ」
それでも馬の背中を知る男。
どんな些細なことでもと食い下がると、その人はこう言った。
その人「武豊っているじゃないですか。僕は競馬はやらないのでわかりませんが、武豊だけは尊敬しているんです」
競馬はレースのスタート時間が正確に決まっている。
1分遅れるだけでもスタート時間変更の公式発表があるのだ。
騎手は馬に乗って早めに本馬場入場。
スタート地点の後方で馬に乗ったままグルグルと廻り、時間がくるのを待つ。
これを輪乗りという。
その人はこう続けた。
その人「人気騎手になると12レースの内、1日に何レースも騎乗しますよね。
その疲労たるや、すさまじいと思うんです。
レースが終わるとすぐにパドックへ行き、また馬にまたがる。
他の騎手達も輪乗りの時だけは、足をダラんとさせて休憩しているように見えるんです。
でも武豊は違う。休んでいないんですよ。少なくとも僕は、武豊が足をダラっとさせている姿を見たことがない」
へぇー。
知らなかった。
その人「たぶん彼のポリシーではないでしょうか。膝を曲げたままなんです。
正座をしているのと同じですよ。
レース前の時間調整でも、ずっと正座状態なんです」
そうだ。
俺はこの話に感動し、正座をしながら熱燗を呑んだのだ。
武豊の正座。
フゥー。
俺は次男を背中に乗せたまま、深く息をついた。
ついに最後の謎も解き明かした。
まるで深い海の底からようやく水面に顔を出した気分。
その日初めて呼吸をしたような気がした。
俺は次男を背中から降ろすと、携帯を手にした。
もう忘れることはないだろう。
3つのメッセージを携帯から消去するのだ。
消去。
その時、携帯メモの中に、もうひとつのフォルダを見つけた。
怖い。
開けるのが怖い。
それでも俺は、フォルダを開いた。
『横断歩道、ばつついてふ』
そのとたん、俺の体は再び深海へと引きずり込まれた。
あれから2週間。
俺はまだ、深い海の底にいる。
準備。
備えあれば憂いなし。
いまから応援を始めなければ。
指原莉乃さんです。
指原莉乃さんに皆様の応援、宜しくお願いします。
余裕のある方は、島田晴香さんも、宜しくお願いいたします。
総選挙。
総選挙が終わってから随分時間が経つが、ここで遅ればせながら自分勝手な総括を。
今回の総選挙、個人的に一番のハイライトは横山由依のスピーチの場面だった。
圏外から一気に19位。
しかし有吉AKB共和国や京都弁、マジすかのおたべの名演技、Not yetでの活躍もあり、
俺は速報発表前、横山由依の順位をもっと上の13位あたりではないかと予想していた。
横山は研究生やSKE48のオーディションに落ちたこともある苦労人。
努力が報われて良かった。
さて、あまりの嬉しさに腰が抜けてしまった横山さん。よろめき、泣きじゃくり、立っていることすら困難な状態。
とここで、横山さんがよろけて体勢を崩し、マイクに歯をぶつけた。
あまりの腰砕け度にステージ下で優しく見守っていたメンバーのみんなも思わず失笑。
その時、カメラはとらえた。
音声はない。
映像だけ。
さっしーの口元が、確かにこう動いた。
「よこやまー」
同じNot yetの仲間として横山さんの苦労を知るさっしー。
他のメンバー達が思わず笑う中、さっしーは横山さんに呼び掛けるように泣きながら「よこやまー」と言ったのだ。
さっしー。
決まりだ。
第1回フカフカ座布団 選抜総選挙、第1位、指原莉乃(27→19→9位)。
俺の感動をよそに、カメラはさらに他のメンバー達の顔を映していく。
そしてまた、カメラはとらえた。
「もしドラ」の主人公、川島みなみのモデルとなった、峰岸みなみ。
失笑するメンバーの中、ステージを見上げる峰岸みなみの口元はこう動いた。
「がんばれ」
そしてそのあと世界一優しい表情で、横山さんを見つめたのだ。
みいちゃん。
決まりだ。
第1回フカフカ座布団 選抜総選挙、第2位、峰岸みなみ(16→14→15位)。
また今回の総選挙では30位台に元研究生が数人、食い込んできた。
フレッシュレモン市川美織(初出場39位)や大場美奈(圏外→35位)ら、次世代のメディア選抜候補である。
俺の激推しである島田晴香は、残念ながら40位以内には入れず、ステージに上がることはできなかった。
でも・・・
「もしも俺が生まれ変わって、AKB48と同じクラスになったら」。
男子は俺ひとり、他は全員AKB48の特別クラス編成。
隣の席はさしこ、前はみいちゃん、
そして後ろの席には・・・
はるぅに、座って欲しい。
「もし俺」設定と、前髪を下ろした状態という条件を付けさせていただき、
第1回フカフカ座布団 選抜総選挙、第3位、島田晴香(圏外)。
その他、今回の総選挙を演出した感謝と祝福を込めて特注でふたり。
班長さんとして横山由依さん(圏外→19位)と、
風邪で学校を休んだ日、自宅に給食のパンを届けてくれる幼なじみの柏木由紀ちゃん(10→8→3位)。
以上、フカちゃん選抜 5名の発表でした。
しょっぱっぴぃ。
『てい!しょっぱっぴぃ!』
兄や父母が何かで失敗した時、毎回この言葉でツッコミを入れていた。
誰かに教わったわけではない。
俺が自分で考案した、オリジナルのツッコミフレーズである。
兄が大学受験の年には不合格通知が届くたびにこのフレーズを浴びせて叱咤激励を続けたが、その後は次第に使わなくなった。
そしてそれから10数年後・・・
テレビで小島よしおを観て、驚いた。
「はい!おっぱっぴぃ」
おお。
似ている。
掛け声は「てい」ではなく「はい」だし、「しょ」と「お」の違いもあるが、イントネーションはまるで同じだ。
しばらくして実家に帰る機会があり、兄に聞いてみた。
俺「小島よしおって、知ってる?」
兄「おお。おっぱっぴぃ、やろ。びっくりしたわ」
俺「ようやく時代が俺に追いついたな」
母「わたしゃ、あんたがテレビに出てきたかと思ったがな。あれ、元は誰が言った言葉?」
兄「こいつや。ある日突然言い出したんや。いつも言っとった。でもな、」
兄は、ドヤ顔でビールを飲む俺を見ながら、こう続けた。
兄「お前のは、『てい!しょっぱっぴぃ』や。小島よしおは、『はい!おっぱっぴぃ』。残念やけど同じではない」
くぅ。
兄「しょっぱっぴぃ!やったら小島よしおは売れてないかも知れん。
ま、お前のはそれだけじゃないけどな」
ん?
それだけじゃない?
あっ!
忘れていた。
そうだ。
小島よしおの「おっぱっぴぃ」に気をとられ、つい忘れてしまっていた。
小島よしおを観て感じた、あの違和感。
「おっぱっぴぃ」は、「おっぱっぴぃ」だけではダメなのだ。
あのフレーズだけでは、足りないのだ。
小学生の俺はその壁にぶつかり、そして、その壁を見事に打ち破った。
「しょっぱっぴぃ!」は、「しょっぱっぴぃ!」で終わりではない。
3つのフレーズの内の、最初の1フレーズでしかない。
三位一体。
3つのフレーズが並ぶことにより、「しょっぱっぴぃ!」が光り輝くのだ。
10年以上のブランクで、それをすっかり忘れてしまっていた自分が恥ずかしい。
俺はサラリーマン。
もうお笑い芸人になることもないだろう。
このまま埋もれさせるよりは、自分の作った「しょっぱっぴぃ!」を、多くの人に知ってもらい、もしよければ使っていただきたい。
以下に「しょっぱっぴぃ!」全フレーズを、著作権フリー商品として公開することにする。
小島よしおのみならず、どなたにも気軽に使っていただけたらと思う。
あの時、京都産業大学の不合格通知を手にし、うつ向きながら階段を上がってきた兄の前に立ちふさがり満面の笑みで披露したこのフレーズを、悲しみにくれる日本列島に捧ぐ。
てい!しょっぱっぴぃ!
さぱしぱすぱ!
シパシパどんどん!シパどんどん!
ワープ。
気が付いたのは小学校低学年の時。
学校からの帰り道。
徒歩。
ハッと我に返ったら、自宅の前にいた。
途中の記憶がまったくない。
サンバルカンか何かになった自分を想像していた。
真剣に空想にふけるあまり、まわりが見えなくなったのだ。
それからは、やみつきになった。
小学校から一番遠くに住んでいた為、友人と別れてからも家までの道をひとりで歩く時間が結構あった。
時には小学校から自宅まで、まるごと記憶がなくなった。
俺はこの能力をワープと名付け、そしてこのことを誰にも言わなかった。
たまに途中でふと我に返ってしまう時がある。悔しくてすぐに空想の続きに入る。
すぐに戻れる時もあるし、なかなか戻れない時もあった。
校門から自宅入り口まで成功した時の、あの充実感。そして達成感。
ある時はキャプテン翼の南葛SCの一員。またある時はキン肉マンの仲間。
もしも自分が○○だったらを想像し、徹底的に入り込む。
どこでもドアを持っていたら、透明人間だったら、地面に潜れたら、などの設定で、相手のセリフや出来事を徹底的に考えるのだ。
甲子園では何度も優勝した。
入学から遠征のバス、地区予選、決勝前夜、テレビ取材。
戦争にも行った。
ボクシングも全階級を制覇した。
発明王、アラブの国王、オリンピック、タイムスリップで戦国時代へ、忍者、バビル2世、りんご人間。
中学に上がり、自転車通学になってからもワープをたまに使った。
自転車なので危ないが、風が強くてペダルをこぐのが面倒くさい時に使う。
すると気付くと自宅の前に到着しており、帰宅が非常に楽だった。
社会人になってからもたまに使うが、年をとったからなのか、わりとすぐに空想からさめてしまう。
それでも二日酔いでしんどい朝、自転車で駅に向かう際に使うと、気が付くと駅に到着しているので非常に便利だ。
途中の信号を渡る時はどうしてるのかと心配になるが、無意識の内に交通ルールを守れるらしい。
守れてなければ、小学生のうちにとっくに死んでいる。
たぶん遠くを見つめてボーッとしながら、信号が青になるのを待っているのだ。
これを使う時に、困ることがひとつ。
それは空想における設定の、現実度の割合である。
これがあるから現実世界に戻ってきてしまうのだ。
そして年をとるにつれ、これがきつくなってきている。
ワープがねじれ、突如まわりの景色が飛び込んでくるのだ。
空想と現実との妥協点を見つけられない。
悔しくてイライラしてストレスの原因になるため、最近ではあまりワープを使わなくなった。
どういうことか。
例えば、甲子園。
中学の中体連から、スカウト、受験、入学、そしていきなり1年夏からベンチ入りする。背番号は16。
セカンドの控えだが、代打でヒットを打ちレギュラー獲得。背番号は16のまま、甲子園では毎回スタメンだ。
その気になれば入学時の初練習と先輩とのポジション争いだけで1時間は空想できる。
しかしその時、世代の違う松坂横浜と清原PLを、ライバルチームとして同じ大会に出していいか、設定で悩んでしまうのである。
いいだろ、空想なんだから。
いや、さすがに非現実的か。
なんとかそれを乗り越えたとしてもまだまだ問題が出てくる。
中学で同級生だったあいつをチームメイトに入れるかどうか。
入れるなら補欠かレギュラーか。
そしてようやく空想が走り出しても、今度は設定ミスが判明。
あいつはレフトと決めておいたはずなのに、ついうっかり2年春の甲子園ではセンターでサヨナラエラーをしたというエピソードになってしまっていたということに、3年夏の県予選あたりまできてから気が付くのだ。
おいおい。
どうする。
ワープが歪む。
2年の春からやり直すか。いや、あいつは最初からセンターだったことにするか。くそ、だからあいつをチームに入れるのはやめておこうかと思ったのに。
あのサヨナラの時の空想だけ部分的にやり直すか。
いや待て。マネージャーを忘れていた。
これもどうする。
いまさら1年の夏からやり直しか。細かいエピソードも入れながら、せっかく3年夏まできたのに。
女子マネは転校してきたことにするか。でもそんなに都合よく可愛い女の子が転校してきてマネージャーになってくれるなんてことがあるか。まあでもそもそも空想だからいいか。
そんなこと言ったらただの空想になるぞ。現実的な想像だからこそ面白く、ここは妥協できない。
じゃあマネージャーなしのまま3年夏の県大会から続けるか。
それも腹立つ。うわぁもうどっちでもいい。こんな空想やめようか。
て言うか、あいつレフトかセンターかじゃなく、なしにして1年夏からやってみるか。全部やり直し。でも2回目なんで感動薄いし面倒くさい。
ああもう好きにしろ!やめたるわもう空想なし、なしなし!やめたぞ野球やめたるやめたる
ガァーッ!
この、くそったれが!!
ペタ。
このブログもあやうく2日間で閉幕するところだった。
スマートフォンに変えて、ほったらかしだった怪盗ロワイヤルに猛烈に力を入れ、3日でピタッと止めた男。
今回も初日にペタを貼りまくり、お返しをいただいた皆様全員にペタを貼りまくって3日目、プツンとやる気が消えた。
コメントも拒否、ペタもなし。
ごめんなさい。
こんな俺に「継続」という言葉を教えてくれた、タバコを誉めてやってください。
カチーシャ。
なるほど。
自然とサビを口ずさみ、その凄みを知った。
秋元先生、此処に在り。
しかし、みんな体が細い。
さすがはアイドルだ。
ゆきりんがサビで指を右から左へ、とんとんとんとーんとやるところ。あれは最高裁判所だ。
あの、最後のとーんのところに、もしも俺の鼻があったら・・・。
いかんいかん!
がんばれ、さっしー。
皆様。さっしーに、清き1票を宜しくお願いいたします。
