翌日、担当者が迎えに来て、派遣会社の事務所に行きました。

 

此の頃でも、持ち物は少なく大きめのスポーツバッグ1個でことたりていました。

此処で買ったビデオデッキをどうするか悩みましたが、今は担当者の車でしたので

持って行く事にしました。

 

突然の出勤拒否からの退社申請にもかかわらず、派遣先変更に留まったのは

担当者の説得でしたが、会社自体の思いは、どうだったのか少し気には成りました。

担当者の言う所では、人材が足りないので有利だとは聞いていました。

 

事務所に着いた時に居た、他社員の視線が気に成り少し顔を伏せてしまいます。

候補に成る派遣先の資料を見て、改めて辞めてしまったと実感しました。

 

携帯電話は繋がっていましたが、青年からも、おっさんからも、連絡は有りません。

おっさんは、どうでも良かったのですが、青年に言わなかった事を少し悔やみます

歳の離れた自分に良くしてくれていたので、一言伝えるべきだったと。

 

辞める寸前に知り合った強面の方も、思い出さなかった訳ではありませんでした。

担当者の説得に応じていなかったら、連絡していたかも知れません。

でも、まったく未知的な方向より現状分かっている環境を選んだと言う事でした。

 

次の行き先を選びますが、他県には行かず此の県内で探す事にしました。

所持金が乏しかったのも理由ですが、長旅が嫌に成ってもいたからです

県内の真ん中辺りの市に、勤められる案件が有りましたので決める事にしました。

 

次の派遣先を決める時、自分の希望は何も無く、働ければ良いと言う思いだけです。

ですが、そう言ってしまうと何故先の工場を辞めてしまったのか疑問に成りますが

自分でも、さっぱり分かりません。

 

他の派遣会社の人達と、働く条件や給料面での違いを聞いて、天秤にかけた考えか

会話した人が辞めて行ったのが引き金か、単に自分勝手からなのか

誰に咎められる事も無かった生活が原因かも知れません。

 

とりあえず、此の日に次の派遣先で有る工場は決まりましたが、工場の受け入れが

時期が有り、次回は1週間先で有る事を伝えられます。

少し長い日数だと思いましたが、仕方が無いので待つ事にしました。

 

派遣会社の対応としては、寮での待機と成りました。

初出勤の日までは、仮住まいに成る寮に寝泊まりすると言う事で送って貰います。

出勤日前日に、派遣先に近い寮に再び引っ越す事も伝えられました。

 

仮住まいの寮でも、寝具は新品でしたので、不快感は有りませんでした。

何も予定が無い1週間は、長く感じるだろうと思いました。

少し近所でも散策しようかと、考えながら横に成ってる内に寝てしまいます。

 

目が覚めたのは暗く成った頃でした。

腹も減ったので散策も兼ねて外に出ました。

先の町よりは都会的な風景が新鮮に思えました。

 

所持金は余り有りませんでしたので、1日一回か二回の食事にしました。

幸い近所にコンビニも弁当屋も有りましたので、なんとかセーブ出来ました。

テレビも有り、チャンネル数も増えていたので部屋でただひたすらゴロゴロ過ごした

一週間でした。

 

携帯電話は担当者が連絡してくるまで、一度も鳴りませんでした。

おっさんも、青年からも、連絡が来る事は無かったのですが、自分が連絡する事も

無かったので、その程度の親密度だったと言う事だったのでしょう。

 

出勤日前日に又、寮を変わりました。

担当者から説明を聞き、明日の初出勤を待ちます。

今度は、住宅資材の工場でしたので前回とは違って少し体力も必要に成ります。

 

初日は、何時もと同じ様に挨拶回りと安全講習が有りました。

担当者が帰った後に、受け持つ仕事場に案内され他の方に紹介されます

見た感じ仕事場の風景は、特に印象が残る様な物は有りませんでした。

 

受け持ちの場所に案内されたのは午前中の休憩後だったと思います。

仕事場は屋根が有るだけの倉庫の様な場所でした。

リーダー的な方に、仕事場の片隅を指さされ、その場所で待てと指示されました。

 

資材関係でしたので、重い物も有る様でクレーン等も見あたりました。

初日ですので、作業を見ているだけなのも理解は有ったつもりです

ですが、其処に居る様に指示した場所が邪魔に成るからと手で追い払ったあげく

昼休憩までの二時間ほったらかしは、違っていると思いました。

 

働く為に今まで色んな事を、我慢したり耐えたりしてきました。

働かせて貰ってると言う意識が、強く持っていられたからだと思いますが

何時の頃からか、薄れているのは自覚していました。

 

職種の向き不向きも、もちろん有りますが、自分の今の人生には通用しない言葉です

金銭を得る事だけが目的で重要でしたので、最終ラインを越えなければ

どんな事でもやって来ました。

 

それが自信に成ったのか悪影響と成ったのかは分かりません。

此の時は、悪い方の感情と言うか考えと言うか、行動をしてしまいました。

たった二時間と少しの時間でしたが、考えは決まりました。

昼休憩を知らせるチャイムが鳴ると、食堂に向かう人とは違う方向の

工場の出口に向かって歩き出していました。