歌舞伎とワンピースがコラボレーションすることを聞いたとき、そんな奇跡が本当に起こるのだろうかと思いつつも、絶対に相性がいいと確信していた。
伏線の緻密さ・それが回収されることの痛快さ、大きい物語の中に潜む脇筋の細やかさ、魅力的なキャラクター、台詞(言葉)のリズム、きまるところ、見せ場の迫力など…共通点がたくさんあるように思えたからだ。ただそれぞれに、愛情を持ったファンが多いコンテンツのため、その融合を互いに許せるか?という不安はあった。よくありがちな「これは○○でない」という議論だ。でもそれは杞憂にすぎなかった。
まず私が座った席の前、右横、後ろと、三方向のお客様が元気な(おそらく)学生さんだったこと。隣にいた大学生位の男の子たちはまるでライブが始まる前のようなテンションで
「どうやって手のびんのかなー!」
とか
「海賊王に俺はなーるぅーーー(彼らなりの歌舞伎的台詞まわしだと思われる)」などと話していて、いつもの歌舞伎の劇場では見られない光景がそこにはあって、なんだか嬉しかった。
そして開演前も心くすぐる演出が。このあたりから細胞がザワザワしてきて、オープニングでうずうずしてきて、新橋演舞場からどこか知らない地へ一気に連れていかれた。
一幕目はワンピースを知らない目線でみてみようと思っていたが、段々そんなことを忘れて「ただ楽しむ」自分がいた。たぶん劇場には「どこか粗を探してやろう」とか「歌舞伎の新作として意味があるか見極めよう」みたいな人もいなくはなかったと思う。でも二幕目ですべて吹き飛んだに違いない。
各々のキャラクターはもちろん魅力的なのだが、やはり巳之助さん扮するボンちゃんことボン・クレーの存在が、ワンピースファンも歌舞伎ファンも繋げたのだと思う。漫画のキャラクターを(見た目含め笑)忠実に再現しつつ、その上で見得や飛び六法など歌舞伎としてのかっこよさを存分に見せつけてくれたからだ。
そして本水の立ち回りで歌舞伎役者の身体に魅せられ、幕切れの宙乗りでの「TETOTE」大合唱は歌舞伎で初めての体験だった。今まで「歌舞伎はフェスのようなものだからお客様も参加できるんです」と紹介することはあったけど、それは拍手でとか、大向こうでとか、カーテンコールでのイメージであって、本当に席から立ってライブのように合唱することは想像していなかった。また歌舞伎の懐の深さを知った。
他にもルフィの手が伸びる表現が(映像だけでなく)黒子を使った演出とか、バギーのバラバラの実の能力者としてのシーンでは「鈴ヶ森」を、白ひげは「碇知盛」を彷彿とさせるとか、ニューカマー・ランドの人たちはつけまバッチリでミニスカ網タイツなんだけど、実は着物が矢絣だったり。こういうの、いいなあと思った。
期待するのは、ワンピース歌舞伎を観て歌舞伎に足を運ぶようになった人が、『義経千本桜』を観て「大物浦」の知盛を「あれ、白ひげみたいな人がいる!」と発見してくれたり、「四の切」の宙乗りを「あれってワンピースの特別な演出じゃなかったんだ!」と思ってくれたら。本水も本火も、既に古典の手法であったんだということを、説明じゃなくて実際に目撃してもらえたら素敵だなぁと思った。
たぶん「これは歌舞伎ではない」とか「これはワンピースではない」とかいう人は「これは“私の知ってる”歌舞伎もしくはワンピースではない」ということなのだと思う。
ただ今回のワンピース歌舞伎はその上に、「“私の知らない”こんなに面白い歌舞伎・ワンピースがあったのか」という衝撃を与えた気がする。
大好きな歌舞伎と、毎週ジャンプで愛読している(家族が関係者ということもあり)ワンピースだから他人事ではないからか…
「自分の大事な友達同士が仲良くしてるのをみるとうれしくなる」
そんな感覚になった。
そして実際この歌舞伎版ワンピースを観た後に、また漫画をはじめから読み返したくなり
早速コミックスを読み返している。
SBS(質問コーナー)もすみずみ読んでたら新たな発見があるし(ボンちゃんのコードネームは「盆暮れ」からきてることとか)
先が分かってて、ロビンのくだりを読み進めると「生ぎたいっ!!!」が更に感動的だったり。やっぱワンピースすごい。
しかも以前はスルーしてたRED・YELLOW・BLUE・GREEN(公式ファンブック)まで手を出したもんだからまったく先に進まないなう