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店が開くのが 9時
俺が行くのが 8時40分
おばちゃんが せわしなく準備をしてる
俺のことを 兄ちゃんと呼ぶ
牛乳しか 買ってないのに
俺は おばちゃんと呼んだ
最後の日も 牛乳を手にした
兄ちゃん 好きやな
これっ 好きとちゃうねん
これしか あかんねん
言葉に出せず お金を渡す
おばちゃんは いつも通り笑顔で受け取る
あんな 今日退院やねん
最後の 牛乳
30年以上前の こと
十二指腸潰瘍で 入院・・・・
売店の おばちゃん
どうしてるんか な~~~っ
なだらかな ジグザクの渡り廊下を
前かがみになって 登って行く
左に見える 小山の斜面に
小さい 栗の木を見つけた
ふと 幼子の手から離れた風船のように
ふわふわと漂いながら 足を止める
青々とした枝葉の隙間で たわわに実った
イガイガの実が 私を見つめる
足元に 目を落とすと
弾けた窓から はにかみながら顔を見せ
茶褐色の 守られた三角形の命が
雨に打たれて 笑っていた
拾い上げ チクチクを手のひらで楽しみ
持ち帰って 床頭台の上に置く
検温のたびに 天使が覗き込む
あら どうしたのと
見飽きた天井に あの栗の木が浮かぶ
漆黒の夜空に浮かび上がる
正円に輝く月が眩しい
正円に輝く月が眩しい
緑の杜も
赤く誇らしげに咲く花も
闇に紛れて色を失い
輪郭だけを浮かび上がらせる
この静けさの中で
ひとは誰を思い
何を願うか
薄紫色にくねって浮かぶ
くわえたタバコの煙が
頭上で燃える月を曇らせた
突然の 雨
アスファルトを 叩き
跳ね返って 小さく光る
アスファルトを 叩き
跳ね返って 小さく光る
あっという間に 出来た水溜まりに
波紋が重なり 歪な円を描く
波紋が重なり 歪な円を描く
もう少し なのに
閉店した たこ焼き屋の
破れたテントの軒先を 借りる
破れたテントの軒先を 借りる
何故か 幸せの匂いが漂う
やがて 泣きやんだ空が
嘘の様に 明るくなった
嘘の様に 明るくなった
何故か あなたの匂いがした
まるで 紙パンツの宣伝
去年の10月に 脳出血で倒れて入院
歩いて 歩いて
自転車に フラフラになりながらも リハビリを
片道60キロ弱 中国自動車道でゴルフ場へ
自分で車を 運転
ひとりで 出来た 行けた



