6月梅雨入り前から始まった異常な高温状態は、7月の夏本番を迎えて更に過酷さを増す。
未明の最低気温は26°Cを越え、明けて7:00頃にはすでに30°Cに達する。
最高気温は39°Cに迫る勢いだ。
おまけに湿度も高く、まさに『殺人的』と付け加えたくなるような酷暑の日々。
体力の消耗が激しいのは言うまでもないが、『熱中症』などの健康不安からメンタルは下降するばかり。
5月からほぼ一日おきとした練習にも二の足を踏むことが多くなり、バイトなど「論外」といった気分だ。
─こうやってヒトは動けなくなっていくのかしら?
他人事のようにそんなことを思ったりしていた。

月が変わり、どうやら暑さのピークは越えたようだが、ここしばらく、最低気温は27°C前後を下回らない。
おおよそ6:00頃には起床するが、連日フル稼働のエアコンのせいか、睡眠時間を充分に取っても、起き抜けには気怠さばかりが残っている。
ノロノロと身支度を整え、ウォーキングに出かける段になってもなかなか腰が上がらない。
成り行きにまかせていると、TV前でうたた寝を繰り返しながらダラダラするうち、アッと言う間に昼を過ぎてしまう。
さすがにここまでスタートを遅らせると練習時間がおぼつかない。
自分の尻を叩くようにしてなんとか外出するが、それでも10:00頃になってしまう。
外はすでに35°Cに迫る勢いだ。
─もう少し早く出れば··· 
いつもそう思うものの、全く変わり映えしない日が続いている。

近くの公園で強い陽射しに晒されながら三十分ほどストレッチをこなす。
これを引き鉄に一気に汗が吹き出す。
そこからは止めどなく汗を流しながら定番となった川沿いのコースを巡る。
昼過ぎに駅前のカフェに辿り着き、水分補給を兼ねて一時間ほど休憩。
軽く買物を済ませ、さらに勢いを増した陽射しの中を再びウォーキングしながら自宅に戻る。
帰宅はおおよそ15:00くらいになろうか?
練習に向かうにはまだ余裕がある。
充分汗をかいたせいか、心身ともに調子は上向きだ。
大汗で身体にへばりつくウエアを洗濯機に放り込み、常温のシャワーで汗を流す。
再び身支度を整え、水分補給をしながら一息つく。
─ここまではイイ···
ところが···
外の様子を窺いながら、再び外出するタイミングを計っているうちに腰が上がらなくなってくる。
我が事ながら悩ましい。
ついさっきまで上向きだったテンションは何処へやら···
練習を先延ばしする理由を探している。
この気分の浮き沈みの激しさは何なのか?
─暑さに負けてる···
原因を探るより先に、そんな敗北感に打ちのめされてしまう。

『夏季うつ』というモノがあるらしいことを今回初めて知った。
自律神経の乱れから5〜9月頃に発症すると云う。
症状の一例として「意欲や興味の減退」ということが記されていた。
─そうなのか···
何となく得心がいった。
おかしな話かも知れないが、そのことが分かってホッとした自分がいる。
─だとすれば、遅くとも10月くらいには回復するのではないか?
ジタバタしないで、悪化させないようにしてやり過ごすしかないと考えた。


「オレはまだ立っている··· 」

以前観たアニメ『葬送のフリーレン』のワンシーン。

勝利を確信し立ち去りかけた強敵の背中に、シュタルクが言い放ったセリフだ。

相手のワザに叩きのめされ地に這ったシュタルクの脳裏には、一度たりとも打ち勝つ事が出来なかった師匠アイゼンの訓戒が浮かんでいた。

「何度でも立ち上がってワザを叩き込め。
戦士ってのは、最後まで立っていたヤツが勝つんだ··· 」
強敵に打ち勝つ唯一の方法だと云う。
"必死"の覚悟を決めたシュタルクは奮然と強敵に対峙し、形振り構わず一撃必殺の『閃天撃』を叩き込む···

子供じみてるかも知れないが、近頃、"諦め"のようなものが顔を覗かせる度このセリフが頭を過る。
そして、投げ出してしまいそうな自分を押し留める。
─そういえば···
ふと記憶を辿ると、コレと似たようなことはかなり昔から自分の中にあったことに思い至る。
打ちのめされようと何度でも立ち上がり、自分に出来得る限りのことをやり尽くす。
負けないため、あるいは自分が望むモノを掴むための唯一の術だと···
コレを僕は、これまで見聞きしたスポーツやドラマ、物語や音楽などあらゆる"お気に入り"の中に見出していた。
─そうか···
どうやら、無意識のうちにまた同様のモノを見つけたらしい。
投げ出しそうな自分を押し留め自身を鼓舞し続けるモノは、今もなお自分の中で脈打っていることに気づいた。
もはやコレは、『信条』のひとつと言っていいだろう。
─案外、『諦めの悪いヤツ』なのかも知れない···
「出来ない理由ばかりを探しているのでは?」といった自分への猜疑心が、少しばかり薄らいでいくのを感じた。

暑さが弱まった頃合いを見計らって練習に向かう。
四日振り、8月ようやく六回目の練習だった。
スイング固めはいよいよ大詰めといったところだが、この数ヶ月、"壁"のようなモノに阻まれ停滞している。
思い当たる"悪癖"は潰せたはずなのに『スイング軸・プレーン』が安定しない。
もどかしいのは、素振りでは出来ているテイクバック〜フィニッシュまでのスムーズな動きが、いざボールに相対すると次第に崩れていってしまうことだ。
─あと少しなんだ···
堂々巡りをしてきた課題への糸口が、ようやく見つかりそうな予感ばかりが先走っていた。

打ち出したボールにこだわり過ぎると小手先の修正に走り勝ちになる。
なのでこの日は、スイング全体のスムーズな動きとインパクトの感触に意識を集中することにした。
ウェッジ、アイアンを一通り試すがあまり上手くいかない。
インパクト前後での左肘の"浮き"が気になった。
左肘の向きに注意しながら丁寧なテイクバックを試してみる。
若干の改善をみるが、インパクト前後の違和感は残ったままだ。
─もしや?
Drに持ち替え、"左の壁"を意識しながらワン・ショット···
かなり久し振りに気持ちの良いショットが飛び出した。
アイアン時よりわずかにスイング軌道をアッパーに意識しただけである。
─やはり全番手アッパー軌道なのか?
「起き上がりが早いのかも知れない?」などと思いながら、別のヒラメキがあった。
今度はインパクト直前に一瞬手を止めるようにしてスイングする。
おおよそ理想に近い弾道のショットが、正面のネット最上段に突き刺さった。
─コレだ!
左肘の"浮き"や"抜け"の違和感はない。
ちょっと興奮していた。
7iにチェンジし、軌道をダウンブロー気味にして試す。
二球打ってまた思案した後、Dr時より左腰を切るタイミングを早くしてみる。
ようやく高さ、方向性、飛距離の揃ったショットが出る。
スイングは違和感無くスムーズにフィニッシュに収まっていた。
どうやらインパクト前後で左脇の"締め"が緩み、それが左肘の"浮き"を生んでいたようだ。
─なかなか難しい···
腕の動きや力に頼る小手先のスイングからは、いまだに脱け出せてないらしい。
改めて自分の運動神経の鈍さを思い知らされた。
とは言え、「一山越えた」といった安堵感があった。
─あとは定着させるだけだ···
意欲のようなモノが湧いてくるのを感じていた。

その日を境に気分は上向きになってきているようだ。
少しづつだが、ウォーキングに出かける時間は早くなっているしバイトも再開し始めた。
ゴルフの停滞は、自分が思うよりも過度なストレスだったのかも知れない。
─少しづつ戻していければイイ···
今はそんな風に思える。
そして、
─オレはまだ立っている···
そう思えるなら、まだ先に歩いて行けそうな気になっている。