「ピンポーン」

22時50分に部屋の中にチャイム音が響く。

覗き穴から見ると、寒そうに買い物を持ってる瑞希がいた。

「いらっしゃい」

「急に連絡してごめんねっ。何か今、幸せ過ぎて眠る時間も惜しくて。そしたら、話聞いてほしくなっちゃった」

「いいよ、暇だったし。それより外は寒かっただろ?」

11月に入ったばかりだけど、夜はかなり冷え込んできている。

「ううん、全然大丈夫だよ。それよりキッチン借りるね~」

瑞希と俺は、地元では2歳違いの幼なじみという関係だった。

家も近所(二軒隣)だし、親同士も仲が良く、瑞希の兄と同級生で友達だったから、三人で兄妹の様にいつも遊んでいた。

俺の両親は共働きで、母も忙しかったので、毎日の様に瑞希の家で、ご飯を食べさせてもらっていた。

うちと同じで瑞希の家も共働きだったから、いつも夕飯は瑞希が作ってくれていた。

この関係を壊せれるはずもなく、ずっと自分の気持ちを隠してきた。

これからも瑞希とは、兄妹の関係でいようとあの時から決めていた。


「クリームシチューでいい?」

「もちろん、瑞希の手料理は何でも美味しいから。」

「お褒めいただきありがとうございます」

トントントンとリズム良く聴こえてくる包丁音が心地いい。

「それでね、鷹ちゃんに聞いて欲しかった話はね…」

料理をしながら、彼の話をし始める。

ただ、誰でもいいから話を聞いて欲しかったんだろうな。

本当の兄の周平は、隣の県に転勤に行ってしまっていて近くにはいない。

話をしたい時に、タイミングよく俺が捕まっただけなんだろうな。

「出来たよ~、食べよ」

「瑞希のシチュー久しぶりだな」

「鷹ちゃん、また話聞いてね」


温かいシチューを味わいながら、懐かしい気持ちに引き戻される。

恋をして、もっとずっと綺麗になっていく君を傍で見ているのはとても辛いから、本当は「もうここには来ないで」と思ってしまう。

でも、それを言えないのは、ただ君に逢いたいから。


♪♪~♪♪♪

営業の外回りから、車で帰社中にスマホが鳴った。

「鷹ちゃん、今日の夕飯一緒に食べない?」

瑞希の声に元気がない。

「うちに来るか?」

「うん」

瑞希の仕事終わりの時間を聞いてから電話を切った。

「いつも急でごめんね」

「俺はいいよ、いつでも話くらいは聞いてやれるし」

どうやら、彼と喧嘩したらしい。

喧嘩してしまった経緯を話始めたら、泣き出してしまった。

「それは全面的に彼が悪いだろ」

泣いている瑞希を見て、動揺してしまい怒り口調になってしまった。

「あ、ごめん。瑞希に怒っても仕方ないのに」

「いいのよ、ありがとう」

瑞希は笑っていたけど、無理してる笑顔だった。

こんなに泣いてる瑞希を、抱きしめてやることも出来ない。

ただ、話を聞いてやることしか出来ない。

俺だったら、絶対悲しませたりしないのに。

俺だったら、絶対泣かせたりしないのに。

瑞希の後ろの窓に写っている俺の顔が、優しく笑らうたびに悲しく思えてくる。

きっとこれからも、瑞希には何も出来ない、何も届けれないと思うと、こんなに自分が未練がましいとは…本当に嫌気がさしてくる。

今、こうして一緒にいる事は嘘じゃないのに。


「ここには来ないで」

でも、やっぱり逢いたいから言えないよ。

でも、まっすぐ君を見れなくなったよ。

君の後ろの窓に写っている自分の顔が、優しく笑らうたびに悲しくなるから。






逢いたいから

古内東子