「中国本土の覇権志向と軍事力について」(真田幸光氏) | 清話会

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「中国本土の覇権志向と軍事力について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)


私には、
「中華人民共和国は現行の世界秩序の変化を主導的に起こそうとしている」
としか、どうしても見えません。
 
例えば、国際社会に対しては、
「一帯一路構想=シルクロード構想」
を示しつつ、中国本土の影響力を強めようとしています。
 既に12兆米ドルを超えた国内総生産規模などを背景として、中国本土は、
「経済力にものを言わせた世界統治」
に強い関心を示している私は見ています。
 
また、そうした意味で、私は、
「中国本土の覇権=Hegemony=に対する強い野心」
を感ぜざるを得ません。
 
しかし、真に覇権を意識するのであれば、
「軍事力」
の背景の無い覇権は意味が無いことを中国本土は十分に認識しているはずであり、実際に、中国本土は、軍事的覇権の拡大に関してもかなり踏み込んだ戦略を取ってきているものと私は見ています。
 
そして、
*現実的には海洋権益の拡大を意識した制海権の拡大を意識している
ものと見られますが、グローバルな視点からの覇権を意識して、
*宇宙開発を中心とする制宙権の拡大を意識、中国本土一国・単独での宇宙開発に注力している。
と見られます。
 
さて、それでは、その中国本土の軍事面を司っている組織は何になりましょうか?
 
それは、
「人民解放軍」
であります。
 
中国本土は、かつて国共合作で大日本帝国の侵略に打ち勝った後、国共内戦が発生、その結果、毛沢東率いる中国共産党が勝利し、1949年に中華人民共和国か
建国されましたが、その建国の立役者たる、
「人民解放軍」
のそもそもの存立理念は、
「資本家や地主から搾取される人民を解放し、貧富の格差を打破しようと言うスローガン」
の中に込められていました。
 
そして、社会主義国家・中華人民共和国建国の後は、当時、中国本土が目指してきたマルクス・レーニン主義に於ける、
「国家の軍隊は、人民を抑圧、搾取し、侵略、植民地支配の為の手段である。
 一方、人民解放軍は、人民のために革命を遂行・防衛する為の存在であり、国軍ではあり得ないのである。」
との考え方の下、今も、あくまでも、
「人民」
を意識した存在であります。
 
よって、国務院と人民解放軍には上下関係も隷属関係もありません。
 
そして、人民解放軍の指揮権は、事実上、
「中国共産党の中央軍事委員会」
が持つということになります。
 
尚、その中央軍事委員会の基本姿勢は、孫子の兵法に見られる、
「戦わずして勝つ。」
ということにあり、その為には、
(ア)国際世論を含む世論戦に勝つこと、こうしたことを前提に、「嘘も100回言えば本当になる」との国際世論戦略を展開し、仮想敵国の国際的なイメージの低下を図る。
(イ)脅したり、すかしたりする心理戦を展開し、仮想敵国にダメージを与える。
(ウ)国際法を生かした法律戦を展開し、中国本土に対する支持を集める一方、国際的な範疇意識の抑制を図る。
といった具体的な戦略を取った上で、その後、必要に応じて、いよいよ本当の武力行為に出るという戦略を持っているように思われます。
 
ところが、今、中国本土の人民解放軍は、本来はもっともっと現在の為政者の抑圧や搾取から中華人民を解放しなくてはならないはずであるのに、国家間の覇権争いの道具とされ、私の見るところでは、間違いのない、
「国軍」
として、
「仮想敵国」
と戦うことを前提とした軍隊となっているものと思います。
 
こうした、人民の為の軍隊ではなく、中華人民共和国の国軍と化した、否、中国共産党の軍隊と化した人民解放軍が今後、どのような行動を取るのか引き続きフォローしていきたいと思います。
 
尚、この人民解放軍は、朝鮮半島問題に関しては、
「血の同盟関係で結ばれている北朝鮮の人民は今、金正恩氏とその取り巻き達に支配、搾取され苦しんでいる。その朝鮮人民を解放する為に行動を起こす」
と言った論理を以って、米軍と呼応、金正恩政権に圧力をかけ、
「北朝鮮の核開発とミサイル開発の即時停止、そうした意味での現状維持」
を具現化する、また、万一、それでも金正恩政権が核開発とミサイル開発を注視しなければ、必要に応じて、本当に、北朝鮮に対して、瞬時に金正恩氏とその取り巻きを削除する為の軍事的圧力、或いは必要に応じて瞬間的軍事攻撃を実施する可能性もあると私は見ています。
 
そして、こうした行動を取っていけば、米軍と人民解放軍の関係改善に資するといった副次的産物も期待できるかもしれないと中国本土は考えているかもしれません。
 
一方、逆に核開発とミサイル開発を北朝鮮が終えてしまえば、人民解放軍は北朝鮮の朝鮮人民軍を従えて、新たな北東アジアの軍事覇権の構築に向かう可能性があることも私は否定しません。
 
いずれにしても、今後の動向を注視したいと思います。



真田幸光------------------------------------------------------------
清話会 1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・東京三菱銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している

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