「南シナ海問題と中国本土について」(真田幸光氏) | 清話会

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「南シナ海問題と中国本土について」

真田幸光氏(愛知淑徳大学教授)


私は自らの主張のみ行い、他者、特に第三者の声に耳を傾けないような国には、
「法治社会の中で秩序を守る資格はなく、やっと、現行の社会では大義はない」
と考えています。

こうした考え方の下、従来からの政治・外交力、軍事力に加えて、経済力を増していることを背景にして、更には、他国とは「体制」が違うと主張して、例えば、民主主義の概念が違うからと主張し、自らの都合が悪いときには国際社会の通常の概念に於ける民主主義を否定する一方、自らの都合の良いときには、国際社会の民主主義の概念を巧みに利用し、自らの立ち位置の向上に利用する、
「ご都合主義的、自国勝手主義的」
な行為を繰り返す、中国本土には、国際社会の中でリーダーシップを取る上での、
「大義と資格」
は全くないと考えています。

その中国本土は、また、特に日本に対して、執拗に不満をぶつけており、例えば、王外相は、
「戦争で被害を与えた加害者はその責を未来永劫負わなくてはならない」
との主旨の発言を繰り返していますが、もしそうであれば、
「中国と言う国がかつて、周辺諸国を加害者として侵略した責も未来永劫負わなくてはいけない」
はずであり、それを、
「かつての中国と、今の中華人民共和国は異なる」
とは言えないと言うことを全く理解していないことを見るにつけても、更に、力を以って、それを背景にして、何でも押さえつけられるようになってきていると中国本土が思い上がっている現状を見るにつけても、やはり、
「今の中国本土政府には、義もなく、品格も感じられない」
と考えています。
 
尚、中国本土人の中には義を大切にし、品格のある人たちがいることは念のため、ここに付記しておきます。
 
さて、こうした中、南シナ海問題に関して、フィリピンが中国本土を相手にして国際司法裁判所に訴え出たことに対して、長期間の審議を経た上で、裁判所としての見解が今般示されたことはご高承の通りであります。
 
即ち、中国本土や周辺国が領有権を争う南シナ海問題で、国際司法判断を下す、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は、中国本土が権利を主張する境界線「9段線」に国際法上の根拠はない、との判決を出し、南シナ海問題を巡る初の司法判断で、提訴したフィリピンの主張をほぼ全面的に認める判決が示されました。
 
但し、国際法は、所謂「刑罰」などに相当する罰則がなく、法的拘束力がないのが現状です。
そして、こうしたことも背景にして、自国に不利な国際司法判断を示された中国本土は当然に、これに対して、激しく反発しており、例えば、国務院新聞弁公室報道官は、直ぐに、
「70か国以上の政府のほか世界の230以上の政党・政治組織が中国本土の立場に支持を表明した」
と主張すると共に、
「そもそもハーグの常設仲裁裁判所の選んだ裁判官そのものに中立性、公平性がなく、そうした裁判官を選んだ、日本人とその背後にいる日本政府が悪い」
などと、ハーグの裁判所そのものの尊厳を侮辱する行為に出ていますが、見苦しいにもほどがあると思います。
 
しかし、「力」を背景とした中国本土のこうした言動はこのままでは絶対に止まらないと私は見ています。
 
原則論に立てば、否、義を以ってすれば、
「中国本土は、法治社会の中で、法の下での判断を一旦は受け入れるという謙虚な姿勢を取らなくてはならないということを知らなくてはならない。 
もし、その判断に不満があれば、法治社会の中で、法に基づいて、法を変え、必要があれば、法体系そのものを変える努力を持たなくてはならないと言うことを知るべきである」
と私は考えています。
 
従って、こうした中国本土を国際社会は受け入れてはならないのであります。
 
しかし、現実はどうかーーー
心配になります。
 
中国本土の周辺諸国である東南アジアや朝鮮半島はもとより、最近の様子を見ていると、英国やドイツ、フランスを中心とする欧州諸国も、経済関係の発展を意識しつつ、
「中国本土のわがままを聞き入れてしまう」
という行為に出るのではないかと、私は、不安、そして懸念を感じているのであります。
 
現実は、実利を追う、その結果として、中国本土の、
「言った者勝ち、やった者勝ち」
的な自国勝手主義がまかり通ってしまうのではないかという不安と懸念です。
 
従って、そうした不安や懸念があるのであれば、先ずは、国際社会全体が中国本土に対してどう出るのかを見極めると共に、日本政府は、必要に応じて、欧州を中心とする国際社会の主要国に対して、
「法治を守ろうとしない国に大義はない。
 それがまかり通れば、現行の世界秩序が崩壊する可能性を拡大させる。
 それで良いのか?」
との主旨の論理を以って、中国本土の行為をきっぱりと否定して欲しいと水面下で粛々と国際ロビー活動を行い、そうした成果を見極めつつ、中国本土に対しても、ものを申すトーンを強めていくことが肝要ではないかと思います。
 
ここで、下手に日本が国際司法裁判を背景にして、中国本土に対して強く主張しても国際社会が呼応してくれない限り、その効果は薄い、否、国際社会の反応によっては、むしろ、日本の方が中国本土によって、
「孤立化させられる」
というリスクすら私は感じます。

 日本は今、
「大義と法の支配」
を国際社会に対して強く訴えていくべきです。




真田幸光------------------------------------------------------------
清話会 1957年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、東京銀行(現・東京三菱銀行)入行。1984年、韓国延世大学留学後、ソウル支店、名古屋支 店等を経て、2002年より、愛知淑徳大学ビジネス・コミュニケーション学部教授。社会基盤研究所、日本格付研究所、国際通貨研究所など客員研究員。中小 企業総合事業団中小企業国際化支援アドバイザー、日本国際経済学会、現代韓国朝鮮学会、東アジア経済経営学会、アジア経済研究所日韓フォーラム等メン バー。韓国金融研修院外部講師。雑誌「現代コリア」「中小企業事業団・海外投資ガイド」「エコノミスト」、中部経済新聞、朝鮮日報日本語版HPなどにも寄稿。日本、韓国、台湾、香港での講演活動など、グローバルに活躍している

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