「フィリピンの五種類邦人」……その一(山本紀久雄氏) | 清話会

清話会

昭和13年創立!政治、経済、社会、経営、トレンド・・・
あらゆるジャンルの質の高い情報を提供いたします。

街角ウオッチング182号
「フィリピンの五種類邦人」……その一

山本紀久雄氏(経営コンサルタント、経営ゼミナール代表)


※「街角ウォッチング」過去の記事はこちら

清話会主催の「フィリピン視察旅行会」に参加した。日程は2016年2月9日(火)~2月13日(土)。短い日程であったが、多くの現場訪問と、各界のリーダーにお会いでき、フィリピンについていくつかの理解を得た。

それらの中でフィリピンの特性として気づいたことがあった。それがタイトルの「フィリピンの五種類邦人」であり、他国では見られないフィリピンの特徴である。

外務省の調査によると、2014年10月現在18、870邦人がフィリピンに在留しているが、それは次の五種類に分類される。
 
Ⅰ.ビジネス滞在邦人
Ⅱ.英会話留学滞在邦人
Ⅲ.観光客邦人     
Ⅳ.日本脱出邦人
Ⅴ.困窮邦人


この五種類の邦人について述べることで、フィリピン全体についても触れ、未来のフィリピン未来予測も加えて見ていきたいが、最初は「Ⅰ.ビジネス滞在邦人」である。

Ⅰ.ビジネス滞在邦人


フィリピンは、約7100の島からなる島嶼国家で、面積は30万㎡、日本の8割程度の広さ。人口約1億人。16世紀から19世紀にかけてスペインの植民地だった影響で、フィリピン人の姓は基本的にスペイン系である。さらに20世紀初頭はアメリカの植民地であった影響で、英語を話す。国語は首都マニラで使われていたタガロク語を基に作られている。
 
経済は財閥が支配していて、華人財閥ではビールで有名なサンミゲル・コーポレーションを傘下に持つコファンコや大手スーパーを展開するシー、スペイン系財閥は不動産開発で有名なアラヤなど。宗教はカトリックが人口の80%である。

フィリピンは今までの政情不安、治安の悪さ、汚職問題、インフラ未整備などによって、海外からの直接投資は進まず、したがって工業化による経済成長は図れなかった。
ところが、他のASEAN諸国が軒並み輸出減で低成長に陥っている中、フィリピンは輸出に大きく頼っていないので、経済が順調なのである。


さらに、フィリピンは英語を話せる力を活かす「ビジネス・プロセス・アウトソーシング BPO」と、外国への出稼ぎOFW(Overseas Filipino Workers)1000万人からの送金によって、現在の経済成長は著しい。加えて、人口構成が正ピラミッド型。平均年齢23歳。


(※資料協力TESZARA(テザラ) http://www.teszara.com


(※資料協力TESZARA(テザラ))


(※資料協力TESZARA(テザラ) )


(※資料協力TESZARA(テザラ))


(※資料協力TESZARA(テザラ) )

 
次に紹介したいのは、マニラ市内の再開発である。開発されているところが赤○で表示されていて、そのひとつであるマカティ地区にバスで向かった。


(※資料協力TESZARA(テザラ) http://www.teszara.com

車内でガイド女性がいろいろ説明してくれる。
「マニラはどこでも渋滞で、インフラ整備が不十分。そこでナンバープレートの番号で運転不能日を決めている。末尾ナンバーが1と2は月曜日、3と4は火曜日、5と6は水曜日、7と8は木曜日、9と0は金曜日、土日は全車OK」。

日本車シェアは85%。以前は95%だったが、韓国車が入ってきたのでダウンしたという。フィリピンのシャツは胸ポケットがないといい、ガイドのシャツで証明してくれる。ところで、フィリピンで交通事故によって死亡しても、50万円くらいしか補償されないともいう。これは危ない。海外旅行保険に入ってフィリピンに旅行したほうがよい。

この海外旅行保険加入については、St.Luke’sセントルークスメデカルセンターへ訪問時に、ここに常駐している日本人からも忠告された。簡単な盲腸手術で100万円かかるし、ちょっとした大きい手術だと1000万円は軽くかかるという。救急車を呼ぶと有料で7000円かかるともいう。

ようやくマカティ地区に到着。ここの会議室でテザラTESZARAの佐々木社長からレクチャー受け、続いてフィリピン政府退職庁長官から説明うける。フィリピン政府は年金生活者の移住について本腰を入れているようである。この実態については「Ⅳ.日本脱出邦人」で検討したい。

次にスペイン系の財閥アラヤAYALAオフィスで、CEOのBernard Vincent O.Dy氏まで出席され、アラヤの開発計画について説明を受けた。


(左より、Ayala Land International Sales Inc. President Anna Lorena V.
Tatlonghari氏, Ayala Land Inc. CEO Bernard Vincent O. Dy氏, Ayala Land Inc.
Regional Business Group Sales Head Ricky M. Celis氏)


その後、多くの物件を紹介受けたが、その中の一例として価格を紹介する。
●59㎡ \ 23,364,403 ワンベッドルーム
●123㎡ \ 48,501,080 3ベッドルーム



(※資料協力TESZARA(テザラ) http://www.teszara.com






次の日は、マニラ中心地から50キロ離れている「ファースト・フィリピン・インダストリアル・パーク FPIP」に行き、ここの「KEDCケディカ」の工場見学。ここは亜鉛ニッケル、錫ビスマス、セラミック、プラメッキ等を行う施設である。

午後はFPIPの管理事務所で出資している住友商事から派遣されている男性から説明を受ける。なかなか的確な説明で有能さがうかがえる。

この男性が強調する。既にフィリピンに四年駐在いる間に「フィリピンとモノづくりが、つながらないというイメージ」が消え、「フィリピンは何となく危ない、イメージが悪い」と言われているが、それは「実はよくフィリピンをよく知らないからだ」と発言するように変化したという。

このFPIPには日本人が450名いて、広さは東京ドーム90個分。中小企業70%。キャノンの新工場が2015年12月オープンしている。






フィリピンへ進出日本企業メーカーとしては、FPIPのキャノン、そのほかエプソン、ブラザー工業や村田製作所など。自動車ではトヨタ、三菱自動車、日産自動車、ホンダなど。ユニクロ、ラーメン店では一風堂や山頭火、居酒屋ではワタミ、山肉の牛角など。コンビニではミニストップ、ファミリーマートなどである。

進出に当たって、注意しなければいけないのは、フィリピンには憲法による経済関連条項制約があることである。

農地以外の土地、エネルギー資源、木材、動植物などの天然資源すべてが、国によって管理されると定められている。このため天然資源の探査、開発、利用は
1.国家が直接実施する事業
2.国家とフィリピン国民との共同事業
3.または国家とフィリピン国民が60%以上出資する会社などとの共同事業
に限定されているように、外資の参入が規制されている。これがフィリピン事業展開での「見える障壁」である。

一方「見えない参入障壁」も存在する。それは文書化されていない障壁であるが、フィリピンではいくつかの地場大手財閥が市場を支配しているので、現地で小売業を展開するには、地元有力財閥との関係構築が重要となる。

いわゆるフィリピン独特の商慣習を知ってから参入形態を検討する必要があるわけで、コンビニのミニストップは地元のゴコンウェイ財閥と手を組んでいるし、ユニクロはシー財閥下のSMリテール社とジョイントベンチャーを設立して展開している。

今回、フィリピンで成功しているオフィス・バスターズを訪問した。ここは日本中古家具のビジネス用のものを扱っている。倒産とか、新社屋建築で不要となったデスク等が排出されるものをここに運んで再販売する業態だが、10前から展開していて順調とのこと。

その要因が、最初に赴任した日本人社員が、それは今の前任者のことであるが、マニラのミニコミ・タウンページから100か所くらい直接接触し、その中から良好なパートナーを見つけたことが、今日の成功につながっていると発言された。

正に上記の「見えない参入障壁」を克服したことで成功したわけだが、これはオリックスからも同見解の説明を受けた。オリックスもある財閥系の企業と提携していることが、高収益を上げている要因とのことを強調された。

いずれにしても、現在のフィリピンは好景気であり、明るい雰囲気の国となっている。

(続く)


山本紀久雄--------------------------------------------------
1940年生まれ。中央大学卒。日仏合弁企業社長、資生堂事業部長を歴任。現在、㈲山本代表取締役として経営コンサルタント活動のほか、山岡鉄舟研究家として山岡鉄舟研究会を主宰。著書に『フランスを救った日本の牡蠣 』『笑う温泉、泣く温泉 』等がある。

(山岡鉄舟研究会)    http://www.tessyuu.jp/
------------------------------------------------------------