「エストニア・タリンで見たマイナンバーの実例……その一」(山本紀久雄氏) | 清話会

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街角ウオッチング178号
エストニア・タリンで見たマイナンバーの実例……その一

山本紀久雄氏(経営コンサルタント、経営ゼミナール代表)


※「街角ウォッチング」過去の記事はこちら

2015年10月下旬の土曜日、フィンランド・ヘルシンキからエストニア・タリンまで85kmの海域を大型船Baltic Queenで向かった。船は18時30分出港。22時にタリンに着く。

この日、成田を発ち、時差ボケもあるので、船の中で一休みし、その後で仕事しようと思ったが、その思惑は完全に断たれた。
理由は、フィンランド人の若者たちの大騒ぎである。船は8階建て大型客船。5階のラウンジ窓際に座って、パソコンを開くとインターネットは簡単。

搭乗券に記載された数字(下の赤印)を挿入することで通じ無料。
これは良い、とパソコンに向かった矢先、ラウンジの両サイドからバカでかい音響で音楽が流れ始め、ものすごく下手なカラオケもがなり始めた。

船に乗った瞬間からビールを飲み始めたフィンランド人が、クラブとカラオケスナックで宴会を始めたのである。それもドアを開放したまま。

開け放れたドアから中に入ってみると、クラブでは歌手が歌い、客がダンスに興じている。反対側のカラオケでは、これまた大男が拙い調子放れで歌っている前で、男女がダンスしている。それも若い男女はシャツ一枚の軽装姿。こちらは寒くてコート着ているのに……。

この船はフィンランド人が週末を船に泊まってタリンに遊びに行くために利用するらしい。フィンランドとエストニアでは物価が違うので、アルコールも安いのである。





タリンの世界遺産旧市街地は美しい。トームペア展望台からの景観は、ちょうど黄葉の季節もあり素晴らしい。カモメも眼の前まで来て楽しませてくれる。
 
タリンはエストニアの首都。バルト三国の一角を占めている。
エストニアは面積4.5㎢、北海道の60%ほどの広さで、EU加盟国、通貨はユーロ、人口134万人、タリン人

口は43万772人(2014年)、平均月収は約900ユーロ(約11万円)と言われている。

報道の自由度ランキング上位国。公用語はエストニア語。複数の言語を話せる国民が多い。Skype(スカイプ)を産んだ国。外国のIT企業の進出も多くソフトウエア開発が盛ん。早期のIT教育や国際学力調査で欧州上位国である。

歴史はかなり厳しく何度か占領されている。13世紀以降、デンマーク、ドイツ騎士団、スウェーデン、ロシア帝国などが支配し、第一次大戦後1918年ロシア帝国より独立したが、第二次大戦中1940年ソビエト連邦が占領、翌1941年独ソ戦でナチス・ドイツが占領、1944年ソビエト連邦が再占領し併合。



1991年同連邦より独立を回復し、2004年にEU・NATOに加盟、2008年NATOのサイバーテロ防衛機関の本部所在国となる。
ロシアへの警戒心は強い。現在、エストニアの安全を確保するため、国境をすべて24時間体制の監視システムでカバーすると、ロシア軍の侵入を阻むための防壁の建設計画を発表した。

ロシアとの110キロメートルにわたる陸上国境のほとんどの区間に高さ2.5メートルの鉄条網付きのフェンスを設け、監視カメラも含めた最新鋭の警備体制を敷く方針で、建設費は7100万ユーロ(約95億円)と見積もっている。

タリンの住民民族構成はエストニア全体の統計と比べると、ロシア人の割合が高い。
在住のロシア人やウクライナ人の多くはエストニア国籍を保持しておらず、EU内では最もEU以外の国籍を持つ住民が多い都市となっており、2009年統計によると全体の22%がEU以外の国籍住民者である。
また、言語も公用語であるエストニア語と公用語になってないロシア語の割合が拮抗している。

その実態を示すように、タリン市内にはロシア正教会のアレクサンドル・ネフスキー大聖堂が威容を誇っている。ちょうど日曜日のミサなので入ってみると、教会内は人で埋まっていて、聖堂入り口ドアのすぐ右に、明治38年(1905)の日露戦争における日本海海戦で、当地出身の戦死した人の名前が彫られた石版がある。今でもロシアの影響は大きいと感じる。

街中を歩いていると、結構日本車が多い。特にトヨタが目立つ。レクサスも駐車している。






石畳みの細道にナンバープレートを剥がしている高級車アルファ ロメオが駐車しているのを見つける。ロシア人ガイドの説明によると、車は隣のブティックのもので、駐車禁止区域なので、警察に捕まらないようにする操作で、駐車違反は一時間3ユーロの罰金を防止するためだという。
 
タリンではトラムが縦横に走っている。ヨーロッパではトラムが常識。先般、静岡市から頼まれて市民に「世界のトラム事情」を講演したことを思い出す。2014年に世界では142都市がトラムを新増設した。

トラムは「ライト・レール・トランジットLRT」(次世代路面電車)とも言い、乗り降りしやすいように床を低くし、騒音を低減した路面電車のことで、少子高齢化に対応した移動手段の確保だけでなく、中心市街地の活性化手段としても注目されているが、日本では富山市だけしか導入されていない。東京オリンピック計画でも導入が話題にも上がっていない。不思議でならないが、これが日本の実態だと思う。

タリンではトラムの向こう側にトロリーバスも並行して走っている。トロリー以外に通常の路線バスもあるが、これらの公共交通機関が市民は無料になっている。
これはマイナンバー制度の普及効果だといわれる。

      
(次号に続く)


山本紀久雄--------------------------------------------------
1940年生まれ。中央大学卒。日仏合弁企業社長、資生堂事業部長を歴任。現在、㈲山本代表取締役として経営コンサルタント活動のほか、山岡鉄舟研究家として山岡鉄舟研究会を主宰。著書に『フランスを救った日本の牡蠣 』『笑う温泉、泣く温泉 』等がある。

(山岡鉄舟研究会)    http://www.tessyuu.jp/
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