「中国版マーシャル・プラン」(徐学林氏) | 清話会

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「徐さんの中国投資最新レポート」第18回
「中国版マーシャル・プラン」
――戦後金融システムへの挑戦?
 

徐 学林氏((株)京華創業 代表取締役)


 
2014年11月10日~12日にかけて、APEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議が13年ぶりに中国・北京で開かれた。加盟21カ国の首脳が集まる前で、習近平主席が「一帯一路」(ワンベルト・ワンロード=シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)計画を発表した。

具体的には、中国西部から西へ中央アジア、東ヨーロッパ、更に南ヨーロッパへと繋がる鉄道を建設し、これら国々のインフラ整備に中国が協力して進めること、また南では、昆明発ラオス、タイ、カンボジア、最終的にシンガポールまでを鉄道で結ぶ東南アジア各国を一体化できる海上シルクロードを進めることをいう。

日本で「二つのシルクロード」と訳されている同構想は、北京APEC開催前の2013年9月に習氏がカザフスタン訪問の際、提唱した「シルクロード経済帯」と同10月に開かれたAPEC非公式首脳会議で発表した「21世紀海上シルクロード」計画が原型で、北京APECでは、更にこれを具体化するため、アジアインフラ投資銀行(AIIB資本金1000億米㌦)とシルクロード基金(400億米㌦)の設立を宣言した。

中国が提唱した「一帯一路」計画は、中国と周辺国の相互接続パートナーシップが目標で、具体的には、
①中国の3兆9000億米㌦に上る外貨準備高の有効活用、
②中国が得意とする高速鉄道の建設などを通して、国内の生産過剰を周辺国のインフラ整備に活用すること、
③人民元互換協定を通して中国の通貨・人民元の国際流通を増やし、最終的に人民元の国際化を目指すこと
の一石三鳥の目的が見え隠れている。

周辺国支援を通して国内産業の育成または生産過剰を輸出することで、戦後の欧州復興計画になぞらえて、「中国版マーシャル・プラン」(Marshall Plan)と言われる所以である。

■FTAAP vs TPP?

「一帯一路」を推進するため、APECで中国が主導するアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)のロードマップが作成され、2年間で設立の可能性に関する計画が提出されることになった。

FTAAPは2006年のハノイAPECの際、加盟21カ国共同で提出されたのだが、その後、アメリカが中国を排除したTPP設立に傾斜したため、あまり進展が見られなかったが、中国がこれを再度提起し、TPPに対抗しようとするのではと言われるが、中国商務部の報道官は、「加盟21カ国の共通認識だ」と対抗説を否定している。

TPP加盟12カ国に対して、FTAAPは21カ国で、TPPの無条件関税撤廃に対して、条件が緩やかなため、APECの加盟国に歓迎される向きもある。現在域内のGDPは世界の57%を占めているが、共通した貿易ルールがないため、多国間貿易のコストがEUなどと比較して高くつく現状だ。

中国商務部の試算で、TPP交渉が成立した場合、中国の貿易額は1000億米ドル減少し、アメリカが1910億米ドル増えるが、FTAAPが成立した場合、中国の貿易額が1兆6000億米ドル増え、アメリカも6260億米ドル増える見込みだという。
中国がFTAAPを推進しようとする理由はここにあるのだ。

■人民元 vs 米ドル

一方、中国の海外進出に伴い、モノやヒト、資金も一緒に進出することが多く、決済も人民元の使用が増えるので、人民元の国際化も加速されることになる。中国は豊富な外貨を保有しながらも、2014年までにイギリス、ドイツを含む凡そ20カ国との間で、人民元互換協定を結んでいる。
これらの国々と貿易決済の時には、米ドルを介在せず、協定の枠内で互いの通貨で決済することで、為替変動リスクを回避しながら人民元を決済通貨にすることに役立っている。また人民元のオフショアセンターを香港・シンガポールに続きロンドンも加入したことで、人民元を備蓄通貨にする動きも加速されている。

日本のODAがピーク時より半減している今、APECを前後して、2014年中国はBRICS銀行、アジアインフラ投資銀行、アジア太平洋自由貿易圏、シルクロード基金など畳み掛けるように米ドルを基軸通貨にした戦後の国際金融秩序や通貨体制(ブレトンウッズ体制)に中国が挑戦しようとしているのではないかと解読されている向きもあるが、中国は実務重視で着実にこれを推し進めている。

こうした一連の動きで、株式市場では、鉄道関連やインフラ整備関連などがいち早く反応し、株価も動き出している。中国版マーシャル・プランの今後を注意深く見守りたい。



徐 学林
1983年  北京外国語大学日本語科卒
       北京放送入社
1990年  NHK国際局にて研修
1991年  名古屋市立大学大学院経済学研究科入学
1998年4月 (株)日本事業通信網入社
2001年6月 (株)邱永漢事務所、(株)邱永漢アジア交流センター入社
2012年9月 (株)京華創業 代表取締役就任

(株)京華創業
http://keika-corp.co.jp/