書評:『ASEAN・南西アジアのビジネス環境』
若松 勇・小島英太郎編著
ジェトロ 2014年7月28日
この本はジェトロの最新刊である。まさに時宜にかなった好著である。
ことに、これまでの他書とはまったく違い、ASEANのみならず、南西アジアのビジネス環境を分析し書き込んでいることが、大きな特色となっている。
これは時代がASEANだけでなく、南西アジアまで巻き込んで大きく変動しているからであり、日本企業もそこまで視野に入れて展開しなければならない状況となっているからである。
この本は南西アジアとして、インド・バングラデシュ・スリランカ・パキスタンの4か国を取り扱っている。さすがに私も、パキスタンまでは視野に入っていなかったので、参考になった。
各国別の分析も、ほぼ間違いなく記述されている。リスクについても、カントリーリスク、オペレーショナルリスク、セキュリティリスクに分けて記述されており、わかりやすい。ぜひ多くのビジネス関係者に、この本を読んでもらい、ASEAN・南西アジアのビジネス環境を概観してもらいたいと思う。
以下に参考個所を列記しておく。また記述が正確でないと思われる部分や不足している部分を赤字で書き込んでおく。
・タイ
撤退の際の税務調査が面倒だが、遡れるのは5年までなので、5年間休眠していればよい。
・ベトナム
ダナン市など中部や中北部に進出する場合、台風災害のリスクに留意する必要がある。
撤退は容易ではなく、当局からの厳しい税務調査を終えなければ手続きが完了しない。未納税額は5年前まで遡って徴収され、手続きに1~1年半程度を要する。
今後の景気回復状況次第で、過去に問題となっていたワーカーの採用難、労働争議、電力不足、外貨準備高の不足などが再発する可能性も考えられる。
・インドネシア
日系企業にとって、インドネシアは豊富な労働力を抱える安価な生産拠点としての位置づけであったが、その側面はなくなりつつある。
正社員を雇用しても解雇がしにくい、法定退職金が高額、違法ストライキが横行するなどといったことで悩みを抱えている企業経営者は少なくない。
*最低賃金は、週休2日制(1か月:20日間労働)を規準として決められているので、他国と比較する場合は1.25倍する必要がある。
・インド
撤退時には清算よりも会社の売却という方法を取る場合が多いようだ。従業員保護の観点から、例えば100人以上の工場労働者を雇っている場合、事業廃止の事前許可を州政府より取得しなければならない。しかしこの認可を得ることは難しく、実際は好条件を提示して自主退職を勧め、雇用者人数を規準となる100人未満にするという手段も取られているようだ。
・バングラデシュ
縫製業では業界団体への加入が困難であることも、進出でのハードルになる。EPZ外の地域から輸出する場合、特恵関税を利用して無税で輸出するためには、加工品構成明細表(UD)を税関に提出する必要がある。しかしUDは、バングラデシュ縫製品製造業・輸出業組合(BGMEA)が発行しており、同業界団体の会員にならなければUDの申告ができない。BGMEAは外資100%の縫製メーカーの加入条件を厳しくしているため、事前確認が必要だ。
・カンボジア
工場が集積するプノンペン西部を除けば、一定規模の労働力確保はそれほど難しくはない。
*労働力確保は難しくはないが、潤沢というわけではない。
ポル・ポト時代の影響が、カンボジア人の心理面に残っていることに注意が必要である。
・ミャンマー
国民の90%を占める仏教徒とマイノリティのイスラム教徒との間で2012年5月以降、あつれきが生まれ、治安面にも影響が及んだ暴動が複数回起きている。宗教問題は根深く、火種として残っているため、ミャンマーを訪問する際は意識しておいた方がよい。
ヤンゴン近辺は労働者不足である。
*全土が電力不足ではなく、停電がない地域もある。
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![清話会](https://stat.ameba.jp/user_images/20110729/09/seiwakaisenken/44/cc/j/t00670085_0067008511380517254.jpg?caw=800)
1947年生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化 市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を経ながら現職。中国政府 外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。
●小島正憲氏の「読後雑感」 これまでの連載記事はこちら!
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