「仕事のトラブル 急ぎの仕事が多すぎる…(1)」(今成淳一氏) | 清話会

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激動期に勝つ“良い会社”をつくるために 第50回
仕事のトラブル 急ぎの仕事が多すぎる…(1)

今成淳一氏(アイオー総合研究所所長)

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A社の営業課長であるB氏は、毎日をとても忙しく過ごしていました。ほとんど毎日、夜遅くまで残業しなければなりません。それでも仕事が滞りがちで、期限に間に合わせるのがやっとの状態でした。

ある朝C部長がやってきて、「先週頼んでおいた仕事はできたかな?」と言われ、B課長は凍りつきました。すっかり忘れていたのです。…

その日は最悪の一日でした。何とか部長からの依頼を間に合わせたものの、予定していた仕事をキャンセルし、部下の仕事にも影響を与えてしまいました。
もちろん、C部長からも厳しく注意されました。やさしい声をかけてくれた同僚もいましたが、自分のせいで周りに迷惑をかけてしまい、恥ずかしさでいっぱいでした。

その夜は早く帰るわけにもいかず、最後まで残って仕事をしていました。
「こんなことは初めてだ。どうしてこんなことが起こってしまったのだろう」

■忙しすぎた週末

先週末はいつもに増して忙しい状態でした。得意先に納品するはずだった商品が、トラブルでギリギリになったのです。通常の配送・納品手順では間に合わないので、配送業者の手配や出荷・納品業務の手伝い、納品先との調整等を部下と共に行い、何とか間に合わせたのでした。
「戦争のような忙しさ」という表現がピッタリの週末だったのです。

C部長からの依頼は、そんな日の朝に請けたものでした。
その仕事も通常は自分が行うべき仕事ではなく、部長が行う仕事でしたが、部長がその日から出張が続くことや、自分のほうが詳しい内容だったので頼まれたのです。

その仕事は「週明けから取り組めば十分できる」はずのものでした。
しかし、なぜか失念してしまったのです。

仕事を受けた時には必ず記入するはずのメモも残っていませんでした。
書くのを忘れてしまったのか? そんなことはないはずだけれど…。
書いたメモを無くしてしまったのだろうか?仕事を受けたときの様子が全く思い出せませんでした。

よりによってこんなときに…。
忙しいときこそ、メモを書くという習慣が役立つはずなのに…。
最近は、どうもイレギュラーな仕事、急ぎの仕事が多すぎるような気がする。

■C部長の思い

週末の朝、C部長はB課長のところに出向き、翌週金曜日の会議に使うはずの企画書の作成を頼みました。

その企画の原案はB課長が考えたものだったので彼のほうが詳しいということもありましたが、そろそろB課長にも仕事を任せてみようと考えたからでした。
B課長に任せるタイミングとしては最適だと思ったのです。

また、予定していた出張が急遽前倒しになり、スケジュールが変わったことも、B課長に任せようと思った原因の一つでした。

B課長のところに行くと、何かが起こっていたようで、バタバタとした雰囲気でした。
B課長に「何かあったのか?」と聞いてみたところ、「今日納品予定だったものがトラブルで遅れそうになっている」とのことでした。

「でも、何とか解決できそうだ」ということだったので、水曜日の朝に企画書の一次案を見せてくれるように頼み、足早に立ち去ったのでした。

そして水曜日の朝、普通であればB課長のほうから届けにくるはずが、来ないようなので自分から出向くことにしました。
先週末のトラブルのその後の対応についても詳しく聞いておきたかったのと、出来れば課のメンバーにも一言感謝を告げておきたかったからです。

しかし、「企画書の作成を全く失念していた」というB課長の言葉に、そのような思いも忘れ、思わずきつい口調で「どうするんだ」と問い詰めてしまったのです。
「部下の前で言うべきではなかった」と後に反省しましたが、そのときには頭に血が昇っていたのです。

結局、いつになってもよいから今日中に提出するようにB課長に告げ、戻ったのでした。
「B課長は最近どうもおかしいな。何かに行き詰っているのだろうか…?」
「どちらにしても、B課長には注意を払っておいたほうがいいかもしれない」

■部下D氏の視線

D氏はB氏が課長になってからの3年間、B課長の下で仕事をしていました。
そんなD氏にとって、この前の水曜日は初めてのことでした。

C部長がB課長の前であんな風に言うなんて、少し驚きました。それに、B課長が仕事を忘れるということも驚きでした。

結局、企画案の作成を手伝うことになり、D氏も帰りがいつもよりも遅くなってしまいました。しかし、それで課長に対して不満を感じるというよりも、少し可哀想に感じたというのが正直な気持ちでした。

最近の課長は何かと忙しそうなのです。
自分も判断に困ったときや、お客様との関係がうまくいかなくなりかけたときに助けてもらいましたが、皆もいろいろと仕事の相談に乗ってもらっていたからです。

B課長は、部下がそのように相談に行くと気軽に応じてくれる人で、部下も相談に行きやすかったのです。
中には、課長に相談に行くことで自分をアピールすると言うか、課長からよく思われたいと思って、それほど重要ではないことでも相談に行く人がいるほどでした。

課長自身も重要なお客様を担当しているはずなのに、自分だったらあんなに部下の相手をしていられないなあと思うこともしばしばでした。
特に最近は社内にいることも少ないようで、自分が相談するときには事前にメールでアポを取らないといけないような状態でした。以前に比べ、なぜか課長の存在が遠くなったように感じていました。

このままで、うちの課はうまくいくんだろうか?
水曜日の事件以来、少しだけ不安を感じるようになりました。


~次回に続きます~


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今成淳一(アイオー総合研究所所長)

1959年生まれ。電子部品メーカーで技術職として勤務後、経営コンサルティング会社役員を経て99年独立。経営コンサルティング歴25年。「ドラッカー教授のマネジメントを実際の経営に活かすことで、企業の課題解決と体質改善を図る」ことを主体に取り組む。
「差し迫った課題を解決するだけでなく、“良い会社をつくる”ことを目指す」内容と分かりやすい解説が、多くの経営者から支持を得ている。清話会メールニュースにて、「激動期に勝つ“良い会社”をつくるために」を好評連載中。