欧米人観光客を増やそう・・・その一 (山本紀久雄氏) | 清話会

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街角ウオッチング154
欧米人観光客を増やそう・・・その一
・・・一極集中、全体システム、または新工夫か・・・

山本紀久雄氏(経営ゼミナール代表)


※「街角ウォッチング」過去の記事はこちら


以前から自宅の床が一部凹み、その上を踏むたびにギシギシと怪しい音、何とかしないといけないと思うようになっていたところに、市役所の広報紙に「耐震診断を無料で行う」と掲載されたのが眼に入った。診断を受ける家の条件は昭和56年以前の建築とある。当方は昭和54年建築であるので早速に診断を申し込んだ。

受診要件の昭和56年とは、建築基準法が改正され、地震に対する基準が強化された年で、これ以前に建てられた建物は大地震に対する耐震性が不足している可能性があると、市役所の説明書にある。

因みに、日本の建築基準法は大地震の度に改正され、平成7年の阪神淡路大震災後も三度改正され、そのたびに耐久性基準が強化されている。

さて耐震診断、市役所から認定された一級建築士が来て、ジックリ一日かけ、屋根裏から床下にもぐり調査し診断、その報告がしばらく経ってなされた。

結果は「倒壊する可能性が高い」という立派なもので、この評価結果に納得している。というのも現在の自宅は住宅金融公庫から借入して建築したもの、という意味は当時の建築基準法に則り建築したものであるが、その後の建築基準法は大幅に強化されているので、指摘されることは分かっていたからである。

この耐震診断結果を受け、リフォームか、それとも建て替えをするか決心がつかないまま、近くの住宅展示場を訪れ、いくつかのハウスメーカーの建物を見て感じたことは、今の時代に建てられる家の快適性追求の素晴らしさであった。

耐熱性を向上させ、冷暖房費のコスト減、キッチン、風呂、トイレ設備の使い勝手の良さと、地震エネルギーを吸収してしまうシステムの取り入れ等、これほど変わっているのかとビックリし、とうとう建て替えを決心し、ハウスメーカーを決めて、設計打ち合わせをしながら、知人、友人、それとメーカー紹介の家を多数見学して歩いた。

見学結果の感想は、やはり最近の木造建築は地震対策と不燃化構造強化と、加えてスマートハウス向かっていて、さすがは日本の技術力だと感心している。

9月は日本各地を回った。札幌に二度往復し、次は羽田から伊丹乗り換えで但馬空港に着陸し、豊岡市を経由し朝来市と養父市を回った。

利用したJR、タクシーから外を見、特にバスは片道30分の山深き目的地に行き、道端を歩く人も殆どいなく、乗客も往復とも二人のみという状態のなか、その間ずっと窓外をウオッチングし続けたが、家並みには何ら違和感がなく、景観に珍しさが感じられない。どこの家も、新しい建材で建てられており、庭の片隅にプレハブ物置小屋がたたずんでいて、筆者の自宅あたりの首都圏と似ている。

勿論、自然環境の山川と木々は地方の素朴さを示し、道路端には田畑があり、農業が行われているので、家と家との間隔は広く、全体的景観は違っているのであるが、家は今時の建築で建てられているので、住居としての木造家屋には何ら違和感をおぼえない。つまり、かつて存在していた地方独自の建築様式による住宅が見られないのである。

そこでこの地に観光に訪れたとしても、家屋とそれが続く家並みそのものは観光資源として存在し得ないと感じる。首都圏と同じように建物と物置小屋が並ぶ光景では、何ら地域としての特殊性がないからである。

では、何故にこのようになったのか。その理由の第一は、全国統一基準の建築基準法により建築されるからであろうと推測している。

しかし、仮に日本に建築基準法がなければ、昔の家並みが維持されたか。それも疑わしい。日本人の家は、その家族の状況によって建てられるケースが多い。したがって、家族構成の変化や、今時の生活スタイルと異なった昔のままの間取りでは快適さが損なわれる。

さらに、元々冬寒く夏暑い構造建築であることや、萱葺きの屋根の場合、葺き替えにコストがかかり過ぎるように、メンテナンス費用が膨大になってしまい、それなら建て替えした方が安いし快適な生活が出来る。加えて、高度成長時代の道路等公共設備関係の整備も影響し、そこに日本人の何でも新しいものを好む感覚が加わって、家の建て替えに至るのだろう。

ところが、欧米では家に対する考え方が異なっている。一般的に言えるのは、家は特定の人のために造るのではないので、最初から間取りは大きくしてあり、またある程度統一しており、中古住宅として売りやすいようにしている。

また、買う人もインテリアやガーデンを自分好みにして住み、手狭等の理由で移転したい場合は、希望する大きさの中古住宅を求めていく。ということは欧米では中古住宅売買市場が確立しているのであるから、日本ほど建て替えは多くない。

また、前号で紹介したドイツのカールスルーエの街、どこを歩いてもプレハブの物置小屋は見当たらない。これはミュンヘンでも同じである。さらに、ゴミ箱も外部から見えない建て方になっている。ゴミは市役所が敷地内に入ってきて回収していく。ということはゴミ箱が外から見えない敷地内に置かれているのである。

この物置小屋がなく、ゴミ箱が見えない構造の家並みはどういう状況になるか。それは整然とした家並みが続く景観となる。だから、ヨーロッパの家並み街角は落ち着き、そこをそぞろ歩きするのも楽しみとなり、立派な観光資源となり得る。

日本の場合、この街並み感覚へのセンスが異なっている。典型的な事例だが、近くの手打ちそば屋が最近改築した。オープンした店舗は老舗らしくのれんも格式があり、味がよく、店内もきれいで応対も価格も立派である。

だが、正面右側に二階住居への鉄筋階段があって、その下に生ビールの樽とか空きビール瓶が雑然と並んでいる。店内の物置スペースからはみ出しているのだろうが、通り過ぎる人々の眼に露わとなって、これが全体の美観を大きく損なわしている。だが、店側は気づかないかのようにそのままである。

このような事例は温泉地の旅館でも見られる。門から玄関とフロント回りは素敵だが、一歩裏口に回ると、昨夜の宴会で飲まれたビールや日本酒の瓶が雑然と置いてある。これを見ると、あの瓶は仲居さんがお酌してくれ、気持ちよく飲み、高いお金を支払ったものなのに、飲み終わったものを大事にしていないと思う。つまり、最後までのサービスが徹底していなく、心が通っていないと感じ、もう一度泊りたいとは思わなくなる。

まだこのようなことも経験した。以前、在日フランス大使館に招待された時のことである。

尾張徳川家の所有だったフランス大使館は起伏のある広大な敷地で、古い灯籠のある大名庭園が独特の風情をかもしだしているが、その庭で当時のフランス大使が向こうのビルを指さして「あの屋上の水槽タンクは美観を損ねますね。フランスでは考えられない設計です」と指摘受けたことがあった。日本では当たり前に屋上に水槽タンクが備えられ、それが外部から見える設計のビルが多いが、それは欧米感覚から見ると違和感があるのである。

このように日本の家並み景観はなかなか観光地として受け入れられるレベルに至っていないし、地方を旅行しても同様である。
したがって、当方の建て替え設計は、物置スペースとゴミ置き場は、当然に外から見えなく家と一体化したものにした。設計家によると始めての試みだとのこと。

(次号に続く)


山本紀久雄--------------------------------------------------
1940年生まれ。中央大学卒。日仏合弁企業社長、資生堂事業部長を歴任。現在、㈲山本代表取締役として経営コンサルタント活動のほか、山岡鉄舟研究家として山岡鉄舟研究会を主宰。著書に『フランスを救った日本の牡蠣 』『笑う温泉、泣く温泉 』等がある。

(山岡鉄舟研究会)    http://www.tessyuu.jp/
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