「中国は21世紀の覇者となるか?」  (書評:小島正憲氏) | 清話会

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「中国は21世紀の覇者となるか?」 
ヘンリー・キッシンジャー他著 酒井泰介訳  
早川書房  12月15日

副題 : 「世界最高の4頭脳による大激論」   
帯の言葉 : 「尖閣問題から資源戦略までを論じ尽くす!」


この本は、キッシンジャー、ファリード・ザカリア(国際問題ジャーナリスト)、ニーアル・ファーガソン(ハーバード大学の歴史学者)、デビッド・リー(李稲葵 清華大学の経済学者、中国人民銀行の金融政策委員会の学術委員)の4氏による、トロントで開催された第7回ムンク・ディベートの発言記録である。なお前2者の発言は「中国が覇者となることに」懐疑的かつ否定的なものであり、後2者は肯定的なものであった。

このディベートは、「中国の成長が始まったのは、市場経済に舵を切った1978年のことだ。この針路変更を考えに入れても、1990年代初頭までの年率平均で10%に及ぶ成長はあまりにも鮮烈で、異常とも思われる。新たに見出した経済力をもって、とりわけ欧米がそれらを失いつつあるように見える時代にあって、中国はすでに世界の主導的政治大国の座に躍り出た」という認識を前提にして、「中国がこの勢いを維持できるかどうか、21世紀の世界的覇権国家になれるかどうかをめぐるものだった」(ピーター・ムンクによる序文から)。そしてこの4氏の大激論の結果は、激論前には「中国は覇者となる」との見解が多数派を占めていた聴衆を、少数派に転じさせた。

まずファーガソン氏が、中国の人口動態データや経済データを持ち出し、中国が大国であることを証明し、「私はただ中国のことだけを問題にしているのではありません。21世紀における中国の優位性は、結局のところ西側の衰退にあるのです」と激論の口火を切っている。しかしこのファーガソン氏の持ち出したデータは、きわめて常識的かつ表面的、公式的なもので、その数字の背後にあるものまで厳密に検討、検証されたものではない。この程度のデータや物証で、中国の将来について論じることは、学者としてはきわめて軽率であると、私は考える。

これに対してザカリア氏が、経済的、政治的、地政学的な理由により、「中国は21世紀を通じて世界的な覇権国にはならない」と言い、「さらに、中国の制度には膨大な非効率が組み込まれている」と指摘し、「中国への月度の外資流入は、インドへの年度の外資流入額にほぼ等しいのですが、それでいて中国の経済成長はインドをわずかに2%程度上回っているにすぎません。言い換えれば、中国の成長の質をよく見てみると、見かけほど目覚ましいものではないということです。巨額の投資、膨大な数の空港、片道8車線の高速道路、建設中の高速鉄道、そのあげく、それらから生み出される投資収益率は、あまり印象的なものではないのです」と発言している。この指摘は、傾聴に値すると私は考える。

続いてリー氏が、「中国社会の発展は道半ばである」と言い、それをエネルギー、リバイバル、インフルエンスという3つのキーワードを使って説明している。エネルギーとは、中国人民の170年前の西洋諸国に対する屈辱を晴らそうとするものであり、それが「経済的にであれ、政治的にであれ、これからも変化を続ける原動力になる」と主張している。これは「戦後日本の経済発展を、敗戦から立ち上がる日本国民のエネルギーの結果である」と言っているようなものであり、科学的な分析とは言えない。

さらにリー氏は、中国人民の目指す目的地は、「1500年前の偉大な帝国、唐の時代の復興です」、つまりリバイバルですと言っている。そして今から90年後には、中国は世界に対して多層的な影響力(インフルエンス)を及ぼすと話している。このリー氏の発言は、非科学的で情緒的かつ非現実的なものであり、激論の輪から大きくかけ離れたものであり、私はこの場にはふさわしくないと考える。

最後にキッシンジャー氏が、「私は、21世紀の中国は、膨大な内政問題、差し迫った環境問題に足を取られるだろうと思います。そしてこのために、中国が覇権を握る世界という様子は、到底想像しにくいものです」と発言し、その根拠を、
「中国は経済的に偉大な事々を成し遂げてきました。ですが国家としては、毎年、2400万人の雇用を生み出さなければならないのです。さらに中国の都市は、年間600万人の農村からの移住者を吸収しなければなりません。1億5000万~2億人の住所不定者を何とかしなければなりません。沿岸部は先進国並みである一方、内陸部は途上国並みという社会を御していかなければなりません」と説明している。キッシンジャー氏が、このような底の浅い中国認識で、「中国が覇権国家にはなれない」と主張していることに、私は驚いた。

後半の議論では、ファーガソン氏が、「中国は世界最大の経済刺激策に取り組んで成功させ、それによって役割を一変させました。もはや他の新興諸国の競争相手ではなくなり、自らが頼りになる巨大市場となったのです」と発言し、リー氏が、「30年ほど前の中国には、変革などとてもおぼつきませんでした。今では米国を尻目に長距離高速鉄道網を手にしています。今ではGMよりも安いばかりか、もっと効率の良い自動車を生産しています」と主張している。

しかしこれらの発言は、その後の高速鉄道の大事故と、やがて始まるバブル崩壊後の市場の冷え込みによって、虚言であったことが証明されることになる。私はこの本を読んで、これが世界最高の4頭脳による大激論ということならば、日本の中国認識や研究は、きわめて高い水準であると確信した。

なおキッシンジャー氏は、「情報収集の能力については、今では30年前、40年前には想像もできなかった方法があります。しかし既に知っていることを組み合わせて考える力については、まさにボタン一つでどんな情報でも引き出せるようになったからこそ、先々を見据える思考力が衰えています」と指摘している。



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清話会  評者: 小島正憲氏 (㈱小島衣料オーナー )

1947年生まれ。 同志社大学卒業後、小島衣料入社。 80年小島衣料代表取締役就任。2003年中小企業家同友会上海倶楽部副代表に就任。現代兵法経営研究会主宰。06年 中国吉林省琿春市・敦化 市「経済顧問」に就任。香港美朋有限公司董事長、中小企業家同友会上海倶楽部代表、中国黒龍江省牡丹江市「経済顧問」等を経ながら今年より現職。中国政府 外国人専門家賞「友誼賞」、中部ニュービジネス協議会「アントレプレナー賞」受賞等国内外の表彰多数。

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http://ameblo.jp/seiwakaisenken/theme-10028305790.html



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