「なんともあやしい暫定基準値」(花岡信昭氏) | 清話会

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なんともあやしい暫定基準値

花岡信昭氏(拓殖大学大学院教授、産経新聞客員編集員)
 
 政府の危機管理はどうなっているのか。いたずらに風評被害をあおりたてているだけではないか。
 
清話会 各地で放射線測定を徹底させるのは当たり前の対応だが、これまでのところ、健康にまったく害がない水準の数値を公表して大騒ぎさせている。

 米ホワイトハウスが同じような立場になったら、測定値は徹底して一括管理し、発表するかどうか、きわめて高度な政治判断によって決めるだろう。

 これは隠蔽するという次元の話とは違う。国民にいらざる不安を与え、風評被害が起きないように配慮するのも危機管理だ。

 それが、日本の場合、文部科学省やら自治体やらが測定した数値をそのまま発表し、混乱を生んでいる。枝野官房長官は毎日のように「健康被害はない」と繰り返しているが、害がないのなら、なぜ出荷停止だの摂食停止だのといった措置を取るのか。

 だいたいが、食品衛生法の暫定基準値というのがおかしい。厚生労働省のやることは、おかしなことばかり多いから、いまさらあやしんでも始まらないのだが、なぜ、暫定基準値をこんなに低めに設定したのか。

 ついでだから、厚生労働省の「おかしな体質」について言及しておこう。ここは、もともと旧内務省の中核部隊であるはずだった。これからの日本を考えても、福祉、医療、雇用といった重要な国家的役割を負っているのだから、「三等官庁意識」を払拭してもらわなければならない。

 これもよけいなことだが、霞が関では、昔から「外務、大蔵、通産」が御三家と呼ばれ、それ以外は格下に見られていた。その意識を捨ててもらわないと困る。

 年金記録の紛失問題を取り上げるまでもなく、この役所のやることは無責任きわまりない。そういう体質が根付いている。

 だいたいが、国民年金をきちんと払い続けてきて、支給段階になったら、月に6万円ほどだが、これがまったく払わずに来て生活保護を受けたら16万円もらえるというのはおかしくないか。

 そのおかしさを知りながらフタをしてきたのが厚生労働省という役所である。かつての外局であった社会保険庁という、まさに「働かない小役人の集合体」の象徴のような役所はさすがに消えたが、体質は消えていない。

 さらについでに言えば、年金問題がいまだに片付かないのは、歴代の社会保険庁長官(2年交代ぐらいで厚生省から出向していた)の責任を問わなかったことに大きな要因がある。歴代長官の私財を没収して生活保護で暮らしてもらうぐらいのことをやっていたら、もっとまじめに取り組んでいたはずだ。

 厚生労働省の体質をしつこく指摘しなくてはならないのは、今回、問題になっている暫定規制値を決めたのが、ここだからだ。国際放射線防護委員会、国の原子力安全委員会の指標をもとに、ばたばたと決めてしまった。

 無責任体質がしみついている役所が決めたものだから、あとで責任を問われないようにかなり低めに設定してしまったのである。

 いまになって、あわてて識者らを集めて基準値の見直しを始めたが、これだけの騒ぎを起こしたあと、基準値を上げたら国民の信頼はさらに落ちることになる。

 基準値を超えてもまったく害がないというのは、いったい何のための基準値なのか。

 水道水の場合、ちょっと高めの数字が出て、乳児の摂食停止が指示され、翌日には低くなったから大丈夫という。こんなばかげた行政があるか。

 農産物、原乳などもそうである。1か所で高めの数字(それも健康被害は皆無というレベルの)が出たからといって、その県全体を出荷停止にするというのは、混乱を助長しているだけにすぎない。

 本当に国民の健康を考えているのなら、飲食禁止にしなければ害が出るというときだけ緊急告知すればいい。いまのような「オオカミ少年」的なことをくり返していたら、国民は政府も行政も信用しなくなる。

 たとえ「安全宣言」を出しても、そういうときのほうがあぶないと、さらに一段上の風評被害を招きかねないではないか。



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