悲観論の日々  森野榮一(経済評論家、ゲゼル研究会代表) | 清話会

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森野榮一のエコノぴっくあっぷ第29回

悲観論の日々


森野榮一氏(経済評論家、ゲゼル研究会代表)


先週、世界経済の減速を懸念する不安感が世界を覆っていることを知らされた人も多いに違いない。米経済は経済見通しを下方修正せざるをえないほどふるわない。世界経済を牽引すると期待される中国の4~6月のGDP伸び率は減速した


今年後半にかけて中国経済の難局を予測する向きもいる。欧州の危機も終わったというにはほど遠く、財政危機が金融危機を生むのではないかとの恐れもあり、世界経済の3割をしめる欧州経済の成長は描きにくい。


そんななか世界経済の先行きを懸念するマネーは敏感にも、相対的に安全な避難先と見られる円に向かった。円は一時、対ドルで86円台を付けたのだ。


海外経済の好調さの恩恵を受けて、曲がりなりにも復調してきたかの日本経済も、この円高では輸出競争力の点で厳しい。世界経済の先行き次第の我が国経済であれば、これからのグローバルな経済環境がどうなるのか、かなり心配になる。


不安が覆った状況では悲観論が脚光を浴びることになろう。悲観論者はどのような見解なのか気になるところであるし、参照しておきたい気になる。


ちょうど18日付けで、代表格のヌリエル・ルービニがChinaStakes に Double-Dip Days(二番底の日々)というテーマで議論していたので、三連休の合間に、ざっと目を通してみた。http://www.chinastakes.com/2010/7/double-dip-days.html


おおよそ下記のような内容である。


・・・以下引用


08年から09年の景気後退以来、大規模な通貨・財政刺激並びに金融部門の救済によって人為的に推進された世界経済は、こうした対策の効果が薄れることで、急激なスローダウンに直面している。


民間部門(家計や銀行、その他金融機関、さらには企業部門)における大きすぎる債務や信用膨張がいまだ悪化していることが言及されてこなかった。民間部門のデレバレッジは始まらなかったし、その上現在、先進国経済では公的部門の借り入れ膨張が再び増加している


それには・・・大規模な財政赤字と反景気循環的な財政刺激、金融部門の損失を社会化するコストによる公的債務の蓄積が伴っている。先進国経済では家計や金融部門がデレバレッジし、政府が消費や投資を刺激し始めることで、活力なき、下降トレンドの成長期が続く時期に直面している。グローバルなレベルではあまりに多くを支出した米国や英国、スペイン、ギリシャ、そしていまやどここの国でも、デレバレッジ、そして支出や消費、輸入の削減の必要に迫られている。


しかし過度に貯蓄した中国や新興アジア、ドイツ、日本のような諸国はデレバレッジする諸国による支出減を埋め合わせるために支出を増やそうとはしない。したがってグローバルな総需要の回復は弱く、グローバルな成長をいっそう低下させていく。


すでに2010年第二四半期のデータで明らかなグローバルなスローダウンは今年後半に加速するだろう。財政刺激はほとんどの諸国で緊縮策が採られることで消え失せるであろう。数四半期に成長を押し上げた在庫調整はダウンするだろう。自動車や住宅の購入にインセンティブを与える将来から需要を盗むような税対策は期限が切れ減少するだろう。


労働市場の条件は弱いままであり、少しの雇用創出しかなく、広がった消費者の不安感は残ることだろう。先進国経済にとってのありそうなシナリオは、たとえW字型の二番底を回避したにしても、平凡なU字型の回復というものだ。米国では、成長率はすでに2010年前半の趨勢を下回っている。(第一四半期は2.7%で、4~6月は2.2%でたいしたものではない)


成長はさらに低下し、今年後半は1.5%になり2011年に突入する。最終的に米国の経済実績がどのような字の形に似ていようが、これからやってくるのは景気後退のように感じられるだろう。雇用創出は活気がなくと失業は続騰する。景気循環による大規模な財政赤字、住宅価格のさらなる下落、担保ローンや消費者信用、その他ローンでの銀行の巨額損失、議会が中国に対する保護主義的政策を採用するリスクが景気後退を実感させるだろう。


ユーロ圏の見通しはいっそう悪いものだ。成長は今年末までゼロに近いかもしれない。緊縮財政が始まり、株式市場が下落するからである。国債や社債、インターバンクの流動性スプレッドの急激な上昇は資本コストを増大させるであろうし、リスク回避、ボラティリティ、ソブリンリスクはビジネスや投資家、消費者の信認をいっそう害していくだろう。ユーロの弱体化が欧州の貿易収支の助けになろう。その利益は米国や中国、新興アジアにおける輸出のダメージや成長見通しによって相殺されるより大きいだろう。


中国でさえ、政府が景気過熱をコントロールしようとしているので、景気減速の兆しを見せている。先進国経済の減速は、ユーロ安も伴い、中国の成長をさらに抑制するだろう。11%超の成長率をもたらしてきたが、今年末までには7%になるだろう。これはアジアのその他の国の輸出の伸びにも、中国の輸入に依存する豊かな資源国にとっても悪いニュースである。


有力な犠牲者は日本であるだろう。活力のない実質所得の伸びは国内需要に打撃を与えており、中国への輸出が現在のわずかな成長を維持している。日本は潜在的な低成長でも苦しんでいる。それは構造改革の不足、(4年で4人の首相という)脆弱で非効率な政府、巨額の公的債務、好ましからざる人口動勢、グローバルなリスク回避の間は、いっそう強くなる円である。


米国の成長が1.5%に落ち、欧州と日本が停滞し、中国の成長が8%を下回るシナリオはグローバルな収縮を意味しないかもしれないが、・・・なにかの追加的ショックがこの不安定なグローバルな経済を完全な景気後退に引き戻すかもしれない。そのようなショックの源は潜在的にいくつもある。ユーロ圏のソブリン・リスクの問題は、資産価格の修正、世界的なリスク回避、ボラティリティ、金融の接触感染という別の場を通じていっそう悪化するかもしれない。


資産価格修正と、いっそう力のない成長の悪循環は・・・さらなる資産価格の下落、さらに弱い成長へと導く。・・・そしてイランに対するイスラエルの軍事攻撃の可能性も排除できない。そうなれば石油価格は急激に高騰し、2008年夏のように、世界的不況の引き金になる。


政策立案者は道具を使い果たしてしまっている。追加的なマネーの量的緩和はさしたる違いをつくるわけではない。ほとんどの先進国経済でいっそうの財政刺激の余地はない。潰すには大きすぎるが救済するには大きすぎる金融機関を救済する力は急速に失せている。したがって、急速なV字回復という妄想のような望みは消え去り、先進諸国はよくてU字回復だが、場合によってはユーロ圏や日本は長く続くL字型の景気後退に近い状態へと入るかもしれない。


二番底を避けるのは難しいであろう。このような世界で、強力な新興市場も・・・苦しむであろう。なぜならいかなる国も経済的に孤立していないし、・・・中国を始めとして多くの新興市場の成長は先進国経済に高度に依存しているからである。・・・引用終わり


世界の政策当局の政策手段が尽きているとの指摘は納得できるものだ。各国は金融政策でも財政政策でもとりうる手段はみな採ってきている。中銀は非伝統的な手段まで動員してきた。そうしてその効果も効果切れが迫っているのも確かである。政策の出尽くし感が漂うなかで、世界経済は二番底を迎えるのか。


そうなった場合、有力な犠牲者が日本であるという判断は暑い夏を涼しく感じさせてくれるに十分なものだ。伸びを欠く所得は国内需要を相変わらず低迷させているし、輸出でかろうじて現状が維持されている。将来の成長を信じることができない要因もルービニの挙げるように多々ある。日銀はターゲット・レンディングまでして国内経済活性化の努力を始めているが、そもそも民間の資金需要が弱い。先行き不透明であれば、企業の積極的投資も出てこようがない。


需頼みになるしかないが、それが落ち込む可能性が強いわけだ。世界の先行きも我が国のそれも、悲観的要素が重みを増してきているように感じられる。悲観論の通りになるとは考えない人も、今年後半、不確かさが増していく環境になっていくことには異論をはさめないかもしれない。