【森野榮一のエコノぴっくあっぷ】(20)「リーマン2.0」 | 清話会

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森野榮一のエコノぴっくあっぷ  第20回 

「リーマン2.0」


森野榮一氏(経済評論家、ゲゼル研究会代表)



先週末はギリシャの債務危機が大きなニュースだった。

6日付けのシュピーゲル・オンラインの記事をみると、

http://www.spiegel.de/wirtschaft/unternehmen/0,1518,676260,00.html

「ブローカーはリーマン2.0を怖れる」とある。

変化の速いネットの世界でもWEB1.0からWEB2.0へと進化していくには、幾年もかかったような気がする。


それが国際金融の世界では、08年のリーマン・ショックをいまだ世界経済が引き摺っているのに、はやくも、もうひとつのグローバルな世界恐慌の懸念である。リーマン2.0とは、シュピーゲルもうまい表現をするなと思ったが、こちらのバージョンアップはいただけない。

たしかにギリシャの危機は「投資家には心理学者がデジャヴ(既視感)と呼ぶ」状況をもたらしたにちがいない。08年秋のリーマン再び、なのかである。


「米国の投資銀行リーマン・ブラザースが08年秋に崩壊して、金融危機がエスカレートし、燃えさかった。銀行間ではマネーの流れが凍り付き、返済不履行の恐怖が債券市場を崩壊させた。ドミノのように銀行は不安定化した。」

いまだ記憶に新しい。まだ17か月しか経過していないのである。「『ギリシャへの未返済投資額は2900億ドルで、08年秋リーマンが立てていた金額1400億ドルの二倍以上』とコメルツバンクのエコノミスト、ヨルゲ・クレーマーは言う。」


G7が先週末、会合をもっていたが、なにか有効な手だてを合意したのであろうか。

完全に的外れな会合であったとの声もある。

http://baselinescenario.com/2010/02/07/europe-risks-another-global-depression/

「今週末のG7の会合は完全に無意味で、欧州が再び深刻な経済危機に突入している事実を際だたせるの役だっただけだ」と。


どうも、今回のギリシャのソブリン・リスクによる金融危機は、身動きのとれない政治の対応を金融市場が鋭くかぎつけたことが核心にあるのではないかとの印象をもたざるをえない。

先週木曜日、IMFのシュトラウスーカーンはフランスのラジオでこう語っていたそうである。

http://online.wsj.com/article/BT-CO-20100204-703445.html?mod=WSJ_latestheadlines

「IMFは財政を安定させようと取り組んでいるギリシアを助ける準備ができているが、ユーロ圏通貨ブロックの他の加盟国諸国が自分たちでその件を解決したがっていることを理解している」と。


これはIMFはなにもしないと言っているようなものだ。

IMFに頼るということは、最後の手段であり、ユーロゾーン諸国や欧州中央銀行が事を処理すべきという発言があったというが、IMFの姿勢を示しているととれる。


ギリシャをIMFに任せるということは、国際的に負担を分担することを意味するが、PIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシア、スペイン)といわれる諸国の救済が国際的に行われなければならないとすれば、EUの威信に関わろうし、EU以外の諸国、とりわけ米国の姿勢も問題になろう。

IMFの関与はEUの国際舞台での力の衰退をあからさまにすることになるし、EUは受け入れたくないであろう。


要するに、IMFはギリシャを救済できず、EUもそれを望んでいない。しかしそれはEU内のドイツのような強国の負担を増し、将来の租税負担増を嫌う選挙民の支持を得られないだろうから、EU内で事を処理するといっても、その動きは鈍いものにならざるをえない。

金融市場が鋭くかぎつけ、読んだのはそこであったと思う。

欧州資産への売り浴びせがそれをよく示している。ギリシャの国債は売り込まれた。同国の信用は落ちる。


問題なのは、主権国家のクレジット・デフォルトの危険性さえ、クレジット・デフォルト・スワップで取引されていることだ。その、一種の保険商品は銀行やファンドによって取引されている。その買い手は実際にギリシャが破産すれば儲け、引き受け手は損失を被るということになるだろう。


リーマンのときも、クレジット・デフォルト・スワップ市場の不透明性を思い知らされた。そうしてこの商品のカウンター・パーティである保険会社のリスクを増幅させた。

市場のプレーヤーはそれぞれの利害で動く。政治対応のもたつきも材料である。

市場の動きがリーマン2.0に向かっていはしないか。その恐怖感のなかでカネが動きを決め始めているようにみえる。


今週、展開がどうなるのか、目が離せないが、膨大な情報が発信されるなかで、ポイントをはずさないようにしたい。


カネは、あれだけ国家債務の爆発的増加を懸念されている米国の財務省短期証券に流れている。

安全志向である。とにかく米国が、なにをいわれようがいまだ安全な逃避先なのである。

いま、見渡してみて利用できる安全な資産が米財務省証券であるというのは、まことに皮肉な局面といわざるをえない。


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