前回の姿勢制御のメカニズムその1

 

の姿勢を制御するための

 

重要な3つの感覚システム

 

視覚・前庭・体性感覚の

 

視覚システムからの続きで

 

前庭系システムになります。

 

 

  前庭系システム

前庭系は、特殊感覚のひとつで 平衡感覚に必要なシステムになり 主に頭の位置と動きについての情報を集めている器官で 耳石器と三半規管で 構成されています。耳石器は、球形嚢・卵 形嚢で構成されており 頭部の重力に対する定位および直線加速度を感知する受容器で 球形嚢は 垂直性を卵形嚢は 水平性の加速度を感知しています。耳石器は、空間での頭部の位置をモニターすることで 姿勢の制御をおこなっており 頭部の静的位置をおもに検出しています。 三半規管は、頭の回転運動を感知する受容器で 前(上)半規管(前後回転)・後半規管(左右回転)・外側(水平)半規管 (水平回転)で構成されており 各半規管が 3次元空間内で互いに直交するように配置されることで 各方向の回転加速度を感知する仕組みになっています。三半規管は、つまづいたときなど、突然に頭部や身体が動いたときなどに平衡を保持する制御をおこなっており 頭部の動的位置変化にともなう加速度を検出しています。

(図を参照)

 

このように 前庭システムは、自分の身体の傾きやスピード、回転を感じる感覚になり、その感覚情報を脳が利用することで、身体のバランスを保ち適切な動作を行うための重要な器官になります。また、前庭システムには姿勢に関わる大切な反射「前庭脊髄反射」、「前庭頸反射」、「前庭動眼反射」や自律神経に関わる「前庭自律神経反射」などがあります。

 

 

⚫︎ 前庭脊髄反射( VSR ):Vestibulo Spinal Reflex

頭部の位置や加速度の変化に対して、頸部や体幹の筋緊張を制御し 安定した姿勢を維持するための反射になり 前庭の刺激情報が脊髄を通り 下位頚髄、胸髄、腰髄を介することで 頚部や四肢の伸展筋を調節し、姿勢保持と平衡維持などをおこなう働きをしています。例えば、転びそうになった時などに同側の手足や体幹などの伸展筋群を緊張させ、転倒しない様に自然と踏ん張るなどの動作をします。

 

○前庭脊髄反射が上手く働かないと

・姿勢が維持できない、崩れやすくなる

・すぐに寝転がりたがる

・転倒しやすい

などの症状が起こりやすくなります。

 

○関わりのある原始・姿勢反射

立ち直り反射(迷路性、体性、頸筋性、視覚性) 

緊張性迷路反射

 

⚫︎ 前庭動眼反射( VOR ):Vestibulo Ocular Reflex

頭が動いたときに頭の方向と反対方向に眼球を動かすことで、網膜に映る外界の像のぶれを防ぎ、頭が動いているときにも対象物が見えにくくならないように視野を安定化させる反射で、頭の動きによる三半規管刺激と視覚刺激による眼球運動により起こる協調視線制御になります。この前庭動眼反射は、内耳中の前庭器官の三半規管が頭の動きを検出し前庭神経核を介して延髄に送られ、前庭核で中継された後、眼球を動かす外眼筋の運動ニューロンへと伝えられます。前庭核内の中継ニューロンには興奮性と抑制性の2種類があり、一つの筋肉が収縮すると同時にこれと拮抗する筋肉が弛緩して眼球が一方向に動く仕組みになっています。

(前回のブログ記事で説明した視覚システムの視線安定化に関わる反射になります。)

 

○前庭動眼反射が上手く働かないと

・動くものを目で追う「追視」ができない、苦手

・ものをじっとみる「注 視」ができない、苦手

・集中力が持続しない

などの症状が起こりやすくなります。

(図を参照)

 

⚫︎ 前庭頸反射( VCR ):Vestibulo Collie Reflex

頭頚部や上半身の位置が地面に対して大きく傾いた際に、三半規管が頭部の傾きを感知し、頭部を地面に対して垂直になる様に安定させる反射になります。例としては、つまずいて倒れそうになった時などに頭を上げることで 頭部を垂直な位置に保ち身体を安定させようと働きます。この前庭頸反射は、半規管ー前庭神経ー前庭神経核ー前庭脊髄路ー頸筋運動ニュ-ロンの経路で頭部を安定させるのと同時に頸動眼反射(COR:Cervico Ocular Reflex = 頸部からの入力によって引き起こされる眼球運動で、上部頸椎からの情報が前庭神経核を経由し 動眼神経核、滑車神経核から 外眼筋を支配して眼球運動を調整する反射になります。また、前庭動眼反射とも関係が深く 相互に影響しあっている反射といわれています。) とともに 眼球のブレを調整します。

 

○前庭頸反射が上手く働かないと

・転倒しやすい又転倒時に顔を打ちやすい

・運動が苦手

・バランス感覚がよくない

などの症状が起こりやすくなります。

 

○関わりのある原始・姿勢反射

迷路性立ち直り反応/頚性立ち直り反応

(図を参照)

 

⚫︎ 前庭自律神経反射

平衡感覚を脳に伝える前庭神経に過度な刺激が入ると、過度な刺激で引き起こされた前庭神経の強い活動が 循環、血圧、呼吸などをコントロールする自律神経系の反応を誘発し、動悸、吐き気、嘔吐、顔面蒼白、冷や汗などの自律神経反射をひき起こす反射で、非日常的 または 過大な前庭刺激による空間情報の混乱に対する生体への警告反応と考えられており、感覚混乱による反射といわれております。

 

○前庭自律神経反射が上手く働かないと

・乗り物酔いをしやすい

・ゆれをひどくこわがる

・不慣れな姿勢を極端にこわがる

などの症状が起こりやすくなります。

 

 

次に前庭システムの前庭情報の伝達としては

 

前庭器官(半規管+耳石器)で検知した

 

情報(前庭感覚)は

 

前庭神経節を経て

 

脳幹の橋と延髄の移行部にある

 

前庭神経核に伝えられます。

 

また、前庭器官の情報の一部は

 

下小脳脚を通って直接小脳に達し

 

そして 前庭神経核へと出力されます。

 

このように前庭神経核を中心とした

 

神経回路を総称して

 

前庭神経路(前庭系)といいます。

 

この前庭神経路の中心となる

 

前庭神経核は 

 

4つの核で構成されており

 

外側前庭核、内側前庭核

 

上前庭核、下前庭核

 

になります。

 

⚫︎ 外側前庭核(外側核)

外側前庭核は、前庭器官のすべての部分および前庭小脳(前庭小脳とは、おもに片葉小節葉からなり 内耳の前庭器から平衡覚の入力を受け 前庭神経核に出力します。頭部と眼球の運動を調節し 身体の平衡を保つ働きがあります。)からの入力(求心性線維)を受け取ります。前庭小脳からの入力は、頭の傾きと重力に関する情報(抑制性)が伝えられます。また、外側前庭核からの出力(遠心性線維)は、主に「外側前庭脊髄路」になります。外側前庭脊髄路とは、主に耳石器(卵形嚢・球形嚢)からの入力を受け、腰髄までの脊髄全域に同側性にのみ投射しており、頚部・体幹・上下肢の全てに影響を及ぼし、上下肢を含む全身の前庭脊髄反射に関係しています。また、外側前庭脊髄路の細胞は、興奮性細胞のみになり、主に頚部および四肢の伸筋群活動を促進し、四肢の屈筋群の活動を抑制します。例としては、頭部が左に急に大きく傾くとその情報は前庭器官から前庭神経核に伝えられ、外側前庭脊髄路を経て左側の下肢の伸展筋を活動させることで、左足が伸ばされ踏ん張ることで 身体を支えバランスを保とうとする働きをします。

 

[ 入 力 ]

・耳石器・半規管・小脳

[ 出 力 ]

・外側前庭脊髄路(同側の頸髄・胸髄・腰髄の全ての脊髄)

[ 働 き ]

・頸部や体幹、四肢の抗重力筋の賦活

前庭脊髄反射

 

⚫︎ 内側前庭核(内側核)

内側前庭核は、主に半規管(外側半規管)からの入力(求心性線維)を受け取ります。内側前庭核は、上行線維と下降線維があり、上行線維は 内側縦束(MLF)という線維を介して正中線を横切り反対側の傍正中橋網様体(PPRF:橋にある水平眼球運動の中枢で注視などに関わります)および外眼筋の反対側の運動核(外転神経、動眼神経、滑車神経)を神経支配しています。 この経路は前庭動眼反射に関わり 垂直および回転運動中の明瞭な視界に重要になります。下降線維は、両側に分かれて内側縦束を下行し 大部分は頚髄および上部胸髄レベルで終了します。この経路を「内側前庭脊髄路」といいます。この内側前庭脊髄路は、前庭頚反射など頭と首の姿勢を安定させる役割があります。また、内側前庭脊髄路の細胞には興奮性のものと抑制性のものがあり、原則として興奮性のものは対側の脊髄を下行し、抑制性のものは同側の脊髄を下行しますが、対側の脊髄を下行する抑制性細胞も少数存在するといわれており、主に頚部や背筋群の運動の抑制や興奮に関わります。例としては、頭部が左に急に大きく傾くとその情報は前庭器官から前庭神経核へ伝えられ、内側前庭脊髄路を経て右側頚部の伸展筋を収縮させることで頭部を右に傾けバランスを保とうとします。また、 内側前庭核は、片葉小節葉および小脳虫部の前部と後部を含む、小脳のいくつかの部分にも投射しています。

 

[ 入 力 ]

・主に半規管

[ 出 力 ]

・内側前庭脊髄路

・小脳

[ 働 き ]

・頸部筋群制御による頭部と眼球の相互調整

前庭動眼反射/前庭頸反射/頭部立ち直り反射

 

 

⚫︎ 上前庭核(上核)

上前庭核は、主に半規管(前半規管と後半規管)からの入力(求心性線維)を受け取ります。 上前庭核の出力(遠心性線維)は、内側縦束 (MLF) に入り 滑車神経核および動眼神経核の同側に投射します。また、上前庭核は、下前庭核からの線維と結合して、前庭小脳の片葉小節葉内の室頂核に向かいます。 片葉小節葉はバランスの維持に関与しており、反射性眼球運動への適応に重要です。また、上前庭核は、視床の核にも投射しています。

 

[ 入 力 ]

・主に半規管 

[ 出 力 ]

・同側の動眼、滑車神経核

・小脳、視床

[ 働 き ]

・頭部可動時の注視(眼球運動)の安定に関わります。

前庭動眼反射

 

⚫︎下前庭核(下核)

下前庭核は、主に卵形嚢と球形嚢からの入力(求心性線維)を受け取ります。 下前庭核の出力(遠心性線維)は、他の3つの前庭神経核と小脳への投射があります。下前庭核および内側前庭核からの下降投影は、血流、呼吸数、および心拍数に影響を与える前庭交感神経反射(前庭系を介した交感神経の活性化で、頭の傾きと重力の情報を受け取り、その結果、起立時の血流、呼吸数、心拍数に影響を与えます。)を調節します。 さらに、内側前庭脊髄路と外側前庭脊髄路の両方に、下前庭核に由来する線維があります。

 

[ 入 力 ]

・主に卵形嚢と球形嚢

[ 出 力 ]

・小脳

・内側前庭脊髄路の一部

・外側前庭脊髄路の一部 

[ 働 き ]

・姿勢調節(体幹•四肢の筋緊張の調整。身体の平衡機能を担う。)

前庭脊髄反射/前庭動眼反射/前庭頸反射/頭部立ち直り反射

 

(図を参照)

 

 

このように前庭系は、とても複雑なため

 

解明されていない事柄も多く

(前庭系だけに限らずですが)

 

未知数な感覚器官ですが

 

前庭器官の入力は 多くの運動応答の

 

協調にとって とても重要であり

 

眼の安定や 立位・歩行の姿勢安定の

 

維持などに重要な働をしてくれます

 

ですので、前庭機能が異常を起こすと

 

眼の焦点を合わせることや

 

バランスを維持することなどの

 

身体の平衡保持が困難になり

 

眩暈や乗り物酔い・メニエール病などの

 

症状をおこしやすくなります

 

また、平衡感覚は自己意識とも

 

関係することが分かっており

 

前庭感覚器系の機能低下や

 

障害のある方などは

 

無意識下で 身体感覚が 

 

不安定になるため

 

身体像や自己認識が

 

脅かされ

 

強い不安感に

 

陥るといわれております。

 

前庭感覚は

 

自己意識にも関わる

 

重要な感覚器になります。

 

 

視覚と前庭覚のトレーニング方法

 

⚫︎ 眼球を動きやすくする方法

 

1)眼球運動の検査

正面を向き眼で、アルファベットの『H』の文字をなぞるように動かしていきます。

1、眼を平行に右へ(右横方向へ)移動させ、その位置から上へ移動、そこから下へ移動させます。左方向も同じように行って下さい。

2、左右平行移動後からの上下で、眼球が、動かし辛い方向を見つけます。(無ければ正常です。)

 

2)眼球運動の調整

1、眼の動かし辛い方向に眼を向け舌を出来るだけ強く押し出します。

(例:眼を左斜め上に 動かし辛い場合は、舌を左斜め上に出来るだけ強く押し出します。)

2、回数は、2,3回でも動きやすくは なりますが、疲れる位まで行うと身体的にも効果(姿勢の改善など)が 出やすくなります。

(もし上記で効果がない場合は、舌が出にくい方向に舌を出して行ってみて下さい。)

(図を参照)

 

⚫︎ 前庭覚のトレーニング方法

 

A)眼 球 トレーニング

両手に力ードを持って肘を伸ばし

顔の前におきます。

頭は動かさずに

2 つの力ードを交互に見ます。

左 右 •上 下 1 0 往復 1 日2 回位。

(図を参照)

 

 A)頭位 変換 トレーニング

カードを持って肘を伸ばし

顔の正面におきます。

カードを見たまま

頭を左右•上下に動かします

各 1 0 往復 1 日2 回位。 

(図を参照)

 

B)眼 球 トレーニング

カードを持って肘を伸ばし

顔の正面におきます。

頭は動かさずに

ゆっくり動かしているカードを見続けます

左 右 •上 下 1 0 往復 1 日2 回位。

(図を参照)

 

B)頭位 変換 トレーニング

カードを持って时をイ申ばし

顔の正面におきます。

カードをゆっくりと左右•上下へ動かし、

カードを見たまま

頭を力ードと同じように

左右•上下 に動かします。

各 1 0 往復 1 日2 回位。

(図を参照)

 

C)眼 球 トレーニング

カードを持って肘を伸ばし

顔の正面におきます。

頭は動かさずに

早く動かしているカー ドを見続けます。

左右・上 下10 往復1 日2 回位。

* 眼球トレーニング B)の早いバージョンになります。

 

C)頭位 変換 トレーニング

カードを持って肘を伸ばし

顔の正面におきます。

カードをゆっくりと左右・上 下 へ動かし、

カードを見たまま

頭をカードと反対に 左右・上下 に動かします。

各 10 往復 1 日2 回位。

(図を参照)

 

 

小さなお子さまの場合は

 

カードではなく

 

お気に入りのおもちゃなどを

 

使用してみて下さい。

 

また、回転する椅子を使い

 

顔を正面に向かせたまま

 

椅子を回転させる方法や

(図を参照)

 

 

棚の上の物を取り

 

床に置いたり

 

その逆の床の物を取り

 

棚の上に物を置く運動でも

 

前庭覚のトレーニングになります。

 

小さなお子さまの場合は

 

上記のような動作を取り入れた

 

遊びを行うと良いと思います。

 

このような視覚と前庭覚の

 

トレーニングを行うことで

 

姿勢が 改善されたり

 

バランス感覚の向上

 

などの効果が 期待されます。

 

また、脳も鍛えられますので

 

ぜひ試してみて下さい。

 

 

次回は 今回の続きで体性感覚

 

について書いていきたいと思っております。

 

皆様のお役に少しでも立てれば幸いです。

 

【お読み頂きまして ありがとうございました】