誰もが喧嘩をイメージすれば出てくるのが殴る行為、いわゆるパンチだと思う。


だけど実際に素人が殴るというのはオススメできない。

ボクシングや空手を習っているならまだしも、何もやった事の無い人間がやれば、どうなるか。


まず、当たらない。


素人が殴ろうとした時に最初やる事が拳を引いて、勢いをつけて殴ろうとするからだ。


不意打ちなら当たるかもしれないが、それ以外ならまず当たらないだろう。


よしんば当たったとしよう。

胸や腹、肩に当たったなら良い。顔に当たった場合、まず指を骨折や脱臼する確率が高い。

顔の骨には凹凸があるため、拳のどこか一点に圧力がかかれば、一発で折れるか脱臼だろう。

そうでなくても拳は打撲で後日腫れ上がるはずだ。


つまり殴った方がダメージが大きくなる可能性が高いのだ。


それでも殴りたいのなら、拳立て伏せをオススメする。腕立て伏せの地面に着く手を拳状にした腕立て伏せのやり方なのだが、これが結構きつい。
一度もした事がない人間がやると、筋力の限界よりも先に拳の痛さで止めるだろう。
コレを地道に長期間やると拳が平らになり、殴った時に骨折する事も起こりにくくなるだろう。同時に皮も厚くなるため、打撲状態も大分緩和されるはずだ。


以上、総評として、


『素人は顔面を殴っちゃいけないぞ』

俺らノーネームが表にでるきっかけは、ハスラーが族と小競り合いを起こしたといった事から始まった。


ハスラーが資金調達という名の恐喝をした相手の兄貴が族だったということらしいのだが、ハスラーの三人がボコボコにされた。


そこで俺を含んだウォリアーの出番となった。


相手の族の名前はよく覚えていないが、たしか×××愚連隊だったと思う。


ハスラーから情報をもらい、次の日から俺らウォリアーの×××愚連隊狩りを始めた。



族の集会を襲撃するのではなく、数人でたむろっている所を襲撃する。

相手の方が人数が多かったら諦める。

出来るだけ道具を使わずに喧嘩する。

相手が自分よりも強かったらあっさり退散する。



こういったルールを決めて襲撃をする事になった。

出来るだけ自分達の被害を少なく、それであくまでチーマーVS暴走族といった形に持っていくためだ。


実際ノーネームの初実戦となるのだが、何度かシミュレートしていたため、結構順調にいく。


俺の場合、仲間2人と公園にいた族を襲撃した。


相手の人数は同数の3人。真ん中の一人は立っているが、横の2人はしゃがんでいる。

俺が真ん中の奴を担当して、2人はしゃがんでいる奴の担当で仕掛けた。


相手から見えない場所から徐々に近づいて一気に駆け出す。

俺は立ってる奴の背中に走った勢いのまま飛蹴りを放った。

もう2人はそれぞれしゃがんでる奴に蹴りを入れ倒れた所を馬乗りにして殴りかかっている。


俺の相手は地面に手を付いたがすぐに立ち上がり、俺にガンを飛ばしてきた。

俺はすぐさま間合いを取ってボクシング風のファイティングポーズをとる。

相手の一挙手一投足に神経を研ぎ澄ませ、興奮する精神を頭の中で冷静になれ冷静になれと自分に言いきかせる。


俺から何もしてこないと感じただろう相手が何かわめいていたが、俺から何の反応も無いのを感じたのかすぐさま殴りかかってきた。

俺には殴ってきた相手をカウンターで殴り返す技術があるわけではない。

少し距離があり単に殴りかかってきただけの相手の対処法は、体を出来るだけ丸め突進する。

顔をガードしたまま相手の胸辺りを目掛けて体当たりをかますのだ。

顔と腹さえ殴られなければこれといったダメージはないからである。


そのまま相手が倒れるのもよし、踏ん張られても頭をかち上げれば相手の顔に自分の頭が当たる。


今回は相手は、すぐさま殴るのを止めたようで踏ん張られた。俺はすぐさま頭をかち上げる。

頭頂部に衝撃。相手のアゴにヒット。

相手が尻餅をついたところで、顔面を蹴り上げた。

叫びながら顔を抑えて寝っ転がった相手の顔面をもう一度手の上からだろうが蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。蹴る。


マウントポジションで殴り続けていた2人が立ち上がったのに気付いた俺は、蹴るのを止め2人と目配せをすると、すぐに撤収した。

3人とも無傷の完全勝利だった。


興奮したままの俺達はそのまま爆笑しながら自分達の武勇伝を主張しながらノーネームの溜まり場へと戻った。


その日の成果はほぼ勝利。一人だけ返り討ちにされたウォリアーもいたが、それ以外は大体成功した。



この日を境に族VSチーマーの抗争がはじまった。それから間もなくノーネームというチーマーの存在が広まっていく。

とにかく初めて聞かされたその音楽は衝撃的だった。

HIPHOP。

今まで少しだけ聞いた事のあった日本のラップ。さして興味もわかなかったのだが。


『2Pac』の『2PacalypseNow』というアルバムだったと思う。


とにかくその音と声の波を体感した俺は、一瞬にしてその音楽の虜になった。

こいつらはどんな奴らで、どうしてこんな音楽が出来るのか興味が湧いた俺は、調べているうちに凄まじい世界を知る。


警官への狙撃だとか5発の銃撃を受けただとか、ギャングの存在、その暴力的なまでの経験と音楽。

その音楽の背景だとか俺はHIPHOPにのめりこんでいく。


ノーネームをチーマーでなくギャングにしないかという提案は却下されたものの、その音楽に魅了されたのは俺だけではなく、ダチらも皆魅了されたようで、服装もHIPHOPへと変化していった。

当時10人足らずと少しずつ増えていくノーネームもギャングに感化され、二つの部隊を作ることにした。喧嘩や暴力専門のウォリアーと遊ぶ金の調達や情報収集専門のハスラーというギャングに似せた部隊にした。


いまだアンダーグラウンドで勧誘し、少しずつ表に出ようかと狙う俺らノーネームだったが、これといったきっかけも無く、エリアを転々としながらも細々と活動していた。



そしてそのきっかけは突然やってくる。それはチーマーとではなく、暴走族との小競り合いからだった。