前回、大学の授業料、特に国立大学の授業料が、物価上昇に比べて、
とんでもない値上がりをしたことを確認した。
今回は、そのいきさつについて考えてみよう。
まず、大学進学率について。
大学進学率は、1960年ごろまで、あまり変化がなく10%前後だったが、
その後、大きく変化する。
1960年・・・10.3%
1968年・・・19.2%
1970年・・・23.6%
1972年・・・29.8%
1976年・・・38.6%
この後は、あまり変化なく、
1993年・・・40.9%
1999年・・・49.1%
2010年・・・56.8% (以上「年次統計」より)
1960年から1976年の十数年で、大学進学率は実に、10%から40%になったのである。
つまり、10人に1人が大学生だったのが、4人になったわけだ。
時は、高度経済成長期、
ベビーブーム世代、およびその後輩たちがこぞって大学に入った。
豊かになりつつあった親たちが、よりよい給料が得られるように子供たちを大学に行かせた。
子を思う親心だ。
ジイも、自分の親に頭が上がらない。
また、ジイは、
この辺鄙な塾まで、しかも仕事で疲れた体に鞭打って、
塾生を送り迎えしてくださる保護者の方にも頭が上がらない。
感謝!!!
招かれざる客。
塾生を保護者の方の車まで送って、
玄関に戻ると、お客さん。
玄関灯に集まる虫に誘われて、やって来たお方。
他に、ヤモリ夫婦、イモリも。
そのうち、彼らの画像もアップしよう。
さて、大学進学率が伸び続けた結果、大学生の国公立、私立の内訳は、
1960年に40:60だったのが、70年には25:75になった。
国立大生に比べて、私立大生が増えたのだ。
現在(2017年)が、26:74だから、1970年以降はあまり変化していないことになる。
そして、私立大生が増え続けるのに合わせて、1960年代には私立大学の学費値上げが続いた。
私立文系の授業料の国立に対する倍率
1950年・・・2.3倍
1960年・・・3.8倍
1970年・・・6.4倍
私立理系の授業料の国立に対する倍率
1967年・・・8.1倍
1970年・・・8.2倍
(いずれも「年次統計」より、私立理系のデータは1967年からしか出ていない)
その結果、国立と私立の学費格差が大きくなった。
現在(2016年)は私立文系、理系はそれぞれ、国立の1.4倍、2.1倍だから、
70年は、国立に比べ、いかに私立大学の学費が高かったか、わかる。
そこで、世の中はどう動いたか。
日本では、「私立大学の授業料を下げよう」という方向にはならない。
一部の学校を除いて、私立の学校は当然利益を追求する。
最近の「モリ、カケ」を思い出してほしい。
経営者の利益を確保して、授業料を下げるには、国家財政からの支出が不可欠だ。
授業料は下げずに、さらなる利益を追求するためにも、国家財政からの支出が必要だ。
「モリ、カケ」は裏の支出だけど…
現在、私立高校授業料の家計負担が少し安くなっているのは、支出金のおかげだ。
これは、もう前に述べた(大学の授業料について考えよう!(1))。
2010年、民主党政権の時に高校無料化に前進したが、
残念ながら、その後の政権によって所得制限が入った。
その政権のお友達が「モリ、カケ」だ。
そして、OECD30か国中最下位という状態は不変である。
さて、そうすると、日本では必然的にどうなるのか。
1960年代から、国立大学の授業料値上げの動きが出てくるのである。
私立大学の授業料値上げに対しては、批判はあっても、値下げ要求にはならない。
「まあ、無理だ。」というあきらめ。
「需要と供給の関係だ。」という達観。
「国立大学が安すぎる。」という妬み。
我が国の国民性の悪い一面。
そして、1972年4月、国立大学の学費は一挙に3倍に値上げ。
ジイは3年生だったので、影響は被らなかったけど、
我が事として考え、世の行く末を案じる想像力だけは持っていた。
だから、忘れられない出来事になった。
つまり、国立大学と私立大学の授業料格差を埋めるために、国立大学のほうが値上げされたのだ。
では、格差は縮まったのか。
そうはならなかった。
国立の値上げに合わせて、私立も値上げした。
「国立大学が安すぎる。」という妬みは、何も生まない。
むしろ、逆に作用した。
私立の授業料と、国立に対する倍率、金額差(「年次統計」より)
私立文系 私立理系 国立
授業料、 倍率、 金額差 授業料、 倍率、 金額差 授業料
1970年・・・ 76,400円、6.4倍、 64,400円 98,400円、8.2倍、 86,400円 12,000円
1980年・・・304,000円、1.7倍、124,000円 407,800円、2.3倍、227,800円 180,000円
1990年・・・468,320円、1.4倍、128,720円 677,940円、2.0倍、338,340円 339,600円
2000年・・・660,480円、1.4倍、181,680円 928,730円、1.9倍、449,930円 478,800円
2010年・・・722,751円、1.3倍、186,951円 999,934円、1.9倍、464,134円 535,800円
2016年・・・750,122円、1.4倍、214,322円 1,100,963円、2.1倍、565,163円 535,800円
皆さんはもうわかったと思う。
私立の学費の国立に対する倍率だけ見ていてはいけないのだ。
倍率だけだと、格差が縮まったかのような錯覚に陥るが、
金額差は一貫して増え続けている。
2016年の国立との金額差の、1970年に対する倍率は、
私立文系でこそ3.3倍と健闘しているが、
私立理系では、何と6.5倍である。
前回見た、3.5倍という物価上昇を考慮しても、
私立と国立の金額差は縮まってはいないことが分かる。
それどころか、むしろ、理系の格差は拡大の一途をたどっている。
また、国立の学費の値上げだけ見ていてもいけない。
国立の学費値上げは、私立の学費値上げをカモフラージュする効果を果たしたのだ。
まるで、どこかの高級官僚の目くらましの文章。
「国立大学が安すぎる。」という妬みは、あざ笑いにもてなされる。
「兵農分離」を持ち出すまでもなく、我が国の民は分断され続けてきた。
そこで、ここからまた考えなくてはいけない。
なぜ、こうなってしまったのか?
曲がり角はどこにあったのか?
次回に乞う、ご期待。
ジイ