時のおくりもの 3 | 読書記録

時のおくりもの 3

 トルルルルルル
 今まで静かだった部屋の中に突然響いた音に、真里子は驚いて顔を上げた。電話は携帯にかかってくるばかりで、今はもうインターネットを繋げるためだけにある電話機から、その音は発せられている。
 時計から目を離したくない真里子は、その音を無視することに決め込んだ。
 ほどなくして電話の音は止んだ。


 が、すぐにまたかかってきた。
 なに、こんな時に。
 仕方なく真里子は、時計から目を離さずに電話機に歩み寄り、受話器を取った。
「……もしもし?」
 普段はあまり不機嫌さを表にださない真里子だが、このときは取り繕うことをせず、不機嫌さをあらわにした声で電話にでた。
「ああ、片山、俺だよ」
 だが、突然の電話の主は、そのことに別段頓着する様子もない声で返した。
 その声はとても懐かしく感じられた。
 真里子は、自宅の電話番号を知っていて、自分を苗字で、呼び捨てで呼ぶ人間を、ひとりしか知らない。
 でも、まさか。どうせ、男友達のいたずらだ。そうでしかありえない。
 だって、だってこんなことって――。
「どちらさまですか?」
「どちらさまってあのなぁ。俺だよ、わかんないのか?」
 真里子はむきになって言い返す。
「おれだよわかんないのかさんなんて人、知りませんが」
 だめだ。期待してはだめだ。また傷つくだけだ。でも、どうしても声が震えた。
 電話の相手は、深く溜息をついて、そっちがそういう態度なら、とつぶやいた。
「一階の郵便受けを見にこい。いますぐだ」
 そういって、電話が切れた。

続く