時のおくりもの 1 | 読書記録

時のおくりもの 1

 ワンルームマンションの二階、暖房の効いた一室で、茶色く染めた髪を肩に流した片山真里子は、左手に握り締めたアナログの腕時計を凝視していた。
 その、古いがとても大切に使われていたことがわかる時計の針は、正確な時間より五時間三十五分、遅れている。
――もうすぐこの時計はとまる。
 なにも今日とまると決まったわけではないのに、なぜか真里子には核心めいたものがあった。
 そして真里子は今、その時計が完全にとまる瞬間を見届けるべく、じっとその時計の針を目で追っている。
 その時計をもらった日のことを思い出す。――否、思い出そうとせずとも、その記憶は容易に思い浮かべることができた。
 それは二学期の終業式、クリスマスを明日に控えた日だった。
 教室を出ると、そこには幼なじみで同じクラスの少年が、座って靴を履いている姿が見えた。少年は真里子のほうをちらっと見、また靴に視線を戻してこう言った。
「それ、やる。一日早いけど」
 何のことかと思った真里子は、少年の指さす方向を目で追い、行き着いた先の自分の靴箱の中を見た。
 そこには、青い包装紙に、赤に金のしまがはいったリボンが結わえてある、小さい箱がひとつあった。少年の言葉は短く、端的であったが、彼女には彼の言わんとしていることがなにか、すぐに気づいた。
 その日から、二人はただの幼なじみではなくなった。
「あれから六年かぁ」
 それにしては電池一つで長くもったものである。
 当時小学生だった二人も、今では高校生だ。
 そう。小学生だった。今にして思えば随分ませた小学生だが、当時の二人はとても真剣だった。だからこそ、六年も続いたのだろう。
 だがもうそれも今日で終わりだ。
 真里子は痛みをこらえるかのように、強くくちびるをかんだ。
 この時計が止まるとき、自分の恋は終わる。


続く