神社の祭礼に天台座主が威儀を正して参列される――

はじめてその光景をみたときには感動した。

――と、山本先生から以前に伺って、わたしは山王祭に足を運んだ。

ああ、この場面に山本先生は感動されたのだ、と。

…なのでぜひ、その場面に皆を案内したい。

予定外だったが急遽とりいれた行程。

比叡山延暦寺の護法神としての日吉山王。

山本ひろ子先生の論考を通して、

最澄が比叡山に初めて足を踏み入れ、

荒ぶる在地の神々と遭遇する場面を見てきた。

山の精霊としての霊童との出会いも。

最澄が山で最初に童子に出会い、次いで山王にあったという

「一児二山王（いちちごにさんのう）」の習いは、

ゼミの面々の記憶に馴染み深いフレーズとして刻まれている。

この旅でも児（ちご）の姿は透かし見えていた。

京阪坂本の駅に到着し、荷物を観光案内のロッカーに預けて

日吉大社へ向かって坂を登ってゆくと

輿を担いだ行列に行き合う。

重々しい雰囲気に、

天台座主のおわします輿だと察する。

駕輿丁の揃った足並み。

乗り心地はどうなんだろう？

と少し気になった…

皆の脳裏には三年前の社会人講座で読んだ

柳田國男の小文「能と力者（のうとりきしゃ）」が浮かんだことだろう。

足並みを揃えるところに芸能のはじまりをみることもできるし、

実際揃えたほうが合理的だろうとも理解できる。

神妙に、行列の後ろをついて歩く。

お供の人達も緊張の面持ちで要所、要所で迅速にお座主さまをサポートする。

258世、御歳98歳――戦中・戦後の日本を知っている世代だ。

西本宮の楼門の〝猿〟はもれなく確認した。

神の使わしめ。

拝殿には御輿七基が勢揃いしている。

社殿の前で、叡山の僧侶が読経し奉幣するさまは

…しかもそれが五色の幣というところにも

感動するが、

参列者一同に桂の小枝を、神のご分霊として分け与え、

瑞々しい桂の若葉を胸ポケットに、あるいは右耳に挟んでと

銘々が身に着けたところにも感動した。

若葉の緑が輝いてみえる。

西本宮に御輿七基が揃う

神猿さんの背景には山王鳥居と北斗七星

玉串奉奠の際には

天孫神社の宮司様のお名前が呼ばれていた。

厳かな式典の場にしばらく参列。

後ろ髪を引かれる思いもあったが、

この日の予定は延暦寺内を歩いて、

さらに三井寺園城寺へというものだったので

早めに式典を後にする（つづく）。

○参考文献：山本ひろ子「中世日吉社の十禅師信仰と担い手集団―叡山・霊童・巫覡の三層構造をめぐって―」（『寺小屋語学文化研究所論叢』三号、寺小屋語学文化研究所、1984所収）、柳田國男「能と力者」『物語と語り物』（昭和19年）（『定本　柳田国男全集　七巻』ちくま文庫）、ぱいでいあ2021年講座〈山本ひろ子　職能民と民間宗教者の世界〉資料類　

日吉山王祭フィールドワーク こぼれ話（その１２）

日吉山王祭フィールドワーク　こぼれ話（その１２）