17歳「韓流」デビュー
さいたま市の女子高生が十二日、韓国で歌手としてCDデビューする。淑徳与野高校三年の鶴岡真衣さん(17)で「MAI」がステージネームだ。国内で芸能活動の経験がある彼女は、今年一月観光旅行で初めて韓国を訪れて好きになり、“体当たりの挑戦”を決意した。今春、十八歳未満の日本人第一号となる留学ビザを取得し単身渡韓。ソウルでの学生生活と歌手活動で、日韓交流の新たなページをめくろうとしている。
「違う! キオクチョッチャ(記憶さえ)のチョッチャがソッチャに聞こえる!」
ソウル市内の音楽スタジオ。先月二十六日午後九時、真衣さんはデビュー曲「away」の録音中だった。ミキサー室にいる作詞家から、マイクに向かって歌う真衣さんに、韓国語で繰り返し、注意が飛ぶ。母音、子音が日本語よりずっと多様な韓国語の発音は、日本人にはかなり難しい。
苦労して録音を終えたのは、四時間経った二十七日午前一時過ぎ。
「だって私、韓国人じゃないもん」。録音室から出てきた真衣さんは、こう言って口をとがらせた。だが、「プロは大変だね」と記者が声をかけると、「平気です」と瞬く間に笑顔になった。
真衣さんは福岡県久留米市生まれ。九歳のときに、デビューしたばかりの人気グループ「SPEED」の曲に感動して歌とダンスの虜になった。
趣味が高じて小学校六年で応募した地元放送局の音楽大会でグランプリを受賞。九州では二枚のシングルを出し、テレビ番組出演の経歴を持つ。地元の高校で一年生を終えた昨春、本格的な歌手活動を目指して上京。淑徳与野高校に編入した。
韓国との最初の出会いは今年一月。知人に紹介された芸能プロダクション「ギャラリー」の安原相国社長(56)から韓国への観光旅行を勧められた。「韓国に対する若い日本人の感性を探ってみたかった」と、在日韓国人の安原さんは振り返る。
二泊三日のソウル滞在中に真衣さんは予想外の反応を示した。「韓国で歌ってみたい」。同行していた母メイ子さん(48)は娘の希望に驚いた。
「似ているようで異なる文化。ストレートに感情を表す人々。食べ物はおいしいし…。とにかく(韓国は)面白そう」。真衣さんの興味は膨らみ、彼女の強い意志に、両親もとうとう折れた。
「もともと彼女は歌手が希望。日韓は文化面での交流も活発だし、新世代が中心となり、いまだに両国間に残る悪いイメージを新しい方向に変えていく機会につながる、と考えた」。淑徳与野高の川辺俊夫教頭は真衣さんを送り出した背景を語る。
真衣さんは三月初めに三カ月間の渡航ビザを取得。受け入れ先は同校と姉妹関係を結ぶソウル市内の豊文女子高校。一年生のクラスに編入し、日本語と英語、ホームルームを中心に地元高校生と机を並べた。「みんな積極的に話しかけて来るんです。最初は言葉が分からないので、ただ笑っていました」
ソウル市南部・江南にあるワンルームマンションで一人暮らし。海外での活動と生活は、韓国の芸能プロダクション「ジェイヴ・エンターテイメント」(李栄一社長)が全面的にバックアップ。語学学校にも通い、放課後は歌とダンスのレッスンを重ねた。あっという間に三カ月が過ぎ、今では簡単な会話ならOK。
真衣さんはビザ期限を迎えると同時に、淑徳与野高で一学期末試験を受けるため一時帰国。試験を無事済ませ、今度は芸術振興を目的とする六カ月間のビザを取り、再び韓国へ。
レコーディングから二日後の先月二十八日。ソウル市内で行われた地元高校生バンドによる音楽フェスティバル。真衣さんは特別ゲストとして初めて韓国のステージに立ち、新曲二曲を熱唱。大きな拍手を浴びた。
「直前まで緊張したけど、気持ちよく歌えました。初ステージとしてはまあ、合格点かな」
異国での本格デビューを前に、ホッと一息ついた表情に気負いはなかった。