冬眠のたね | 七色遠景

冬眠のたね

リスは冬眠したくなかった


冬眠しなければ

あの子に会えるから

リスはたくさんあくびをした

あくびをすると

ほっぺの袋から

つやつやしたクリーム色のたねのようなものを出した

リスはそれを

「寒くてご飯もないから
冬のあいだは眠りたいよ」

と言う動物たちに配った


眠れないライオンにも

眠れないシマウマにも

眠れないオオカミにも

眠れないゾウにも

眠れないカモシカにも

眠れないフクロウにも


たくさん配った


眠れない動物たちは

みんなみんな眠ってしまった

月は青白かった

風にしか木々は揺れず

時間が止まったみたいに真っ暗だった

森の中はみんな冬眠してしまって

しんとしていた

リスの大好きなあの子も

眠ってしまった

リスはほっぺの袋から

つやつやしたクリーム色のたねを出そうとした

自分もそれを飲んで眠りたかったから


だけど

もうあくびはでなかった

だからリスは今も

しずかな森の北風の中で

春が来るまで

あの子の寝顔をずっと見ている