おたまじゃくしのHIPHOP <7> | 七色遠景

おたまじゃくしのHIPHOP <7>


春になり ようやく目が覚めました
水面に
蓮の花は
薄紫にゆらゆらと
おたまじゃくしの群れが
キーノートのように
緩やかに流れてゆきます
あの頃の
ぼくたちみたいに
寄り添っています
つらい冬は 冬眠で忘れられるけど
彼女のことを 忘れられるはずがありません

ぼくは恋人を作って
子孫を増やすという使命も果たさず
ただ ケロッピーナのことだけを
考えて
あの池の中の電球と錯覚したのより
ずっとちっぽけな
ほんもののぼんやりした月を
見ていたのです
冬眠する以外
跳ねるでもなく 鳴くでもなく 子供を作るでもなく
じっと ちっちゃな月を見ていた
カエル失格の ぼくなのです

おなかがぺこぺこに空いたときだけ
ショウジョウバエのお夜食を食べ
背中がからからに乾いたときだけ
池に飛び込みました
それ以外は ぼくはつるつるの小石と見まちがえるほどでした



冬眠から覚めて すぐ
ぼくの頭はすっきり覚めたのです
あの池で迷ったという
女の子のカエルの噂が
ぼくの開閉自在の耳に飛び込んだのです
ぼくは丸い目を よけい丸く見開きました

聞くところには
そのカエルは
大ナマズから逃げたまま そのまま遭難して
恋人のおたまじゃくしを探して
遠くの池に
旅に出たということ
そのカエルは
とても愛らしいつぶらな瞳をして
まっくろかった彼が好きなダンスを踊っているということ
旅をしながら
歌で 稼いでいるというのです
彼女の姿かたちを
うろ覚えのフナが
そこだけはちゃんと覚えていました
「もう見た目が変わっちまったんだ、見つけ出せる訳ないよ」
そう呆れると
彼女は 澄んだ瞳でフナを見つめながら 言ったのです
「彼がいまも無事ならば、もう黒くはないはず
でも 世界中で一番美しい黒い瞳を持っている
だから 必ず見つけ出せる確信があるの」

ケロッピーナ

ぼくの心の奥に
そっと仕舞ってあった 
もう二度と開けない引出しのはずだった
あのふわふわソウルが
ふたたび目覚めた春なのです

そして おもむろに歌ったというのです

ぼくたち おたまじゃくし
池の水面プラネタリウム
蓮の根っこをよけながら
君と今夜も 水に溶けた満月の中
藻の散歩道
幾つも空に浮かんだ蓮の葉が
月をかくすから
ときどき 三日月 たまに 月食

歌いながら 涙を零した彼女
ぼくは彼女に白い花を
飾ってあげるはずでした
彼女はぼくを必死に探していたのに
何故ぼくは
こんなにも
死んだように生きていたのだろう
ぼくは立ち上がりました
そして 歌いました
カエルの短すぎる命は知っています
パパもママももう居ない
だからこそ
ぼくは生きたい
彼女のために
残りのカエル生を
彼女と生きたいのです
ぼくはぴょんぴょん跳ねました

パパのお話を聞きながら育った池が
夏祭りの季節には賑やかな
友達のいっぱいいた池が
見えなくなるまで
やわらかな彼女の頬にキスした池が
見えなくなるまで
ぼくは振り返りませんでした

待っててね ケロッピーナ
きっと探し出すからね
そこで生きて待っていてください

ぼくたち おたまじゃくし
池の水面プラネタリウム
蓮の根っこをよけながら
君と今夜も 水に溶けた満月の中
藻の散歩道
幾つも空に浮かんだ蓮の葉が
月をかくすから
ときどき 三日月 たまに 月食

ぼくは旅に出ました
ケロッピーナが待っていてくれるから
どこかで必ず
ぼくの愛しのケロッピーナ
ぼくがカエルであるという証に
君を探して見せるんだから
ぼくのこころに おたまこんじょうが
あのふわふわソウルが
ふたたび蘇りました
今度 出会えたら
もう離さないんだから
もうずっと一緒なんだから
愛しのケロッピーナ 無事でいてください