「お、お待たせ」
街のとあるカフェ。
恐る恐る綱吉は声をかける。
その隣では、いかにも不機嫌を隠さない獄寺がいる。
「まぁ座れ」
待ち合わせ相手はスクアーロと、新聞から顔をあげたのはXANXUS、こちらも不機嫌そうだ。
「なんか飲むかぁ?」
「あ、俺、ジュースを」
「ジュース、なぁ。ペリエくれぇしかおいてねぇぞぉ」
「じゃあ、それで」
「俺はエスプレッソで」
「あれ、獄寺君、エスプレッソ飲めたの?」
「? はい。いつもお淹れするのはブレンドですが、ここのは格別ですよ」
(お、俺だけ恥ずかしい……)
そもそもなぜこんな状況になったかといえばだ。
遡ること数日前。
「ダブルデートがしたい」
「なんだぁ? そのダブルデートってのは?」
「知らないの!? 二組のカップルが一緒にデートするんだよ」
「なんでわざわざそんなことしなきゃならねぇんだぁ?」
「普段、どんなデートしてるか気にならない?」
「ならねぇなぁ」
「お願いだから」
とかなんとかの会話の後、それぞれのパートナーに話したところ、意外にもあっさり了解が出た。
(まさかXANXUSが付き合ってくれるなんて)
横目でXANXUSをみると、相変わらずのポーカーフェイスでカップに口をつけている。
(緊張感増す感じ)
その目が綱吉に向けられる。
「なんだ?」
「な、なんでもないよ」
慌てて、グラスの中身を飲む。
(あれ? 俺入れたっけ?)
自分でペリエを注いだ記憶がない。隣を見ると獄寺が嬉しそうに笑っている。
(あ、獄寺君)
さりげない心遣いに、なんとなくくすぐったさを感じる。
「今日は午前中お前らに付き合って、午後からは俺達の番だったなぁ」
「ぜってぇ負けねぇ!」
「えれぇ自信だなぁ。お手並み拝見と行くかぁ」
(XANXUS達の大人デート楽しみだな。でも獄寺君、どこ行くつもりなんだろう?)
それぞれのカップが空になる頃、XANXUSが立ち上がる。
「出発らしいなぁ!」
スクアーロも立ち上がると、獄寺と綱吉も慌てて立ち上がる。
「別に急がなくていいぜぇ」
「でも会計しないと」
「済ませた。行くぞ」
「え?」
「は?」
いつの間に……。
四人そろって店を出る。
「スクアーロ、なんで後ろ歩いてるの?」
「ボスになんかあったら……」
XANXUSの少し後ろを歩いていたスクアーロだったが、XANXUSに腕をひかれて並ばさせられる。
「何度も言わせるな」
「な、慣れなくてよぉ」
XANXUSの手が自然とスクアーロの手と絡まる。
(ふ、普段なら見ないXANXUSだ…)
「う゛ぉぉい! お前らが先に行かねぇと、目的地がわかんねぇだろうがぁ」
(そうだった! 今日の午前中は俺達のデートだった)
「わかってんだよ! んなこと」
ふと綱吉の前に手が差し出される。
「十代目、よかったら」
恥ずかしい思いもありながら、その手をとると、XANXUS達の前へ出る。
「どこ行くつもり?」
「着いてからのお楽しみです」
ふと、獄寺が足を止める。
その先には映画館。
「映画?」
「はい! 十代目、観たいのがあるとおっしゃってましたよね」
「確かに言ったけど……」
そんなことをしていては、午前中のデート時間が終わってしまう。
が、そんなことは言い出しにくい。
と、獄寺が綱吉を覗きこむ。
「どうかなさいましたか?」
「なんでもないよ」
「じゃあチケット買ってきます」
これで午前中はほぼ潰れることが確定となった。

「意外と面白かったー」
「十代目が満足なさってなによりです」
本当に嬉しそうな獄寺を見ながら、XANXUSとスクアーロが笑う。
「あいつら初初しいなぁ」
「ああ」
「そろそろお昼ですし、ご案内します」
「うん、よろしくね!」
獄寺が案内したのは、街でも五本の指に入るレストランテだ。
ボンゴレ十代目としてなら、何度か使ったことがあるが、プライベートでは初めてだ。
「こ、こんないいとこ……」
「なにせ十代目とのデートですから!」
いいのかな、と恐縮していると、三人は気にしないで入っていく。
食事が終われば、今度はXANXUS達の番だ。
(XANXUS達のデート、気になってたんだよね)
さっきまでは後ろにいて、会話もほとんど聞こえず、ましてや見ることなど不可能だった。
二人は手を繋いで、いかにも慣れた様子で街を歩く。
周りからは称賛の声が聞こえてくる。
XANXUS達は気にしないようで、
「んで、そん時ベルがよぉ」
「うるせぇ」
そんなことを言いながらも、XANXUSの表情は柔らかい。
「う゛おおい! アイスクリームでも食うかぁ?」
突然、スクアーロが振り返る。
「あ、いいね」
「テメェらは座ってろ」
XANXUSとは目があって、あたふたする。
「お味は何がよろしいですか?」
そして、獄寺の笑顔でダメ押し。
スクアーロと綱吉はベンチに座って、XANXUSと獄寺はアイスクリームを買うために、キッチンカーへ向かう。
「意外に世話焼きなんだね、XANXUS」
「俺はあの小僧がお前の側を離れたことが意外だがなぁ」
「だから獄寺君は」
「これは美しい!」
綱吉が言いかけたことと、違う声が被る。
「こんな可愛い子と美人が一緒にいるなんて危ないよ」
「よかったら、最高に美味しいエスプレッソをごちそうさせてくれない?」
(これは……、ナンパ?かな?)
日本とは声のかけられ方が違うのと、自分達は男と認識されているのか?という疑問、スクアーロはどうするつもりなのか、と色んなことが頭を回る。
「あ、あの、俺達、男だし」
「え? そっちのお姉さんも?」
「見えないねえ」
相手の一人が、スクアーロの肩に手を置くと、それを振り払う。
「お前らじゃ、まともなエスコートは無理だろぉ」
「本当に男!?」
「しかも声がかなり」
そこまで言って、二人の動きが止まる。
一人の頭にはアイスクリームが、一人の頭には銃口が向いている。
「テメーら! 十代目になにしてやがる!」
「それは俺の女だ。完璧に決まってるだろ」
(XANXUSと獄寺君の言ってることが違いすぎる…)
これでも怯まない男などいるはずもなく、
「すいません、十代目。俺が目を離したから」
「大丈夫だよ」
「それにアイスが」
と、綱吉の前にはアイスクリーム。
「食うんだろ」
「あ、ありがとう、XANXUS」
アイスクリームとXANXUSという絵面は面白いものだったが、なんとか笑わずに受けとることができた。
「無事か」
「あ、ああ。助かったぜぇ」
XANXUSがスクアーロに何かを囁くと、スクアーロが真っ赤になる。
「お、お前! そういうことは!」
「普段から言ってやると、調子にのるだろ」

数日後--。
「ダブルデート、よかったなぁ」
「どこがだぁ!」
あの後は結局、なにをするわけでもなく、散歩をして、ホテルに泊まり、それぞれ帰宅した。
「XANXUSがあんなにカッコいいとは思わなかった」
「ボスはいつもああだぞぉ」
(いつもあんな美男美女かぁ。そりゃあ、振り向くよね)
「あ、獄寺君、今XANXUSの所行ってるはずなんだけど」
「そういういやぁ、ボスも来客があるとか言ってたなぁ」
「一応お客さん扱いだと嬉しいんだけど」
「客扱いはしねぇだろうなぁ」
「やっぱり」
「あいつが人を客人扱いしてんの見たことねぇぞぉ」
(デートの時は、本当にスマートだったのに)
「またやろうね」
「二度としねぇ!」