おばあちゃんの死
あまりにも急なお別れだった。お世話していたおばあちゃんが、慢性腎不全のため亡くなった。前日まで車椅子でお散歩が出来たのに、火曜日の朝下血がひどくなり胸の苦しさで話も出来なくなった。私が着いた夕刻には意識が混濁し、名前を言っても知らないというふうに首を振っていた。夜には息をひきとった。家族に見守られ安らかに…きれいな死に顔だった。看護士さんが口、鼻、肛門に綿を詰め、私は温かいお湯で体を拭いてあげた。腎不全は体内の老廃物がうまく排泄しないため皮膚が痒くなる。熱いお湯で清拭してあげると「熱くて気持ちいい」と言ってくれた。少し体が浮腫んでいたので太ももなどは娘の様に肌が張りつめて、90歳近い人とは思えない程だった。もともと肌のキメが細かく背中を触ると指が吸い付く様で羨ましいくらいだった。だけどもうその肌に血は通わない。今にも瞼を開けそうだったので、ずっと目を見ていた。けれど開くはずもなく、時がたつほど顔の皮膚は白く冷たくなっていった。それなのに布団の中のお腹はいつまでも暖かだった。白い着物に包まれ、みんなに抱えられて高いベッドから畳の上の布団に降ろされ、白い布を顔に掛けられた小さな御遺体が出来上がった。悲しみは…その時点ではそれ程でもなかった。ただ一人の人間の死というものに向き合ったのは初めてだった。


