白(芥川龍之介)×シンデレラ

 

 或秋の夕時です。体も心もきれいに整えたシンデレラは、家の仕事を全て終わらせていました。勿論、お継母様やお義姉様はとうに舞踏会に行っています。いや、今は誰一人村に残っているものもありますまい。ひっそりした裏庭の芝生の上にも、唯高いモミの木の頂に白い月が一輪浮かんでいるだけです。

 シンデレラは、磨かれた窓の前に、水仕事に濡れた手をやすめました。それから瞬く星を相手にこういう独語を始めました。

 

 「神様!神様!わたしは両親を亡くしました。わたしの身の美しさも、大かた両親のおかげかと思っています。しかしわたしはお父様を失ってから、あらゆる苦労をして来ました。それは一つには何かの拍子にお母様譲りの絹のように美しい顔を見ると、不幸を否定する気が起こったからです。

 けれどもしまいには美しいのが嫌さに、――この美しいわたしを汚したさに、或は煤の中へ飛びこんだり、或は又鼠と触れ合ったりしました。が、不思議にもわたしの美しさはどんな汚れにも染まりません。汚れもわたしの顔を見ると、何処も浄化されてしまうのです。

 わたしはついに恵まれる余り、舞踏会へ行きたいと欲しました。唯舞踏会に行くについても、唯心に浮かぶのは可愛がって下すった両親です。勿論お父様やお母様は聖夜にもわたしの姿を見ると、きっと又憐れだと思うでしょう。ことによればお父様の憐みのために幸福を与えられるかもしれません。しかし、それも本望です。

 神様!神様!わたしは両親に感謝する故に舞踏会に行きたいです。その為に今夜はいそいそと家の仕事を片付けました。どうか夜の更ける前、舞踏会に行かして下さい」

 シンデレラは独語を云い終ると、はっきりと目を見開いて、その光景に驚いてしまいました。

 

 

「きれいだねぇ、王子」

「どこの誰だろう?お父様」

 シンデレラは王子様の前にすーっと目を閉じました。聞けば王子様や王様は、シンデレラの前に佇んだまま、嬉しそうに、誉め言葉を並べ合っています。

 シンデレラはもう一度閉じた目を又開きました。お父様やお母様もシンデレラが初めてドレスを着た時には、やはり今のように喜んだものです。あの時の嬉しさを思い出すと、――シンデレラは今では舞踏会に来たことを後悔する気さえ起りました。

 するとその途端です。お義姉様が突然飛び上がると、大声にこう叫びました。

「お母様!お姉様!灰かぶり姫が舞踏会に来ましたよ!」

 灰かぶり姫が!シンデレラは思わず振り返りました。すると逃げるとでも思ったのでしょう。王子様は両手を延ばしながら、しっかりシンデレラの手を握りました。同時にシンデレラは王子様の目へ、じっと彼女の目を移しました。

 王子様の目には青い瞳にありありと、大広間が映っています。高いモミの木の覗く窓のあるゴシック調の大広間が、――そんなことは当然に違いありません。しかしその大広間にはありありとお母様にそっくりな女性が一人佇んでいるのです。清らかに、ほそぼそと。――シンデレラは唯しみじみとこの女性の姿に見入りました。

「おや、手が荒れているね」

 王子様はシンデレラを抱きしめたまま義姉を見つけました。

 義姉は――御覧なさい義姉の厚かましいのを!

「へっ、私だって痩せればそのくらい!」

 

 

 

とぅびこんにゅ

 

「貴女の名前は何と云うのです?」

「私の名前はシンデレラ(灰かぶりエラ)と云うのですよ」

「シンデレラ――ですか?灰かぶりと云うのは不思議ですね。貴女はこんなにも綺麗じゃありませんか?」

 シンデレラは胸が一ぱいになりました。

「それでもシンデレラと云うのですよ」

 

(ナポ公と白のここのやり取り、読んでるこっちもすごく胸が一ぱいになる)

 

次回、

『幼少期のナポレオンをいじめっ子から助けていた世界線のシンデレラ』