セコンドアウト! -207ページ目

母ちゃんが騙された!<4>

母ちゃんが騙された!<3>からのつづき

 長らくお付き合いいただいた「母ちゃんが騙された!」も、今回でようやく最終回!

 完全な思いつきで、壊れたと思い込んでいた息子のケータイに電話した母ちゃん。これを1つ目の奇跡とするのなら、2つ目の奇跡は母ちゃんが電話をしたタイミングだ。
 もし今回の事件が1日ズレていたら、母ちゃんが私のケータイに電話をした時間帯は、私は後楽園ホールにいて必死に試合の原稿を書いている頃だ。当然、電話には出られず、仕事が終わってからかけ直すことになるのだが、相手が母ちゃんだと仕事が終わるくらいの時間は寝ている可能性が高いため、翌日かけ直すというパターンになる可能性が高い。

 もしそうなっていたら“ニセJ”からの電話のほうが先になり、母ちゃんは“ニセJ”を実の息子と信じたまま、より一層騙されていたかもしれない。
 とにもかくにも母ちゃんが突然好奇心を抱き、たまたま私が家にいたタイミングに、私のケータイに電話をかけたことで、「具合が悪くて、ケータイをトイレに落とした。ひとまず新しいケータイに変えたが、明日もう一度病院に行く」という電話をしてきた私の名を名乗る男は、実の息子ではないことが判明! 厳密には振り込め詐欺なのかどうかは分からないが、ひとまず母ちゃんのケータイ番号を教えてしまったくらいの被害で済んだのだった。

 ようやく事態が飲み込めた母ちゃんだが、振り込め詐欺らしき電話がかかってきて、まんまと電話の相手を息子だと信じてしまったことと、自分のケータイ番号を教えてしまったことの悔しさから若干興奮気味。
 だが、ふと翌日の午前中にまた“ニセJ”から電話がかかってくることを思い出し、「どうしたらいい?」と不安気に聞いてくる。そこで私は面倒だったり、不安だったりするなら無視して、“ニセJ”の電話番号と共に今回のことを警察に話せばいい。電話に出るのなら「アンタが息子じゃないことは分かってるのよ! 警察に連絡したからね!」と怒鳴りつけるもよし、演技をする自信と余裕があるなら、“ニセJ”を息子だと信じている体でそのまま話に乗っかって、向こうの情報(銀行口座とか)を聞き出すもよしとアドバイスしてみた。

 その日はひとまずそこで母ちゃんとの電話を切ったのだが、翌日の午前中、母ちゃんから再び連絡があり、「向こうから電話がかかってきた!」と報告があった。
 結局、母ちゃんは“ニセJ”からの電話に出た上、何と無謀にもまだ息子だと信じている体で、何かしら情報を引き出そうと相手の話に乗ろうとしたらしい。しかし大阪のオバちゃんほど達者でない、ウチの母ちゃんでは百戦錬磨の相手側にあっさりと気付かれたようで、すぐに電話は切られたそうだ。

 「え、気付かれたの? やっぱり素人の演技じゃダメか。どんな会話したの?」と私が訪ねたら、何でも母ちゃんは「Jだけど……」と再び私の実名を名乗ってきた“ニセJ”に対し、「体の具合はどうなの? 大丈夫?」と心配(する演技)をしてみせたのだが、その後症状を伝える“ニセJ”に対して、すべて「ハイ」「ハイ」と敬語で相づちを打っていたらしい。
 さらに何かの会話の中で「ウチの息子がね……」とポロッと言ってしまったらしい。実の息子に向かって「ウチの息子が」と言うわけもなく、その瞬間“ニセJ”は突然電話を切ってしまったそうだ。残念ながらウチの母ちゃんは女優になりきれず、向こう側の情報を引き出すことは出来なかった。大阪のオバちゃんたちは偉大である。しかし母ちゃん曰く、もう完全に別人だと分かっているのに、電話の向こうから聞こえる“ニセJ”の声は私の声に似ているとのこと。さすがに偶然だと思うが、ちょっと気持ち悪い……

 以上が今回の事件の全容である。事件というわりには金を振り込んじゃったわけでも、犯人側の情報を引き出せたわけでもないので、とんだ肩すかしだったかもしれない。だが、この手の騙しの手口はどんどん巧妙化していることは確かで、ウチの母ちゃんも「あとになって考えてみれば、違うなって思う部分はいくつもあるんだけど、最初に息子の名前を名乗られた上に『具合が悪い』と言われると、動揺して信じちゃうもんね」としみじみ語っていた。そのことを皆さんにも覚えておいていただきたい。
 ちなみにウチの母ちゃんは「もう騙されない!」と息巻いているが、忘れた頃に同じような電話がかかってきたらまた騙されちゃうような気がするので、ちょいちょい連絡して警告しておかないとなぁ。

この項おわり