地球科学への窓(1)潮汐現象の謎

地球科学への窓(1)潮汐現象の謎

私たちが住んでいる地球には様々な自然現象があります。その中には身近な減少であるにもかかわらず、教科書の説明では十分に理解できない減少がいくつかあります。潮汐はその代表です。潮汐現象の矛盾を明らかにして、潮汐に関する新しい仮説を紹介します。

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 前回は、一般的によく知られている潮汐の説明には重大な矛盾があることを指摘しました。引き続いて、今回はその矛盾を解決する新しい説明の仕方について考察します。
 まず強調しておきたいことは、潮汐現象は純粋に力学的な自然現象であるということです。実際の潮汐は海洋地形や地球の自転などの影響を受けて極めて複雑な様相を呈していますが、力学的現象であれば力学的な原理による説明ができるはずです。
 これまでの潮汐研究の方法論には2つの系統があります。1つは、問題をできる限り単純化して、力学原理から演えき的に追求する流れです。単純化するために、地球全体が一様な深さの海で覆われた単純な仮想地球を想定して、これに力学的原理を適用して潮汐現象の本質に迫っていきます。潮汐を初めて力学的に論じたニュートンの理論はその代表であると思います。高校地学教科書や科学啓蒙書の説明もニュートンにならって、仮想地球の潮汐を扱っています。この方法は力学的な仕組みについて説明していますが、観測地点ごとの実際の潮汐を完全に説明しているわけではありません。むしろ、できないと言ってもいいと思います。これから私が提案する強制振動仮説も方法論的にはこの系統に属しています。
 他の1つは、実際の観測データから帰納的に数学的モデルを導く方法で、実際の潮汐のデータを潮汐をいくつかの周期の波として数学的に説明します。実際の観測データに基づいているので、各地の潮汐現象を数学的に予測することができます。しかし、これによって仮想地球における潮汐現象の力学的原理が明らかにできるかというと、必ずしもそうではないと思います。
 潮汐の原因となる起潮力(潮汐力)には2つの物理的性質があります。一つは力としての「大きさと向き(ベクトルとしての性質)」であり、他の一つは約12時間の周期で規則的に作用する「周期性」です。ニュートン以来の潮汐論は前者に属すものが圧倒的に多く、周期性に注目した説明は極めて少ないのが現状です。私が知る限りでは、周期性に注目した最初の潮汐研究は、福住康治氏が2001年に「物理教育」に発表した論文だと思います。福住が論文を発表してから間もなく20年になりますが、ほとんど注目されていないのは不思議でなりません。起潮力の周期性に注目したその他の研究者としては、その他に中野徹氏やTadashi  TOKIEDA氏など、私を含めても数名しかいません。

(1)強制振動
 周期的な外力が作用すると物体は振動します。強制振動とよばれるこの振動は物理学の基本的な原理の一つです。潮汐の場合には、約12時間周期で作用する起潮力が外力、海洋が物体(振動体)と当たります。潮汐を周期的に作用する起潮力によって発生した強制振動であると考える仮説が強制振動仮説です。
 強制振動の特別な場合である共振や共鳴を除いて、中学校理科や高校物理では一般的な強制振動について学習することはありません。大学で物理学を学んだことのない人にとっては、強制振動は耳慣れない概念ではないでしょうか。

 しかし、強制振動は私たちの日常生活にも関係のある自然現象の一つです。最近になって防災面から注目されるようになった、地震による建物の揺れは強制振動なのです。東北地方太平洋沖地震では耐震設備の完備した東京や大阪の超高層ビルが大きく揺れましたが、この揺れがまさに強制振動なのです。
 強制振動を特徴づける最も重要な物理量は振動数です。すべての物体には揺れやすい固有の振動数があります。これを固有振動数といいます。外力が周期的に作用する場合には、外力の振動数があります。固有振動数をf、外力の振動数をfとすると、2つの振動数の大小関係によって、強制振動は次の3つに分けることができます。
  ①外力の振動数fが物体の固有振動数f0より小さい(f<f0 )場合は、振動体は外力と同じ振

  動数で同じ向きに振動する(同位相の振動)。
  ②外力の振動数fが物体の固有振動数f0に等しい(f=f0)場合は、振動体の振幅が無限大に

  なる(共振または共鳴)。
  ③外力の振動数fが物体の固有振動数f0より大きい(f>f0)場合は、振動体は外力と同じ振

  動数で逆向きに振動する(逆位相の振動)。
 振動台を用いた簡単な実験によって強制振動の特性を確かめることができます。下の写真は、振動台にアクリル製の振動体を固定して振動させて、その様子を長時間露出で撮影した写真です。左端の写真は静止した状態、左から2番目は振動台がゆっくり振動しているとき揺れを表しています。アクリル棒がほぼ並行に写っているのは、振動体が振動台と同じ向きに振動していることを示しています。これは①の同位相の振動に当たります。3番目の写真は、振動台の振動数が振動体の固有振動数に等しくなったときの振動を示しています。振動体が大きく揺れているのは②の共振していることを示しています。振動台の振動をさらに速くすると、振動体は台の揺れについていけなくなって振幅が急速に小さくなります。ここで注目して頂きたいことは、アクリル棒がX字形にねじれたような形を呈していることです。アクリル棒がX字型を呈するのは、振動台が右に動いたときには振動体は左に動いて、台と振動体は互いに逆向きに振動しているためです。これが③の逆位相の振動に当たります。

(2)潮汐現象への適用
 では、潮汐現象に強制振動仮説を適用すると、どのようなことが考えられるでしょうか?
 起潮力は約12時間の周期で規則的に作用しています。この起潮力が外力に、海洋が振動体に当たります。問題を単純化するために,水深5000mの海で全体が一様に覆われた仮想地球を想定し、南北方向の運動やコリオリの力の影響は考えないことにします。よく知られているように、月の起潮力は月が南中している地点とその反対側で最大となります。地球は約24時間の周期で自転しているので、地球上の各地点は最大起潮力の位置を1日に2回通ることになります。したがって、起潮力の振動数は1日当たりにすると2となります(f=2.0)。
 一方、海洋の固有振動数はどのように推定できるでしょうか?干潮と満潮が1日に2回起こることから、潮汐波の波長は地球の円周の半分の約20000mと考えることができます。潮汐波は水深に比べて波長が極端に長い浅海波と呼ばれる波に当たります。浅海波の速度は水深と重力加速度によって決まることが分かっているので、水深5000mの海洋を進む潮汐波の速度を計算すると、毎秒約220mとなります。

 高校の物理基礎で学習するように、波の速度、波長、振動数の間には、速度=振動数×波長の関係が成り立つことが分かっています。この式に速度として毎秒約220m、波長として約20000mを入れて計算すると、水深5000mの海洋の振動数f0を求めることができます。1日当たりの振動数で表すと0.86となります(f=0.86)。
 以上の理論的考察から、水深5000mの仮想地球で起こる潮汐現象は③のf>f0 に当たり、起潮力と潮汐との関係は下図のように逆位相となるはずです。したがって、月が南中している所とその反対側が干潮となり、90度離れた所が満潮とあります。これは、気象庁のホームページや高校地学教科書などで説明されている通説とは全く逆の関係になっています。太平洋沿岸では月の南中時刻と満潮時刻との間に半波長に当たる約6時間のずれがありますが、強制振動仮説においては「ずれ」ではなく本来の潮汐の姿を現していることになります。この問題について次回以降のテーマにしたいと思います。