ジョンと初対面の日からおよそ1週間後の10月4日の土曜日。僕は普段は月~金の勤務で土日は休みなのだが、以前にも書いたようにこの週はサイモンから土日のシフトに入ってくれと頼まれていたため、夕方からシフトに入った。キッチンに着くと、そこでは既にジョンが勤務を開始していたのだが、すぐに様子がおかしいのがわかった。ジョンの雰囲気が先週会った時と明らかに違うのだ。
ジョン:「悪ぃけど、今日の俺はイライラしてるからよぉ、気ぃつけてくんな」
どうやらこの日は特に忙しいらしく、ジョンは落ち着いた口調を保っていられないほどストレスが溜まっているらしい。この口調は僕に対してだけでなく、他の同僚に対しても同じだった。例えばウエイターに対して。僕のキッチンハンドとしての仕事は皿洗いだけでなく、シェフに指示された食材を冷蔵室から取ってきたり、野菜の皮を剥いたり切ったりと食材の準備をしたりと複数の仕事が割り当てられているのだが、この日のように忙しいと、同時進行が難しくてどれかの仕事の進行状況が遅れ気味になったりする。そんな時にウエイターから、「ショーン、スプーンとかフォークとかってまだ磨き終わってないかな?」と催促が来たりすると、ジョンは「今こいつは俺の手伝いをしてるんだ。スプーンやフォークなら勝手にそこから取ってってくんな!」とちょっと荒い返事をする。まぁその後で一応「悪ぃな、今日はイラついてるモンだからよぉ。個人的な恨みがあってこういう態度取ってんじゃねぇんだ」とフォローは入れてくれているのだが。
そして客の入りがさらに増え、忙しさのレベルが更に上がってくると、ジョンのイライラは最高潮に達した。そして僕はジョンからこのような質問をされた。
ジョン:「おい、ロケットってわかるか?」
ロケットとは、アブラナ科キバナスズシロ属(エルーカ)の1種の、葉野菜・ハーブである。地中海沿岸原産の一年草だ。日本ではイタリア料理の普及とともに一般に知られるようになったため、英語名: rocket (または roquette) よりもイタリア名ルッコラの方が知名度が高い。(Wikipediaより引用)
だが、当時の僕はロケットが何なのかが全くわからず、わかりませんというしか選択肢はなかった。すると既に今まで十分イラついていたジョンの表情が更に険しくなり、氷のような冷たい目つきに豹変した。プッツンときてしまったらしい。こう見えても俺は占い師のはしくれ。わかる、わかるぞ。この男はデンジャラスだ。今日はA型のあなたはついていません…(´・ω・`)ショボーン。
ジョン:「もういい!俺が自分で取ってくる!!」
今にも八つ当たりで何かを殴りそうな勢いで、ノッシノッシと歩いて自分で食材を取りにいくジョン。この後もジョンの近寄りがたいオーラは変わらず、周りの同僚もみんな腫れ物に触らんとするような態度だった。
そして翌日の日曜日。この日も出勤してキッチンに到着すると、そこにはジョンがいるではないか。昨日相当怒らせちゃったし、この日1日一緒に働くのが憂鬱だな~と思っていたら、ジョンがショボーン(´・ω・`)とした顔で僕の方に近づいてきた。昨日の事を謝りに来たのだ。
ジョン:「ショーン、昨日はあんな失礼な態度をとってしまって本当に申し訳なかった。あまりにも忙しくてストレスが溜まっていて自分自身をコントロールできていなかったんだ。」
僕:「いやいや大丈夫ですよ。こちらこそあんな忙しかった時に役に立てなくて申し訳ないです」
ジョン:「いやいや、君は悪くないんだから気にしなくていいんだ。まだ入ってきたばかりだし、わからない事が多いのは仕方のない事だからね。これから働きながらじっくりいろいろ覚えていこうね。今はもう日曜の夕方だから、客もそんなに入ってこないし焦らずに仕事ができるさ!^^」
そう言うと、ジョンは初めて会った時の笑顔に戻り、その日1日は前の週のようにジョンは一つ一つの仕事を優しく丁寧に教えてくれた。昨日のブチ切れで何故ペイヴァンがジョンの来る前日にあんなに「今度来るボスには気をつけろ」みたいな事を僕に言っていたのかがわかったが、ペイヴァンが恐れていたジョンのブチ切れも、事前通告+アフターケア付きのなんともご丁寧なものではないか。確かに先週ジョン自身が言っていた「部下には我慢強く接しないとね^^」という宣言はあっさりと破られたし、キレた時はヤバかったが、ジョン本人も自分自身の事をよくわかっているし、それを事前に部下にも伝えてくれるし、爆発が終わった後もちゃんとフォローが入る。一応周りの人の事も考えてくれている。確かにキレられている間は気分のいいものではないが、これだったら働き続けられそうだ。