このアパートに引っ越してきて数日。そういえばボンド(デポジット)も家賃も誰にも払ってないし、そもそも大家さんにも会っていない。どうなってんだろう。このまま何食わぬ顔してタダでここに滞在し続けられないかな~などと都合のいい事を考えていたその矢先、僕の携帯にテキストメッセージが届いた。「Hi!このアパートの大家のスターリンです。これ、ショーンの携帯の番号で合ってるかな?近々ボンドや家賃の事も含む、このアパートの事に関する説明をいろいろしたいので、確認の返事をください。」おぉ、やっぱり来たか。そりゃそうですよな。僕は仕事を失ったばかりで暇してたので、その日の内にスターリンと部屋で直接会って話すことに。

予定していた時間になって部屋に入ってきたのは、身長185cmぐらいはある長身の男性だった。アジア系の見た目だが、移民1世のようには見えない。話している感じからして、たぶんオーストラリアで生まれ育ったアジア系移民の2世3世だろう。スターリンはこの部屋のルールなどをいろいろ説明してくれた。家賃の支払いは原則月1回払いで500ドル。最初の月はそれに加えボンド500ドルも払うため、一度に1,000ドル払う事になるが、このボンドの500ドルは部屋を出て行く時に返って来るから、1,000ドル払ってもまだ生活費が十分残っている人にとっては大した問題ではない。水道代とインターネット代は大家であるスターリンが負担するため使い放題。家賃に加えて追加で料金がかかるのは部屋の電気や暖房器具などの電気代ぐらいだそうだ。

部屋を出て行く際は、できれば誰か次に入ってくる人を見つけてくれるとありがたいが、別にいなければいないで、スターリンが自分でAdを出すから、それもそれほど問題でなない様子。「部屋を出る時は次の入居者を見つけてくる」というルールは、アナやリナが勝手に「守らなければいけないルール」にしてしまったものだったようだ。
その他はこのアパートに住むに当たっての注意事項の説明などだった。注意事項といっても、そのほとんどは「アパートのものを壊さないように」とか「真夜中はあまり大声で騒ぎすぎると近所迷惑になるので、そういう事は控えるように」等、別に言われなくても常識でわかるようなもので、そう心配するような事ではなかった。

先述の通りこの時点での僕は無職のため、スターリンとのミーティング後も時間は有り余っていた。同じく暇を持て余していたのは僕と同じく日本からやってきたNさん。日本では保育士をしていたが、仕事を辞めてオーストラリアで1年語学留学をした後でワーホリを開始し、既にセカンドの資格もゲットしている人だ。メルボルンには最近移ってきたばかりで、今は仕事探し中らしい。この時点でまだワーホリ暦1ヶ月ちょいだった僕からしてみればNさんはかなりの先輩。特にファーム探しに関しては貴重なアドバイスをいただいた。

Nさんが言うには、良いファームに辿りつけるかどうかは運の要素もあるが、絶大な力を発揮するのはコネなのだという。例えば、オーストラリアのファーム探しではコリアンワーホリ達のネットワークが凄いらしく、良いファームの情報を持っているコリアンと仲良くなると、割と簡単にそのファームにたどり着ける事もあるらしい。Nさんの場合、語学学校時代にコリアンの仲の良い友達ができ、その友達のおかげで稼げるファームの仕事をゲットする事ができたそうな。

ただし、コリアンネットワークの中でも広く流通するファーム情報と本当にごく限られた人にしか共有されない情報があり、中にはどんなに仲良くなろうとも絶対に教えてもらえない、韓国人同士でしか共有しない秘密の場所もあるらしい。また、日本人相手でもそれが親しい友達であれば教えるが、「この場所を教えるのは君にだけだから。他の誰にも絶対に言わないで」と念を押される場合もあるそうだ。他にもヨーロピアンで単独でファーム探しをして上手い具合に良いファームを見つけ出す人もいるが、そういう人は最初からどのファームに行けばいいのか知っているので、やはり事前にどこのファームに行けばいいのかについての情報がなければ厳しいのだという。

ある程度参考にはなったし、ありがたかったことはありがたかったが、やはりここはあくまで「こういう経験をした人もいるのだ」程度の認識で抑えておくことにした。APLaCでのワーホリ体験談を見ると、語学学校でできたコネを頼らずとも良いファームを見つけ出している人は何人もいたし、先輩1人の話を聞いただけで「ワーホリのファームとはこういうものだ」と先入観を持ってしまうのもどうかとも思ったし。

こういったものの考え方は以前から僕の頭の中にあったことはあったが、APLaCの管理人が書いたエッセイ「サイコロ一振りで何がわかる?」によってより強化されたのだった。僕はこのサイトの管理人が週1のペースで書いているエッセイが個人的にツボで、この「サイコロ一振り」のエッセイは僕のお気に入りのエッセイの内の一つだ。内容を簡単にまとめると、「サイコロを一回振ったら1が出ました。でもたったそれだけで『そうか、このサイコロは1しか出ないサイコロなのだ』と決め付けるのは暴論でしょう?それと同じ様に、オーストラリアでたまたま会ったオーストラリア人1人が嫌な奴だったからといって、それだけでは『オーストラリア人とは嫌な奴ばかりの民族なのだ』と決め付ける十分な根拠にはならない。逆に、たまたま出会った○○人が超良い人だったからといって、それだけでは○○という国の人みんなが良い人であるという保障にはならない」というような事だったと思う。

今回のケースに当てはめると、1人の先輩がコネがないと良いファームを見つけるのはなかなか厳しいと言ったからといって、必ずしもコネがなければ良いファームを見つけるのに苦労するとは限らないという事になる。

この人のエッセイ、時事ネタが出てくることが多いのだが、普通の人ではあまり思いつかなさそうな視点から問題に切り込んで文章を書くので面白い。他にも僕が個人的に好きなエッセイのタイトルは「お客様は人間です」「二度寝JAPAN」「しがみつきコアラ」「ボトム40%こそが大事」「バナナは皮を剥いてから」などいろいろ。最近だとパナマ文書のネタも面白かった。興味のある方はご一読を^^