2週目の水曜日辺りで、もうすぐトニーがこのチームのリーダーでなくなるという話を聞いた。次の週から更に何人か新入社員が入ってくるから週の後半はその新入りの研修等に時間を使う事になるし、それに加えて家庭の事情もあり、もうじきこの会社自体からしばらく離れる事になるらしいのだ。
という事で、この週の金曜日はデックスという男がリーダーとして僕のいるセールスチームを率いる事になった。彼は本名はクリスなのだが、何故かデックスというあだ名をつけられていた。理由は聞いてもよくわからないという。このデックスという男、僕の入社2週目に他のセールスチームからウチの発展途上国支援のチャリティセールスチームに移ってきたのだが、実力は本物で、チーム移動して初日からいきなり契約を4件も取っていた。
そんな実力者であるデックスが、この日の最初の1時間ぐらいは僕と一緒にターフを回ることになった。2週目の金曜日になっても、僕の今までのセールスはトニーが睨みを利かせてくれたおかげでゲットできたあの1件のみで、成績が芳しくないという事で彼が僕につくことになったのだろう。
デックスと一緒にターフを歩いていてまず最初に思ったのは、この男は歩くのがとてつもなく遅いという事だ。以前トニーと一緒にターフを回った時は、彼女の歩きはだいぶ速いと思った。意識的に速く歩く様に気をつけていないとたちまち置いて行かれてしまう。実際、訪問販売においては速く歩くのが鉄則であり、これは午前研修でも中くらいのザンギエフが言っていた。
中くらいのザンギエフ:「お前たち!セールスにおいて、大事な事は何だ?」
洗脳されし従業員の1人:「速く歩く事だ!」
中くらいのザンギエフ:「何故速く歩く事が大事なのだ?」
洗脳されし従業員の1人:「その方がたくさんのドアをノックできるからだ!」
中くらいのザンギエフ:「その通りだ!セールスは数の勝負!より多くのドアを叩けば、より多くの人との接触のチャンスが出てくる!よって勝ち取れる契約の数も上がるというものだ!覚えておけ、ドアとドアの間の移動の際は、速く歩くのだ!いや、むしろ走れ!Sounds good?」
洗脳されし皆の衆「イェーーー!!!」
中くらいのザンギエフ:「オーライ、ファンタスティック!」
とこんな感じである。にも関わらず、デックスの歩きは恐ろしくノロい。こんなんでは数の勝負など絶対に無理だ。そう思いながら彼についていると、何人かと接触の機会があった。実際にデックスの話が始まると、みんな所々入る彼のジョークに笑いながら楽しく話を聞いている。結局僕と一緒にターフを回っている間には契約を勝ち取る所は見せられなかったが、「自分たちはこういうチャリティの活動をしてる組織なんです」という本題に入る前の掴みの部分のテクニックは十分に見せられた。
デックスは僕にこう言った。
「俺の最初の掴みを見てたかい?売り上げには繋がらなかったけど、今まで話した人たちのほとんどとは仲良くなれた。こうしてターフの住人たちと素早く仲良くなる事で自分の話を聞いてもらい易くなるし、最終的にセールスを断られても落ち込まずに楽しい気分で仕事が続けられる。これが大事なんだ。」
なるほど。彼の強みは誰とでもすぐに仲良くなれる事。歩きは確かにとんでもなく遅いから数の勝負はできないが、話している時に好印象を与える事で、よりポジティブなイメージでセールストークを聞いてもらい、契約まで持っていく確立を上げているのだな。
トニーとはまた違うスタイルのお手本とリーダーシップを見せてくれたデックス。これからしばらくは彼がこのセールスチームを率いていくのかと思ったら、次の週には彼はもうリーダーではなくなっていた(引き続き同じチームには所属していたが)。僕の入社3週目に新たにチームリーダーになったのは、デックスと同じく以前は別のチャリティチームに所属していたウェスという人だ。この人はすごく面倒見がよくて包容力のある感じの人で、他の社員達からは「お父さん」(Dad)と呼ばれている。実際、「お父さん」はとても優しいボスだった。もうすぐターフに到着するというタイミングで、部下である僕を励ます時も、
「お父さん」:「ショーン、これまでの君の1日の自己ベストは何件だい?」
僕:「まだ1件です」
「お父さん」:「そうか。でも、僕はこのチームに来てからまだ契約が取れてない。つまり、今の時点では君はこのセールスにおいては自分のボス(0件)より自己ベストが上なんだ。だからもっと自信を持っていくんだ、いいね?」(←この日はこの人にとってこのチームでの初日で、これはターフに着く前の時点での会話だから「お父さん」が契約0件なのは当たり前だが)
とこんな感じだ。仕事が一通り終わった後のボスの一日の総括で一人一人にコメントを残す時も、その語り口はマイルドだ。
「お父さん」:「ショーン、君は今日は契約0件に終わったが、僕は怒ったりしない。なぜなら、君はターフを回っていてなかなか契約が取れなかった時も、何回も僕に電話をしてアドバイスを求めるなど、やるべき努力をやっていたからだ。でも、やっぱりなるべく良い結果を残して欲しいし、僕もそのためにできるだけ手助けをしたい。セールスでいくつか困っている事があれば教えてくれないかい?」
僕:「うーん、やっぱり僕はノンネイティブな上に、まだオーストラリアの英語にそこまで慣れてないので、相手の言ってる事がわからない事があったりして、聞きなおしたりしてると会話がぎこちなくなったりして苦労します。」
「お父さん」:「ショーン、君は確かにネイティブのみんなと比べて言葉の壁があるかもしれないけど、お客さんの前でその事言っちゃってもいいんだよ。『すみません、僕にとって英語は外国語なので』とか言っちゃって全然かまわないさ!その方がきっとお客さんも一生懸命君の話を聞いてくれるよ。俺なんて、この仕事では同じお客さんに2度会うことなどないのをいい事に、入社してから1ヶ月ぐらいは『すみません、僕今日が初日なもので…』とか言い続けてたぞ!ハッハッハッハ!」
契約0件が続いてちょっぴりショボーン(´・ω・`)な僕だったが、「お父さん」の話(特に最後の方)を聞いていて僕まで一緒に笑い始めた。なんていい人なんだ、「お父さん」。
という事で、この週の金曜日はデックスという男がリーダーとして僕のいるセールスチームを率いる事になった。彼は本名はクリスなのだが、何故かデックスというあだ名をつけられていた。理由は聞いてもよくわからないという。このデックスという男、僕の入社2週目に他のセールスチームからウチの発展途上国支援のチャリティセールスチームに移ってきたのだが、実力は本物で、チーム移動して初日からいきなり契約を4件も取っていた。
そんな実力者であるデックスが、この日の最初の1時間ぐらいは僕と一緒にターフを回ることになった。2週目の金曜日になっても、僕の今までのセールスはトニーが睨みを利かせてくれたおかげでゲットできたあの1件のみで、成績が芳しくないという事で彼が僕につくことになったのだろう。
デックスと一緒にターフを歩いていてまず最初に思ったのは、この男は歩くのがとてつもなく遅いという事だ。以前トニーと一緒にターフを回った時は、彼女の歩きはだいぶ速いと思った。意識的に速く歩く様に気をつけていないとたちまち置いて行かれてしまう。実際、訪問販売においては速く歩くのが鉄則であり、これは午前研修でも中くらいのザンギエフが言っていた。
中くらいのザンギエフ:「お前たち!セールスにおいて、大事な事は何だ?」
洗脳されし従業員の1人:「速く歩く事だ!」
中くらいのザンギエフ:「何故速く歩く事が大事なのだ?」
洗脳されし従業員の1人:「その方がたくさんのドアをノックできるからだ!」
中くらいのザンギエフ:「その通りだ!セールスは数の勝負!より多くのドアを叩けば、より多くの人との接触のチャンスが出てくる!よって勝ち取れる契約の数も上がるというものだ!覚えておけ、ドアとドアの間の移動の際は、速く歩くのだ!いや、むしろ走れ!Sounds good?」
洗脳されし皆の衆「イェーーー!!!」
中くらいのザンギエフ:「オーライ、ファンタスティック!」
とこんな感じである。にも関わらず、デックスの歩きは恐ろしくノロい。こんなんでは数の勝負など絶対に無理だ。そう思いながら彼についていると、何人かと接触の機会があった。実際にデックスの話が始まると、みんな所々入る彼のジョークに笑いながら楽しく話を聞いている。結局僕と一緒にターフを回っている間には契約を勝ち取る所は見せられなかったが、「自分たちはこういうチャリティの活動をしてる組織なんです」という本題に入る前の掴みの部分のテクニックは十分に見せられた。
デックスは僕にこう言った。
「俺の最初の掴みを見てたかい?売り上げには繋がらなかったけど、今まで話した人たちのほとんどとは仲良くなれた。こうしてターフの住人たちと素早く仲良くなる事で自分の話を聞いてもらい易くなるし、最終的にセールスを断られても落ち込まずに楽しい気分で仕事が続けられる。これが大事なんだ。」
なるほど。彼の強みは誰とでもすぐに仲良くなれる事。歩きは確かにとんでもなく遅いから数の勝負はできないが、話している時に好印象を与える事で、よりポジティブなイメージでセールストークを聞いてもらい、契約まで持っていく確立を上げているのだな。
トニーとはまた違うスタイルのお手本とリーダーシップを見せてくれたデックス。これからしばらくは彼がこのセールスチームを率いていくのかと思ったら、次の週には彼はもうリーダーではなくなっていた(引き続き同じチームには所属していたが)。僕の入社3週目に新たにチームリーダーになったのは、デックスと同じく以前は別のチャリティチームに所属していたウェスという人だ。この人はすごく面倒見がよくて包容力のある感じの人で、他の社員達からは「お父さん」(Dad)と呼ばれている。実際、「お父さん」はとても優しいボスだった。もうすぐターフに到着するというタイミングで、部下である僕を励ます時も、
「お父さん」:「ショーン、これまでの君の1日の自己ベストは何件だい?」
僕:「まだ1件です」
「お父さん」:「そうか。でも、僕はこのチームに来てからまだ契約が取れてない。つまり、今の時点では君はこのセールスにおいては自分のボス(0件)より自己ベストが上なんだ。だからもっと自信を持っていくんだ、いいね?」(←この日はこの人にとってこのチームでの初日で、これはターフに着く前の時点での会話だから「お父さん」が契約0件なのは当たり前だが)
とこんな感じだ。仕事が一通り終わった後のボスの一日の総括で一人一人にコメントを残す時も、その語り口はマイルドだ。
「お父さん」:「ショーン、君は今日は契約0件に終わったが、僕は怒ったりしない。なぜなら、君はターフを回っていてなかなか契約が取れなかった時も、何回も僕に電話をしてアドバイスを求めるなど、やるべき努力をやっていたからだ。でも、やっぱりなるべく良い結果を残して欲しいし、僕もそのためにできるだけ手助けをしたい。セールスでいくつか困っている事があれば教えてくれないかい?」
僕:「うーん、やっぱり僕はノンネイティブな上に、まだオーストラリアの英語にそこまで慣れてないので、相手の言ってる事がわからない事があったりして、聞きなおしたりしてると会話がぎこちなくなったりして苦労します。」
「お父さん」:「ショーン、君は確かにネイティブのみんなと比べて言葉の壁があるかもしれないけど、お客さんの前でその事言っちゃってもいいんだよ。『すみません、僕にとって英語は外国語なので』とか言っちゃって全然かまわないさ!その方がきっとお客さんも一生懸命君の話を聞いてくれるよ。俺なんて、この仕事では同じお客さんに2度会うことなどないのをいい事に、入社してから1ヶ月ぐらいは『すみません、僕今日が初日なもので…』とか言い続けてたぞ!ハッハッハッハ!」
契約0件が続いてちょっぴりショボーン(´・ω・`)な僕だったが、「お父さん」の話(特に最後の方)を聞いていて僕まで一緒に笑い始めた。なんていい人なんだ、「お父さん」。