赤いドアを開けた瞬間、世界が広がった
新宿ゴールデン街。
細い路地にぎゅっと詰まった飲み屋たちは、まるで東京の裏舞台。
けれどその中でも、ひときわ異彩を放つ店がある。天井から壁まで、びっしりと貼られた紙幣。ドル、ユーロ、バーツ、ウォン、ルピー…見上げれば、世界中の通貨がコラージュのように舞っている。
この店に入った瞬間、ただの飲み屋ではないとわかる。
ここは、旅人たちの記憶が集まる場所。
紙幣はただの装飾じゃない。誰かがここで飲み、語り、笑い、別れた証だ。

🍶 メニューよりも、空気が旨い
テーブルには赤と白の丸椅子、冷蔵庫には「ICE」と「Yakisoba」の箱が積まれ、テレビが静かに流れている。
雑然としているのに、なぜか落ち着く。
まるで、世界中の屋台を一つの部屋に集めたような感覚。

飲み物は定番のビールから、ちょっと変わった地酒まで。
けれどこの店の真髄は、飲み物じゃない。
隣に座った人との会話、店主のぼそっとした一言、壁に貼られた紙幣に書かれたメッセージ。
それらが混ざり合って、ここでしか味わえない“空気”になる。
🗺️ 通貨の天井が語る、見えない旅路
ふと見上げると、天井の一角に見慣れた千円札。隣には、見たこともないアフリカの紙幣。
誰が貼ったのか、どんな旅の途中だったのか。
想像するだけで、グラスの中身が少し甘くなる。
この店は、ただの飲み屋じゃない。
ここは、旅の途中で立ち寄る“交差点”だ。
国籍も言語も関係ない。
紙幣が語るのは、誰かがここで過ごした時間の証。そして今夜、その証に自分も加わる。
✨ ゴールデン街で、世界と乾杯
新宿ゴールデン街は、東京の“夜の博物館”だと思う。その中でもこの店は、世界中の記憶が集まる展示室。

赤いドアを開けて、紙幣の天井の下で飲む一杯は、ただのアルコールじゃない。それは、世界と乾杯するための儀式だ

次に行くときは、ポケットに小さな紙幣を忍ばせておこう。自分の旅の記憶を、あの天井にそっと貼るために
