ふうん、勘でわかるんだってさ。軍人の勘が全部あたるのなら、負ける奴はいない。警官の勘が全部あたるのなら、無実の罪に泣く者はいるはずがないさ。ところが現実はどうだ?戦略には、勘なんか働く余地はない。思考と計算と、それを実現させる作業とがあるだけだ。たとえば、ある方面に100万の兵力を配置するためには、兵力それ自体の他に、それを輸送するハードウェアと、100万人分の食糧と、それらすべてを管理するソフトウェアが必要で、そういったものは勘からは生まれてこない。だから、職務に不誠実な軍人ほど戦略を軽視して、戦術レベルで賭けをしようとする。さらに無能で不誠実な軍人になると、精神論で戦略の不備や戦術の不全をごまかそうとする。食糧や弾薬を補給もせずに、闘志で敵に勝つことを前線の兵士に強要する。結果として、精神力で勝ったということはある。だけど最初から精神力を計算の要素にいれて勝った例は、歴史上にひとつもないよ。・・・・ヤン・ウェンリー