Monster Energy NASCAR Cup Seriesもシャーロット600を終えると
一段落ついた感じになります。
 12戦は全体のちょうど1/3ですし、メモリアル デーという節目であるのも
そういう印象を受ける一因でしょうね。
 というわけでここまでのシリーズを見ての感想です。

 まず、第12戦を終えた時点でのスタンディングスはこうなっています。
  1. Martin Truex Jr., 491 points, 2 wins
  2. Kyle Larson, -5, 1 win
  3. Brad Keselowski, -82, 2 wins
  4. Kevin Harvick, -103
  5. Kyle Busch, -105
  6. Jamie McMurray, -106
  7. Chase Elliott, -129
  8. Jimmie Johnson, -132, 2 wins
  9. Clint Bowyer, -148
  10. Joey Logano, -155, 1 win (プレイオフ進出要件には含まず)
  11. Denny Hamlin, -159
  12. Ryan Blaney, -183
  13. Ricky Stenhouse Jr., -193, 1 win
  14. Kurt Busch, -201, 1 win
  15. Matt Kenseth, -203
  16. Trevor Bayne, -220
  17. Ryan Newman, -225, 1 win
  18. Erik Jones, -235
  19. Daniel Suarez, -245
  20. Kasey Kahne, -247
  21. Austin Dillon, -253, 1 win
  22. Ty Dillon, -286
  23. Dale Earnhardt Jr., -289
  24. Paul Menard, -294
  25. Aric Almirola, -303
  26. Chris Buescher, -319
  27. David Ragan, -333
  28. Michael McDowell, -336
  29. A.J. Allmendinger, -342
  30. Cole Whitt, -352

 既に9人の勝者が誕生し、そのうちジョンソン、トゥルーエックス、
ケゼロウスキーと実力派が順当に2勝を既に挙げています。
 トゥルーエックスはステージ勝利数も多く、現在ポイントでもトップ、
このまま行くとプレイオフ ポイントを保有できるので、ホームステッドに
進む確率が非常に高くなりそう。どこへ行っても速いというのも
大きなメリットです。

 一方でステンハウス、ディロンと初優勝者も現れ、ニューマンも久々に
勝ったために、優勝による自動プレイオフ進出で既に16のうち8枠が
埋まっています。
彼らはいずれもそれぞれ、スーパースピードウェイ、燃費レースの賭け、
ピット作戦の賭け、と展開・条件が味方した結果ではありますが、
昨年のブッシャーと比べると遥かに競争力があり、特に若い2人には
意味のある勝利です。
 なお、昨年もシャーロット終了時点で8人が勝利を挙げていましたが、
今年の顔ぶれにはそのうちの4人≒勝つ可能性のある人たちがまだ
入っていません。今年は優勝でかなりの枠が埋まる可能性がありそうです。

 チームという括りに少し範囲を広げると、チップ ガナッシが好調で、
ラーソンは前戦までポイント リーダー、マクマーリーもまだ勝てていないものの
ポイント6位と好調を維持しており、久々の勝利、プレイオフ勝ち上がりに
期待が持てる内容。ここ数年はこうした顔ぶれが不足しているのが
やや選手権争いを単調にしていたので、楽しみな限りです。
 ペンスキーも好調ですが、やたらと出てくる車検違反が気になるところ。
ウッド ブラザーズ側でもブレイニーは今年勝てる可能性がまだじゅうぶん
あると思われます。ペンスキーが3台目としてブレイニーを迎え入れるのが
動き始めたとの情報もありますが、個人的にはWBRの古典的赤白スキームで
1勝を挙げていってほしいです。

 一方、同じフォードでもスチュワート-ハースはやや苦戦気味。
Mobol1 the Gridを見ていると、やはり昨年まではある程度ヘンドリックから
供給を受けるカスタマーの立場だったのが、今年からシャーシを自製するなど
仕事量が増えて大変だそうで、単純に
「え?NASCARって貼ってるシールが違うだけで同じ車でしょ?」
とはいかない苦労があるようです。
 実際、兄ブッシュがデイトナで1勝したとはいえ、他のトラックでは
最後のあと一歩の詰めのセットが決まっていない印象です。
ただ、ハービックはなんとかかんとか走っていて、そこに今年は
ボイヤーも上位で走れるので、シーズンが進むにつれて調子を上げてくるのでは
ないかと思っています。ダニカさんは、うーん、大丈夫かな。。。

 逆にここ数年不振だったラウシュ-フェンウェイが戦闘力を回復し、
どうやらフォード勢が使用するラウシュ-イェイツ エンジンは現在No.1の様子。
結果的にレースで上位を争える人が増えて厚みが増えたので、今のバランスは
意外と居心地が良いですw


 フォードのエンジンが向上したせいなのか、相対的に埋没しているのが
ジョー ギブスで未だに未勝利。昨年はシャーロット終わりで既に6勝していました。
エドワーズが引退して勝てる人が1人減っている、という以上に
車の出来に一貫性が無く、レースのどこかの場面で速いのに、コンディションが
そこから変わると落ちるケースが見られます。
作戦での空振りも多く、ピット自体は相変わらず驚異の速さなのに
それを生かせていません。シャーロットでは終始好調だったので、
これが本物か、この先数戦で見極めることになりそうです。
 同じトヨタでも提携先にファニチャー ロウはトゥルーエックスが
最強と言っても過言ではない状態なのが不思議なところ。
振り返ればこのチームはシボレー最終年も、親玉のリチャード チルドレスより
遥かに良い車を仕上げていましたから、何か秘密の引き出しがありそうです。
 足の動かし方に関するセオリーあたりで、セッティングの考え方が
他で常識とされているものと全然違うのかな、という気がしますがどうでしょうか。


 レース側に目を向けると、今年は3ステージ制というまさかのルールが
導入されました。現地の本当のところの反応は分かりませんが、
個人的にはブツギレは『読めない』ことが特徴のオーバルに『読める』部分を
作ってしまっていて、本末転倒な感じが未だに拭えません。
 100周目にコーションだから逆算してここでピットで、、、という風に
作戦を縛ってしまい、時折起きる『ズレたサイクルの人が結果的にハマった』
という展開が成立しなくなりました。
 少なくとも現地では「ステージ間のコーションが長すぎるが何とかならんか」
という指摘は多いらしく、対応を検討しているとのこと。
 早くも来年に向けて制度の見直しも検討されているそうで、今の形は
今年限りかもしれません。

 一方でダメージ ポリシーなどと呼ばれる新規則は個人的にはアリです。
ぶつけた重みをちゃんと感じるのは大事ですし、費用削減も大事ですし、
何より、予め加工しておいた綺麗な部品を上から取り付ける、なんて対処、
NASCARらしくありません。男なら修理はハンマーとテープにかぎりますw


 そしてやはり、ジュニアの引退というニュースは外せません。
今年の成績を見ても、もう一度ビクトリー レーンに立てるかと聞かれれば
返答に困るところ。謎のナットのトラブルも続いてストレスも溜まっている
様子です。
 そしてこの話の深刻な部分は、ジュニアのファンだけでなく、
NASCAR全体にとっても大きな損失となる可能性があるということです。

 ちょうどオートスポーツ誌のコラムで取り上げられていたんですが、
NASCARはいわゆるリーマン危機以降、離れたスポンサーが戻り切らず、
観客動員の面でも空席が目立つレースが出てきています。
 ダニカがスポンサーと裁判沙汰になっているのもそうした影響の1つと
言えるでしょうし、SHRはよく『Haas』スキームで走っていますが、
スポンサーがもっと集まったら、わざわざ好んで自社を宣伝しないでしょう。
 テレビ視聴者もまたピーク時には及ばず。NASCARがアメリカの
モータースポーツで一番であるのはゆるぎない事実ですが、絶対的な
ファン層が減少して、いわゆるジリ貧になっています。

 NASCARに限らず、多くのアメリカのスポーツでは、現在は
少し前に結んだテレビ局との大型放映権契約が経営の屋台骨になっています。
 総額数百億円の選手契約、新スタジアム建設、といったものも
放映権収入あってこそ。
 しかし今、アメリカではネットフリックス、アマゾン、といった
動画配信サービスが攻勢をかけ、ケーブル テレビ局との契約を解除する
『コード カッター』と呼ばれる人たちが増えています。
 ドラマ・映画・音楽等と比べると、生放送が大事なスポーツは
その影響を受けづらい、と考えられていましたが、スポーツ専門局である
ESPNでさえ加入者の減少という現実が現れ、一方でアマゾンが
NFLの一部の放映権を獲得するなど、もはやネット系企業による攻勢に対して
防戦一方の情勢です。
 もちろん、ネット企業が現在のCATV局と同等、あるいはそれ以上の
放映権契約をすれば話は別ですが、現行の枠組みにおいて契約が行われる限り、
現在の契約が切れると、次の放映権契約は現在より遥かに金額が低下すると
目されています。
 元々観客動員も視聴率も苦しい中で、放映権料も低下となると、
地盤沈下が加速する恐れがあります。だからこそ、NASCARは
モンスターエナジーという若者に対してアピールできるブランドを
スポンサーに選び、長時間留まって観戦するスタイルが通じない若者に
向けるためステージ制を導入したと考えられます。
 ただ、そうした施策は旧来のファンが受け入れづらいのも事実です。
そしてその昔からのファンの多くがお目当てとしていたのがジュニアであり、
観客動員の柱の一つであったジュニアが去るとなると、
下手をすると旧来のファンが減り、若者は獲得できず、完全にカテゴリーが
空洞化してしまいます。
 残念ながらジュニアの人気に頼らざるを得なかったNASCARが諸問題と共に
一気にそのツケを払わされる形で、カテゴリーの将来へ大きな転機を
迎えたと言って良いでしょう。

 来年に向けても既にカレンダーの組み換えやロード コースでの
レース数増加などが示されていますが、肝心のレース内容が伴っていなければ
どれも小手先の改革に過ぎません。

 幸いにして、今年は多くの勝者によってプレイオフ枠の争いが
多少盛り上がりそうですし、若手にも勝てる可能性がありそうな顔ぶれと
体制が噛み合っているので、注目を集められる素地は整っています。
この先、レギュラー シーズンの残り14戦でいかに面白いレースを見せるか、
が何より大事ですし、NASCARも、来年以降の規則策定も大事ですが、
まず今やっているレースをいかに注目してもらうか、にも注力しないと
いけません。

 若干話題が経済寄りになってしまいましたが、中盤戦も
レースを面白く見て、変だと思ったところはしっかりと批判して、
プレイオフへと進んでいきたいと思います。