1月11日、アメリカ合衆国次期大統領、ドナルド トランプは
大統領選後初めての記者会見を行い、メキシコとの国境にメキシコの費用で
壁を建設するという非常識な主張を改めて述べました。
ちょうど同じころ、ジョー ギブス レーシングの本拠地では
カール エドワーズの引退会見が行われ、後任としてメキシコ人ドライバー、
ダニエル スアレスが起用されることが正式に発表されました。
トヨタはその数日前、トランプからtwitter上でメキシコでの工場建設を
名指しで批判されたことを受けてか、社長の豊田 章男自ら、
自動車ショーの会場で、アメリカに今後5年間で100億ドルを投資すると述べました。
なんだか、トヨタ、メキシコ、という言葉がやたらと交錯しています。
なお、ニュースだけを見ていると、さもトランプに批判されて
トヨタがお金を出すことを決めたかのような報道に見えてしまいますが、
今回の投資額は基本的に元々使う予定があったものを、わざわざ口に出して
宣言しただけで、別に言われたからやったわけではありません。
そして、メキシコ工場の稼働は2019年の予定ですから、トランプ政権が
4年でコケるとしたら、最悪2年我慢するだけです。
他メーカーが投資見送りを表明してしまった中、投資継続はメキシコの人から
支持を得てトヨタに愛着を持って車を買ってもらえるようになる可能性が
十分ありますから、計画を撤回するのは大損だと思います。
トランプほどではありませんが、NASCARにも国境の壁があります。
1980年代以降急速に国際化色を強め、紆余曲折あって今に至るインディーカーに対し、
NASCARは海外にメキシコやヨーロッパといった傘下の選手権がある一方で
(NASCAR Whelen Euro Seriesの2014・2016年チャンピオン、ベルギー人の
アンソニー クンペンはマックス フェルスタッペンの叔父である)
最高峰のカップ シリーズはドライバーのほぼすべてがアメリカ人。
そもそも参加メーカーが基本的にアメリカに限られており、トヨタが参戦しているのは
長年に渡るアメリカでの生産によって多くの雇用を生み出し、下部カテゴリーから
順に進出してNASCARの底辺を支えた結果『アメリカのメーカー』として
認めてもらえた、という側面があります。
また、以前読んだ話では、カップ参戦後も、はやりトヨタが何か少し
優位になった時に、それを封じるような規則の変更があったりして、
アメリカのメーカー優先のカテゴリーであることを感じる、という関係者の声が
ありました。そういう点で、ここ数年のJGRトヨタの活躍は、よりトヨタが
関係を深め、そうした出来事が減少してより競争主義になった、
という部分があるのかもしれません。
こちらブランズハッチで行われたレースの模様。ヨーロッパにもNASCAR
あるんですよ!!w
そんな中で、トヨタ陣営のJGRでメキシコ人のスアレスが参戦します。
スアレスは昨年、メキシコ人ドライバーとして初めてナショナル シリーズ
(カップ、Xfinity、トラックの3大シリーズの総称)で勝利を挙げ、そして
外国籍ドライバーとして史上初めてナショナル シリーズでチャンピオンとなりました。
ナショナル シリーズの歴史において、海外生まれのドライバーによる勝利は延べ
8人で26回しか記録されていません。
(Wikipedia List of foreign-born NASCAR race winnersより)
そもそもこういうページができるぐらいですから、いかに珍しいかが分かります。
中でもカップ シリーズでは
マルコス アンブローズ(オーストラリア) 2
ファン パブロ モントーヤ(コロンビア) 2
マリオ アンドレッティー(イタリア) 1
アール ロス(カナダ) 1
と4人で計6勝のみです。アンブローズとモントーヤはいずれも
勝ったのはロード コースのみで、オーバルに限ると1974年9月のマーティンズビルで
ロスが勝ったのを最後に、外国生まれのドライバーは40年以上誰も勝っていません。
ロスはカナダ人としては史上4位のカップ26戦に出場したドライバーだそうです。
あれ?何でアンドレッティー?というマリオですが、彼は生まれはイタリアなので
定義的にはリストに入ります。イタリアといっても出生地はイタリア領モントナ、
現在だとクロアチアのモトブンという場所だそうなので、イタリア本国でも
ないんですが。
ただ、彼がデイトナ500で自身唯一の勝利を挙げた1967年には彼は既に
アメリカに帰化していたので、勝った時点ではアメリカ国籍のドライバー、
印象としても彼が外国のドライバー、という印象は無いでしょう。
アンブローズもモントーヤも、他カテゴリーを経て、ある程度ロード コース
スペシャリスト的な立場でNASCARに参戦していましたし、
パトリック カルパンティエー(カナダ)も2008年にほぼフル参戦したとはいえ
彼もフォーミュラー畑で実績を積んできた人。
スアレスのようにバリバリにストック カー畑で上がってきた
(16歳だった2008年にメキシコの小排気量の下部カテゴリーに参戦し
史上最年少優勝記録を樹立)海外出身のカップ ドライバーというのは
非常に珍しいケースです。
当然ですが、他所から来た人のように、オーバルでは慣れが~、とか、
独特のレースへの適応が~、とかいうことは心配ありません。
そして所属チームも最初から勝てる体制でのいきなりの大抜擢、ということに
結果的になってしまいました。
それだけに、今までそびえてきた『国境の壁』を打ち壊す可能性が大いにあり、
おそらくメキシコやカナダで未来のカップ ドライバーを
目指す人にとってスアレスは大きな希望だと思います。
上記トランプ政権の話題とも相まって、トヨタ車でメキシコ人が
活躍することがあるとメキシコでのトヨタ熱というのは非常に盛り上がる
可能性がありますから、トヨタ的にも活躍を望んでいるかもしれません。
もちろん、いくら速い車でも、年間に36回もレースをやっていても、
簡単に勝たせてもらえないカテゴリーであることはここ数年デビューした
若手たちを見ても明らかですから、結局何年か勝てずにシートを失った、
なんてことにならないとも限らないわけですが、最高峰に挑む
メキシコ人ルーキーに今年は大いに注目です。