各種モータースポーツのピット作業をまとめたこんな動画があります。
ちょっと古い時代の映像で、F1がV8だったりNASCARも1世代古い車両ですが。

 さて、F1のピット作業はもはや3秒以下の勝負となり、その早さには
驚くばかりですが、NARCARのピット作業もまた驚くべき早さです。
ここでは先日のカール エドワーズの失敗作業を見ながら解剖してみます。

 この動画の10秒あたりからを、再生速度を落としてゆっくり見ていただくと
よく分かります。

 NARCARでピット ボックス内で作業できるのは7人。
タイヤ キャリアーとチェンジャーが各2人、ジャッキ マンとガス マンが1人ずつ。
そしてウインドウ シールドをはがしたりドライバー補助しかできない
「エクストラ」が1人です。

 NARCARではクルーが予めボックスで車を待ち構えることはできず、
ウォール内で待たないといけません。規定の位置(正確な規則忘れました^^;)
に車が達した瞬間から許可されるので、みんな一斉に飛び出して持ち場に着きます。

 作業人員が少ないのでタイヤは片方ずつ交換、まずは右からです。
キャリアーはタイヤを抱えてボックスに飛び出し、エアー ジャッキもないので、
ジャッキ マンは素早くジャッキ アップ。チェンジャーは
素早くタイヤを外しにかかります。

 ここでかなりありえないのがタイヤの着脱。ナットはセンター ロックではなく、
市販車型の5穴式。まず外すときはナットを次々と緩めて、自然のままナットは
地面にばらまきっぱなしです。
 そして装着する方のナットは、というと予め接着剤でホイールにいわば「仮止め」
しておき、装着したら言うなれば接着剤ごと強引に締めていきます。
5穴なので手元が狂って1つ締め損ねてる、なんてことはたぶん多々あります。
ひたすら練習あるのみ。ピット裏でも練習している光景がよく映ります。

 その間に左後ろでは給油を行います。「給油装置」なんてものはありません。
「給油缶」です。力持ちがかつぐしかありません。

 タイヤを換えたらジャッキとチェンジャーは左側へダッシュ。
キャリアーはタイヤを運び、ウォール側にいるクルーとタイヤの受け渡しをします。
 タイヤは抱えて運ぶのが優等生ですが、適度に転がしても手元で「ドリブル」
できていれば容認。うっかり手元を離れて完全に転がして「パス」したり、
ボックス外に転がるとペナルティーです。
 また、この動画では、後輪を後輪チェンジャー→ジャッキ マン→前輪チェンジャー、
とリレーして、前の人が2本運んでいます。
 チームや作業内容によって変えたりするようですが、後輪担当はアジャストの
仕事も兼ねるので手が空くようにする工夫と思われます。

 この右→左の移動のタイミングで、ガス マンは給油缶を外して後ろを向き、
2缶目に交換。後ろを向いて受け渡ししている間にリアのチェンジャー
(と、タイヤを持っていない場合キャリアー)が、車と人の間を抜けて最短距離で
持ち場に到着。動きが合わないとぶつかる見事な連携です。
 GT5のNASCARピット ストップの撮影ステージではこの辺が再現されておらず、
(給油缶を1本しか使っていない)見ることができません)

 左も同じ手順で換えたらジャッキを落として発進。直前まで
手が空いた前のキャリアーが、以前紹介した「グリル テープ」を貼ったり、
後ろでアジャストのレンチを回していたりします。
 給油缶もギリギリまで挿しているので抜きそこねたら大変です。

 発進時はクルーも車を押して手助け。で、ここで上に書いた要素のうちの
1つが問題となります。
 タイヤを外す際にばら蒔いたナットを、特に後輪がすごい勢いで蹴散らして
出て行くのですw
 これ、結構危ないらしくて、小さいとはいえ、足なんかに当たるとかなり
痛いそうです。もちろんクルーは元々安全のためのスーツを着ていますから、
別に短パンを履いた素足のスネに当たるわけではないんですが、
まあ他のレースじゃああり得ないことです。
夜間レースだと火花が散るので結構綺麗だったりしますがw

 先日のミシガンのレースでは、右2本交換の際に給油速度を優先させるため
キャリアーを1人減らして、替わりに給油に2人割り当てて、缶の取り換えを
早くするという涙ぐましい時短作戦まで登場しました。

 缶とか5穴とか、普通のトップ級レースではあり得ないやり方で、それでいて
12秒を切るような早さで車を送り出すNASCARのピットは本当にすごいと思います。
ド ライバーの方も、車にピット用のリミッターが存在せず、速度計も
付いていないので、予め決めたとおりに「2速で○○回転」というように
指定された回転数で走るしかありません。今どきはインジケーターがあるので
回転を維持するのはそんなに難しくありませんが、万一事前の設定が間違ってると
何回ピットに入っても100%違反なので疑心暗鬼になりますw
 やってることはむちゃくちゃなのに、細かく見ていくとすごい繊細、というのは
レース内容と共通、そうでなければ勝てません。

 他にも、ぶつけて凹んだ箇所はハンマーで叩いて元に戻す、
ピットから出るときに平気で車が数台並走する(そしてたまにぶつかる)、
ちょうどピット出口辺りで事故って、1周するのが大変なぐらい車が壊れたら
ピットを逆走してガレージへ行く、など非常識なことが山ほど。
 そして、今年から登場したさらに非常識なのが「監視カメラ」。
 
 昨年までは作業違反を監視するのは各ピットごとに常駐するオフィシャルでしたが、
狭い場所に人が増えると危ないし見落としもあるので、今年からなんと
全43台のピットを1台1台全て監視できるようカメラを設置。
スタンド側から撮影しており、クルーの飛び出しが早すぎないか、
タイヤはきちんと運ばれているか、作業手順に違反がないか、全て丸わかり。
さらに、速度制限に対する監視も厳しくなり、一切のズルは許さないし、
証拠もバッチリで決定に文句を言わせない、という体制を作り上げました。
MLBのビデオ判定システムもそうですが、そういう時代なんですかね。